悪女と呼ばれた聖女が、聖女と呼ばれた悪女になるまで

渡里あずま

文字の大きさ
上 下
61 / 73

偽踊

しおりを挟む
 一回目では、アデライトが知るのは断罪ここまでだった。今回のサブリナのように、パーティー会場から連れ出されたからだ。
 けれど、巻き戻ってから予想はしていた。サブリナを王太子妃にしたいのなら、断罪の後に場を収めようと動いただろう。
 ……そう、おそらく今のように。

「アデライト嬢」
「はい」
「一曲、踊ってくれないだろうか?」

 アデライトの前に立ち、断罪したのと同じ口でダンスに誘ってくる。眩しい笑顔で、アデライトに手を差し出す。言葉だけは疑問形だが、アデライトに断られるとは思っておらず自信満々だ。
 先程、アデライトのことを「王太子妃に相応しい」と口を滑らせていたが、流石に新たな婚約の話は父であるウィリアムを通さなければいけない。とは言え、こういった場で二回以上踊れば、恋人や婚約者など心に決めた相手と見なされる。おそらくだがそうして、外堀を埋めてくると思われる。
 話を戻すが目の前のリカルドだけ見れば、見目が良いので物語や芝居のようである。しかし、もう一度言う。一回目と違い、冤罪ではないにしてもリカルドは、子供の頃からの婚約者であるサブリナを情け容赦なく切り捨てたのだ。
 とは言え、内心はともかくリカルドの行動を咎める者はいない。
 他国からの来賓はともかく国王夫妻や貴族達、あと卒業生などこの場に居合わせた者達は、リカルドとアデライトが結ばれることを望んでいる。アデライトがサブリナより優秀だと、巻き戻ってからずっと見せつけてきた結果でもあるが。

(嫌なものから目を背けて、罪悪感を誤魔化す為に『真実の愛』に飛びつきたいんでしょう?)

 一回目のようにこの後、サブリナ達を斬首するつもりなら尚更だ。いくら罪を犯したからと言え、これから人を殺そうとしているのだから。

(その為に、私を利用するなんて腹が立つけれど……応えてあげる。あなた達の為ではなく、私の為に)

 王太子妃、そして王妃となってサブリナだけではなく、この場に居合わせている者達全てに復讐する為に。

「はい、リカルド様」

 心の中でそう決意すると、アデライトは緊張しつつも決意した表情を『作り』リカルドの手を取った。
 そんなアデライト達を祝福するように、パーティー会場に音楽が流れ始める――定番のこの曲を、けれど一回目に冷遇されていたアデライトが、リカルドと踊ることはなかった。

(巻き戻った今回は、何回もノヴァーリスと練習したけれどね)

 声に出さずにそう言うと、アデライトはリカルドと踊り出した。
 ……流石に下手ではないが、ノヴァーリスと踊った方が上手だったし、楽しかったと思いながら。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄をされた悪役令嬢は、すべてを見捨てることにした

アルト
ファンタジー
今から七年前。 婚約者である王太子の都合により、ありもしない罪を着せられ、国外追放に処された一人の令嬢がいた。偽りの悪業の経歴を押し付けられ、人里に彼女の居場所はどこにもなかった。 そして彼女は、『魔の森』と呼ばれる魔窟へと足を踏み入れる。 そして現在。 『魔の森』に住まうとある女性を訪ねてとある集団が彼女の勧誘にと向かっていた。 彼らの正体は女神からの神託を受け、結成された魔王討伐パーティー。神託により指名された最後の一人の勧誘にと足を運んでいたのだが——。

追放された魔女は、実は聖女でした。聖なる加護がなくなった国は、もうおしまいのようです【第一部完】

小平ニコ
ファンタジー
人里離れた森の奥で、ずっと魔法の研究をしていたラディアは、ある日突然、軍隊を率いてやって来た王太子デルロックに『邪悪な魔女』呼ばわりされ、国を追放される。 魔法の天才であるラディアは、その気になれば軍隊を蹴散らすこともできたが、争いを好まず、物や場所にまったく執着しない性格なので、素直に国を出て、『せっかくだから』と、旅をすることにした。 『邪悪な魔女』を追い払い、国民たちから喝采を浴びるデルロックだったが、彼は知らなかった。魔女だと思っていたラディアが、本人も気づかぬうちに、災いから国を守っていた聖女であることを……

この野菜は悪役令嬢がつくりました!

真鳥カノ
ファンタジー
幼い頃から聖女候補として育った公爵令嬢レティシアは、婚約者である王子から突然、婚約破棄を宣言される。 花や植物に『恵み』を与えるはずの聖女なのに、何故か花を枯らしてしまったレティシアは「偽聖女」とまで呼ばれ、どん底に落ちる。 だけどレティシアの力には秘密があって……? せっかくだからのんびり花や野菜でも育てようとするレティシアは、どこでもやらかす……! レティシアの力を巡って動き出す陰謀……? 色々起こっているけれど、私は今日も野菜を作ったり食べたり忙しい! 毎日2〜3回更新予定 だいたい6時30分、昼12時頃、18時頃のどこかで更新します!

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

本物の聖女じゃないと追放されたので、隣国で竜の巫女をします。私は聖女の上位存在、神巫だったようですがそちらは大丈夫ですか?

今川幸乃
ファンタジー
ネクスタ王国の聖女だったシンシアは突然、バルク王子に「お前は本物の聖女じゃない」と言われ追放されてしまう。 バルクはアリエラという聖女の加護を受けた女を聖女にしたが、シンシアの加護である神巫(かんなぎ)は聖女の上位存在であった。 追放されたシンシアはたまたま隣国エルドラン王国で竜の巫女を探していたハリス王子にその力を見抜かれ、巫女候補として招かれる。そこでシンシアは神巫の力は神や竜など人外の存在の意志をほぼ全て理解するという恐るべきものだということを知るのだった。 シンシアがいなくなったバルクはアリエラとやりたい放題するが、すぐに神の怒りに触れてしまう。

実家から絶縁されたので好きに生きたいと思います

榎夜
ファンタジー
婚約者が妹に奪われた挙句、家から絶縁されました。 なので、これからは自分自身の為に生きてもいいですよね? 【ご報告】 書籍化のお話を頂きまして、31日で非公開とさせていただきますm(_ _)m 発売日等は現在調整中です。

聖女追放 ~私が去ったあとは病で国は大変なことになっているでしょう~

白横町ねる
ファンタジー
聖女エリスは民の幸福を日々祈っていたが、ある日突然、王子から解任を告げられる。 王子の説得もままならないまま、国を追い出されてしまうエリス。 彼女は亡命のため、鞄一つで遠い隣国へ向かうのだった……。 #表紙絵は、もふ様に描いていただきました。 #エブリスタにて連載しました。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

処理中です...