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伝えないけど
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「んぅ……っ」
深い口付けの中、舌を捕らえられて吸われるのにたまらず声が上がる。
羞恥のあまり、咄嗟に相手を押し退けようとしたが相手はビクともしない。伸し掛かられているこの体勢のせいもあるが、思った以上にショックだったのか上手く力が入らないのだ。
結果、されるがままの日向の舌を味わっていた早生が、やっと唇を離す。
「震えてますよ?」
「……知るか」
「僕が怖い? 嫌いになりました?」
謝られるのではなく、質問されたのに日向は咄嗟に言葉に詰まった。同性にキスされたのに、そのどちらでもない事に今更ながらに驚いたのだ。
そんな日向の瞳をひた、と見据えて早生が口を開く。
「僕は、あなたが好きです」
「……えっ?」
「なのにあなたは、気付いてくれない。僕が男を好きになるって、知ってるくせに」
「だって、お前は……」
知ってはいた。ただし同時に、早生に好きな相手がいる事も知っていた。それで、どうやって気付けと言うのか?
(そりゃあ、瓢箪から駒って言うけど……あんなに、好きだったのに?)
そんな考えが顔に出たのか、早生が一瞬、けれど確かに怯む。
「あなたの事が好きだって、解って下さい」
だがキッパリとそう言うと、早生は彼の首筋に唇を寄せて押し当てた。
それが下へと滑る感触に、再び身じろぎをしたが――早生は止めず、逆にYシャツのボタンを器用に外してきた。
「ふ……っ、ぅん……っ」
前を開かれ、中のシャツを捲られて胸や脇、腹を舐められ、吸い付かれる。
決して未経験と言う訳ではないが、男がそんなところを触られる事なんてない。それ故、思いがけず声が上がっては、慌ててそれを噛み殺した。情けないが、声を抑えるだけで精一杯でそれ以上の抵抗まで頭が回らなかった。
「……なっ!?」
……けれど、倒れていた体を不意に抱え起こされ。
荒ぶっている相手の熱を押し付けられるのには、流石にマズイと思った。
「落ち着けよ、久賀……これ以上したら、洒落にならない」
「無理です」
「久賀っ」
「好きな相手を前にして、無理です!」
話を聞かない相手に焦れて声を上げたが、それ以上の怒鳴り声が返された。勢いに負けて呆然と見返した日向に、早生が泣きそうな表情(かお)で言う。
「……最後までは、しませんから」
「待っ……!」
一瞬、その表情に呑まれた隙にファスナーを降ろされ、直に掴まれた。更に取り出された相手の熱を押し当てられ、一緒に握り込まれるのにビクンッと体が跳ねる。
(ダ……メだ、ダメだダメだダメだっ)
脳内の悲鳴に反して、腰の力が抜ける。そのくせ、早生の掌に包まれた欲はしっかり刺激に応え始めている。
……こんな形で、自分の気持ちに気付かされるなんて。
相手の思惑とは異なるだろうが、ここまでされて嫌いにも憎くもならない――むしろ、ここまで自分を求めてくれて嬉しいと思ってしまう辺りで、早生を好きだったのだと自覚せざるを得ない。
だが、と一方で日向は思うのだ。
(今は、好きだって言ってても……結局は、惚れた相手が一番なんだろう?)
秘密の恋の相談が出来なくなった自分は、ただのつまらない男だ。すぐに飽きられて、振られてしまうだろう――昔、告白されて付き合った彼女のように。
泣きそうになるのと、本格的に喘ぎそうなのを堪える為に、日向は目の前の早生のシャツに噛み付いて目を閉じた。
(早く……早く、終わってくれ)
祈るように、縋るようにそう思う日向を、早生の指と熱が追い立ててくる。その刺激が脳を、相手の荒い呼吸や淫らな水音が耳を灼く。
「っ……!」
やがて包まれた掌の中で熱が弾け、日向が待ち望んだ終わりが訪れる。
互いの昂ぶりが濡れた瞬間、涙が零れないように日向はグッとシャツを噛む歯に力を込めた。そして、詰めていた息を吐き出すと顔を上げた。
「はぁ……あのなぁ、久賀。他の奴にンな強引な事したら、本気で訴えられるぞ?」
良くてセクハラ、悪くて強制わいせつ罪だ――好きな相手同士での行為でなければ。
呆れたように、けれど笑ってそう言うと早生の目が大きく見開かれる。そして張り詰めていた気が緩んだのか、目の前でポロポロと泣き出した早生を愛しく思いながら、日向はその涙を拭ってやる為にティッシュの箱を手に取った。
(泣くなよ、笑っててくれよ……俺が、傍にいるからさ?)
