悪女と呼ばれた聖女が、聖女と呼ばれた悪女になるまで

渡里あずま

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切札 ※ノヴァーリス視点※

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 一回目の人生では、冤罪により同じく無実の父と共に斬首され――そんなアデライトはノヴァーリスに、巻き戻った人生での復讐を誓った。
 そしてその第一歩として父親には領地に帰りたいと、そしてノヴァーリスにはサブリナを破滅させると伝えたアデライトだったが。
 そこで不安そうに視線を揺らし、アデライトはノヴァーリスに尋ねてきた。

「……ただ、努力はしますが……私のことを、リカルドはずっと『亡霊』だと蔑んできました。この髪と目の色では、難しいでしょうね」
「えっ?」
「不気味な色だ。辛気臭いと……目の色は難しいでしょうが、髪の色は適当な理由をつけて、染めなくては」

 そんなことを言う少女に、ノヴァーリスはパチリと目を見開いた。本当に、この人間の娘は何を言い出すか解らない。
 高熱を出して寝込んでいたので多少、乱れてこそいるが、ゆるやかに波打つ白銀の髪は月の光、あるいは山の新雪を。透き通った蒼い瞳は北の空や氷を思わせる。ただただ美しいと思うし、不気味だの辛気臭いだの、負の言葉は全く浮かばない。しかも今は、七歳と幼いのもあり美しいだけではなく、可愛らしさもある。

(一回目では、照れ隠し? ……いや、まず親から押し付けられた婚約者が気に食わなくて、思いつく限りの悪口を言ったのか)

 それでもアデライトだけが傍にいれば、いずれは彼女の美しさに気付いたかもしれない。しかし、一回目を確認してみると王立学園に入るまで、年に一回ではあるがサブリナと会っていて。サブリナの金髪や緑の瞳を好ましく思ったので、偶然だが正反対の色合いを持つアデライトを事あるごとに貶したようだ。
 くだらない。そう一蹴し、ノヴァーリスはにっこりとアデライトに笑いかけて口を開いた。

「私は、君の髪の色も目の色も、美しいと思うよ」
「えっ……? で、ですが、他の生徒や侍女達も」
「単に、王太子が言ったからそちらに引っ張られただけさ。月の光のような白銀の髪も、北の空を思わせる蒼い瞳も、私はとても美しいと思う」

 大切なことなので、ノヴァーリスは二回言った。何なら、これからもずっとアデライトを褒めようと決意した。

(だって、本当にアデライトは美しいから)

 それなのに、リカルド達のような馬鹿に不当に貶められ、自信を失うなんて馬鹿げている。
 そう思ったノヴァーリスの視線の先では、困りながらも何とか反論しようとアデライトが口を開いたり、閉じたりしている。

「あの、でも」
「神である、私の言うことが信用出来ない?」

 だから、ノヴァーリスは切り札を出した。
 効果は覿面で、アデライトは照れて赤くなった顔を俯かせ――小さな声で、けれど確かに「ありがとう、ございます」とお礼を言った。
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