FALL

渡里あずま

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壊れそうなくらいに2

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「……っ!」
「えっ……?」

 気付けば、早生は日向を床に敷かれたカーペットへ押し倒していた。
 驚いたと言うより戸惑った声を上げた日向が、目を丸くして早生を見上げてくる。けれど、それ以上の抵抗はしてこない。
 ……流石に、ここまでされたら普通は暴れたり、それこそ殴る蹴るで抵抗すると思う。
 思うが一方で、前回も口ではともかく激しい抵抗はされなかったので――最後の理性を振り絞って、早生は口を開いた。震える声で、必死に言葉を紡いだ。

「ごめんなさい、好きです……我慢出来ないです、ごめんなさい……嫌だったら、駄目だったら逃げて下さい。そうじゃないと、このまま抱いてしまいます」
「……早生?」
「あなたの家なんですけど、ごめんなさい、僕からは離れられない……好きです。あなたに触れたい。突き飛ばすでも、蹴り上げるでもして逃げて下さい。そうしたら、ちゃんと帰りますから……ごめんなさい」
「早生っ!」

 視線すら逸らせないまま、押し倒した相手に身勝手な事を訴える。
 刹那、大きな声で名前を呼ばれたのに思わず肩が跳ねたが――日向の両手が早生の頬に触れてきたのに、今度は早生の方が目を丸くする番だった。

「落ち着け……ってか、俺の方こそ悪かった」
「……あの」

「不安にさせちまったか? 俺も……お前の事、好きだ。俺こそ男だし。胸も尻もないからお前の事、気持ち良くさせてやれるか解らねぇけど……それでも、いいの」
「はい!」
「早いなっ……んじゃ、まずはこれからな?」

 顔を覗き込まれ、初めて日向から気持ちを言葉にされて尋ねられたのに最後、被せるように返事をする。
 それに突っ込みを入れ、早生の視線の先でその目を笑みに細めると――更に引き寄せられ、初めて日向からキスをしてくれた。



 まずはこれから、つまりはちゃんと順番に。
 また暴走する前に、早生達は隣の部屋に――二人分の布団が敷かれた、日向の部屋に移動した。そしてまた、今度は早生の方から口付けた。
 重ねて、次第に深く交わし。もっと触れたくて相手の服を脱がし出すと、日向も応えて早生の服を脱がせていった。互いの体に手を這わせながら、けれど僅かの時間も惜しくてシャツを脱ぐ間にも日向の耳や首筋に触れる。

「あの……さ。我慢しなくていいんだぞ? 俺に気使わなくても、好きなように」
「……してます。言ったでしょう? あなたに触れたいって」

 先程の訴えのせいか、そう日向に促されたが答えた言葉に嘘はない。
 抱きたいのも本当だが、とにかく日向に触れたい。
 その気持ちを伝え、キスが出来なくなっては困るので口で咥えるのはかろうじて堪えると、早生は相手の昂ぶりに指を絡めて扱いた。
 芯が通り、代わりに下肢から力が抜けたところで潤滑剤のパウチを取り出す。そして口で封を切ると相手の下肢、その奥へと垂らしてそっと指を埋め込んだ。

「……っ!」

 内側を弄って、押し広げる為に掻き回す。その度に立つ濡れた音に、ギュッと目を閉じた日向の耳や首元が真っ赤になる。
 年上ではあるが、男相手は初めてな相手の初心な反応に煽られ、それでも乱暴にするのだけは堪えながら早生は二本目の指を滑り込ませた。
 ……後ろを探られて萎えそうになった昂ぶりへ、宥めるように指を絡めて。
 傷つけないように気をつけながら、更に一本指を増やして内(なか)を探り押し開く。もっとも抱く自分が傷つけないように、なんて偽善でしかない。

「早、生……」

 自嘲していた早生の耳に、日向の声が届く。その何かを耐えるような響きに、やはり辛くなったのか――気持ちはあっても、嫌になったのかと思った早生だったが。

「もう……大丈夫、だから……」
「えっ……」
「……早、く」

 そこで言葉は切れたが、恥ずかしさに再び赤くなり、目を伏せた日向に続く言葉を理解する。
 頭が真っ白になり、自分の頬にも熱が集まるのを感じながら、何とか指を抜いて用意していた避妊具をつける。
 それから先端を押し当てると、日向を壊さないようにと考えながら少しずつ、少しずつ昂ぶりを押し進めていった。
 息が荒い。鼓動が早い。それこそ、心臓が壊れてしまいそうだ。
(……壊れるのは、僕だけでいい)
 そう思う一方で、今は駄目だと思い直したのは――受け入れられて手に入れたと言うのに、それでも不安だったからだ。
 好きだという日向の気持ちを、ここまでされて疑うつもりはない。しかしこうして繋がって結ばれたと言うのに、それでもどこかで日向との壁と言うか距離を感じるのだ。
 別の人間なのだから、完全には一つになれないのかもしれないが、それでも。
(伝えよう……日向さんは相手の気持ちは解っても、自分の気持ちはなかなか表に出さないみたいだから。僕から伝えて、こうして触れて……日向さんに、振り向いて貰おう。この距離を、もっともっと縮めよう)
 そうして、全てを埋め込んだところで――シーツを握る相手の手に自分の手を重ね、祈るように早生は日向の唇に口付けた。
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