たとえ、一時の気の迷いだとしても――早生が、日向の事を手放すまでは。
深い口付けの中、舌を捕らえられて吸われるのにたまらず声が上がる。
羞恥のあまり、咄嗟に相手を押し退けようとしたが相手はビクともしない。伸し掛かられているこの体勢のせいもあるが、思った以上にショックだったのか上手く力が入らないのだ。
結果、されるがままの日向の舌を味わっていた早生が、やっと唇を離す。
「震えてますよ?」
「……知るか」
「僕が怖い? 嫌いになりました?」
謝られるのではなく、質問されたのに日向は咄嗟に言葉に詰まった。同性にキスされたのに、そのどちらでもない事に今更ながらに驚いたのだ。
そんな日向の瞳をひた、と見据えて早生が口を開く。
「僕は、あなたが好きです」
「……えっ?」
「なのにあなたは、気付いてくれない。僕が男を好きになるって、知ってるくせに」
「だって、お前は……」
知ってはいた。ただし同時に、早生に好きな相手がいる事も知っていた。それで、どうやって気付けと言うのか?
(そりゃあ、瓢箪から駒って言うけど……あんなに、好きだったのに?)
そんな考えが顔に出たのか、早生が一瞬、けれど確かに怯む。
「あなたの事が好きだって、解って下さい」
だがキッパリとそう言うと、早生は彼の首筋に唇を寄せて押し当てた。
それが下へと滑る感触に、再び身じろぎをしたが――早生は止めず、逆にYシャツのボタンを器用に外してきた。
「ふ……っ、ぅん……っ」
前を開かれ、中のシャツを捲られて胸や脇、腹を舐められ、吸い付かれる。
決して未経験と言う訳ではないが、男がそんなところを触られる事なんてない。それ故、思いがけず声が上がっては、慌ててそれを噛み殺した。情けないが、声を抑えるだけで精一杯でそれ以上の抵抗まで頭が回らなかった。
「……なっ!?」
……けれど、倒れていた体を不意に抱え起こされ。
荒ぶっている相手の熱を押し付けられるのには、流石にマズイと思った。
「落ち着けよ、久賀……これ以上したら、洒落にならない」
「無理です」
「久賀っ」
「好きな相手を前にして、無理です!」
話を聞かない相手に焦れて声を上げたが、それ以上の怒鳴り声が返された。勢いに負けて呆然と見返した日向に、早生が泣きそうな表情(かお)で言う。
「……最後までは、しませんから」
「待っ……!」
一瞬、その表情に呑まれた隙にファスナーを降ろされ、直に掴まれた。更に取り出された相手の熱を押し当てられ、一緒に握り込まれるのにビクンッと体が跳ねる。
(ダ……メだ、ダメだダメだダメだっ)
脳内の悲鳴に反して、腰の力が抜ける。そのくせ、早生の掌に包まれた欲はしっかり刺激に応え始めている。
……こんな形で、自分の気持ちに気付かされるなんて。
相手の思惑とは異なるだろうが、ここまでされて嫌いにも憎くもならない――むしろ、ここまで自分を求めてくれて嬉しいと思ってしまう辺りで、早生を好きだったのだと自覚せざるを得ない。
だが、と一方で日向は思うのだ。
(今は、好きだって言ってても……結局は、惚れた相手が一番なんだろう?)
秘密の恋の相談が出来なくなった自分は、ただのつまらない男だ。すぐに飽きられて、振られてしまうだろう――昔、告白されて付き合った彼女のように。
泣きそうになるのと、本格的に喘ぎそうなのを堪える為に、日向は目の前の早生のシャツに噛み付いて目を閉じた。
(早く……早く、終わってくれ)
祈るように、縋るようにそう思う日向を、早生の指と熱が追い立ててくる。その刺激が脳を、相手の荒い呼吸や淫らな水音が耳を灼く。
「っ……!」
やがて包まれた掌の中で熱が弾け、日向が待ち望んだ終わりが訪れる。
互いの昂ぶりが濡れた瞬間、涙が零れないように日向はグッとシャツを噛む歯に力を込めた。そして、詰めていた息を吐き出すと顔を上げた。
「はぁ……あのなぁ、久賀。他の奴にンな強引な事したら、本気で訴えられるぞ?」
良くてセクハラ、悪くて強制わいせつ罪だ――好きな相手同士での行為でなければ。
呆れたように、けれど笑ってそう言うと早生の目が大きく見開かれる。そして張り詰めていた気が緩んだのか、目の前でポロポロと泣き出した早生を愛しく思いながら、日向はその涙を拭ってやる為にティッシュの箱を手に取った。
(泣くなよ、笑っててくれよ……俺が、傍にいるからさ?)
たとえ、一時の気の迷いだとしても――早生が、日向の事を手放すまでは。
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