FALL

渡里あずま

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想い、すれ違い

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 個人情報の漏洩を防ぐ為、職場にはスマートフォンなどの私物を持ち込めないし持ち出せない。だから、早生達は出退勤の時には必ずロッカーへと向かう。
 私物を置くだけなので、男女分かれてはいない。そして、ちょっとした休憩でもスマートフォンを見る為、ロッカーに来る者もいるので――結果、女性達が話しているのを聞くともなく聞く事があった。

「さっき、井原さんに助けて貰ったよ」
「良かったね。あの人聞きやすいし、欲しい答えをこう、パッと教えてくれるもんね」

 そんな風に時折、日向の話題がのぼる事がある。
 大体は『上司に対する高評価』で、早生も嬉しく思っていたのだが――ある日から、そうも言っていられなくなった。

「友達に聞いたけど井原リーダー、彼女いないってよ」
「本当!?」
「うん。足立リーダーとよく一緒にいるけど、あっちはちゃんと彼氏いるって」
「頑張りなよ、茜……デビューするの難しいんなら、尚更さ? 職場違っちゃうと、接点無くなるよ?」

 今、日向が教えている新人達は研修期間なので、少し早く退社になる。
 その為、夕方からの出勤である早生達とロッカーで会う事があり。
 その中の、若い(早生と同年代か、少し上くらいだろうか?)女性達数人が――いや、どうやら茜と呼ばれる一人が、日向に想いを寄せていて。友人らしい二人が、そんな彼女を応援しているようなのだ。そう、ちょうど今のように。
(確かに『彼女』はいないけど……僕は『彼』だし)
 そこで、早生はふと引っ掛かった。
 日向と付き合うようになってからは、顔を出していないが――職場での飲み会で、同僚や先輩の話を聞く事があり。写真を見せたり、盛大に惚気るのは稀だが、恋人がいるいないくらいは聞かれたら答える。
(そりゃあ、男と付き合っているなんて馬鹿正直に言う必要は無いけれど)
 聞いた方も答えた方も、お互い気まずくなるだけだ。けれど今、日向と付き合っている早生としては誰かから聞かれた場合、恋人がいるとだけは答えるつもりである。
(下手に答えて、追及されないように……僕と付き合っているってバレないように、気を遣ってるのかもしれないけれど)
 しかし人伝ひとづてとは言え、いないと言われると何だか付き合っている事自体を否定されている気がした。
 これ以上は聞きたくないと思い、ふと休憩室へと目をやると――当の本人である日向が、話に上っていた未来と話をしていた。

「……日向さん」
「なっ……」

 未来が喫煙スペースに向かったところで、近付いて声をかけた。下の名前を呼んだ事で、日向が驚いたように顔を上げる。いつもなら気にならない事も、今日はひどく癪に障った。

「今夜、あなたの家に行きます」

 二人きりになれば、話して終わりという訳にはいかない。だが男同士の場合、抱かれる日向への負担が大きいので、会うのはお互いの休みが合う日か日向の休みの日前日と決めていた。
 けれど、明日はどちらもシフトが入っていて――反対されるのを振り払うように、早生は踵を返して休憩室を後にした。
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