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一縷
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リカルドのことは、憎んでいる。いや、リカルドだけではない。ノヴァーリス以外のアデライトの周り、いや、この王都にいる者全てが彼女にとっては復讐対象だ。
だが、しかし。
十月十日アデライトがこの身に宿し、数日前に生まれ落ちた我が子は巻き戻る前にはいなかった。貴族以上であれば、赤ん坊に乳を与えたり面倒を見るのは乳母である。だから、アデライトが会いに行かなければ自分の息子には会えない。
……適当な理由をつけて、会わないことも出来たけれど。
自分の子供であり、復讐相手であるリカルドの子供に対しては、生かすことをノヴァーリスに頼んでいたが──こうして会って、どう思うかを知ろうとアデライトはやって来た。そして、今。乳母に少し席を外して貰い、アデライトと息子は二人きりだ。
生まれてまもない赤ん坊は眠っていることが多いが、まるで彼女を待っていたように息子は起きていた。
(髪は、私やお父様と同じ白銀……そして、瞳は)
寝台を覗き込んだアデライトを、見上げてくる瞳はリカルドと同じ黒──アデライトの異母弟とは逆だが、同じように両親の色をそれぞれ引き継いでいる。
「どう思う?」
しばし黙って息子を見ているアデライトに、付いてきて隣で浮いているノヴァーリスが尋ねてくる。
その問いかけに、少し考えて──アデライトは、思ったままを口にした。
「……不思議なくらい、憎くはないです。こうして触っても、リカルドへのような嫌悪感はありません」
そう言いながら、アデライトは息子の丸い頬を指先でそっと触れた。半分はあの男の血を引いており、顔も自分よりリカルドに似ていると思うが、言葉にした通りリカルドに触れた時のような嫌悪も憎悪もなかった。
「ただ……異母弟の絵姿を見た時のような、愛しさも感じないです」
「なるほどね」
淡々と答えるアデライトに、ノヴァーリスはそれだけ答えながら考える。思えば裏切られたアデライトは家族や領民などの『身内』と、リカルド達『復讐相手』を区別している。そして、この生まれたばかりの息子はアデライトにとって、そのどちらでもないのだろう。
「……私がこの子に望むのは、私のように自分のやりたいように生きることだけです」
「へぇ?」
「愛してはいませんが、憎くもないので……不幸になることは、望みません。私が復讐することで、この子の未来は明るくはないでしょうが……それでも、生きていれば何だって出来ますから」
「そうだね」
ノヴァーリスが手を貸すのは、アデライトにだけだ。だから今、彼はただアデライトの話を聞いてあいづちをうつだけだし、彼女もそんなノヴァーリスに対して何かを求めることはない。ただ、聞かれたままに答えただけである。
けれど、いや、だからこそ。
指一本触れることなく、ノヴァーリスは『アデライトの望み』を叶える為に、彼女の息子に加護を与えた。
そして物心つく前に処刑された親から離され、教会で育った彼──リカルドが、アデライトの名前を元につけた『アリックス』は王となり、国と民に寄り添ったのである。
だが、しかし。
十月十日アデライトがこの身に宿し、数日前に生まれ落ちた我が子は巻き戻る前にはいなかった。貴族以上であれば、赤ん坊に乳を与えたり面倒を見るのは乳母である。だから、アデライトが会いに行かなければ自分の息子には会えない。
……適当な理由をつけて、会わないことも出来たけれど。
自分の子供であり、復讐相手であるリカルドの子供に対しては、生かすことをノヴァーリスに頼んでいたが──こうして会って、どう思うかを知ろうとアデライトはやって来た。そして、今。乳母に少し席を外して貰い、アデライトと息子は二人きりだ。
生まれてまもない赤ん坊は眠っていることが多いが、まるで彼女を待っていたように息子は起きていた。
(髪は、私やお父様と同じ白銀……そして、瞳は)
寝台を覗き込んだアデライトを、見上げてくる瞳はリカルドと同じ黒──アデライトの異母弟とは逆だが、同じように両親の色をそれぞれ引き継いでいる。
「どう思う?」
しばし黙って息子を見ているアデライトに、付いてきて隣で浮いているノヴァーリスが尋ねてくる。
その問いかけに、少し考えて──アデライトは、思ったままを口にした。
「……不思議なくらい、憎くはないです。こうして触っても、リカルドへのような嫌悪感はありません」
そう言いながら、アデライトは息子の丸い頬を指先でそっと触れた。半分はあの男の血を引いており、顔も自分よりリカルドに似ていると思うが、言葉にした通りリカルドに触れた時のような嫌悪も憎悪もなかった。
「ただ……異母弟の絵姿を見た時のような、愛しさも感じないです」
「なるほどね」
淡々と答えるアデライトに、ノヴァーリスはそれだけ答えながら考える。思えば裏切られたアデライトは家族や領民などの『身内』と、リカルド達『復讐相手』を区別している。そして、この生まれたばかりの息子はアデライトにとって、そのどちらでもないのだろう。
「……私がこの子に望むのは、私のように自分のやりたいように生きることだけです」
「へぇ?」
「愛してはいませんが、憎くもないので……不幸になることは、望みません。私が復讐することで、この子の未来は明るくはないでしょうが……それでも、生きていれば何だって出来ますから」
「そうだね」
ノヴァーリスが手を貸すのは、アデライトにだけだ。だから今、彼はただアデライトの話を聞いてあいづちをうつだけだし、彼女もそんなノヴァーリスに対して何かを求めることはない。ただ、聞かれたままに答えただけである。
けれど、いや、だからこそ。
指一本触れることなく、ノヴァーリスは『アデライトの望み』を叶える為に、彼女の息子に加護を与えた。
そして物心つく前に処刑された親から離され、教会で育った彼──リカルドが、アデライトの名前を元につけた『アリックス』は王となり、国と民に寄り添ったのである。
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