悪女と呼ばれた聖女が、聖女と呼ばれた悪女になるまで

渡里あずま

文字の大きさ
上 下
60 / 73

破棄

しおりを挟む
「サブリナ・ロイド! 王太子である私の婚約者という地位を笠に着た暴虐、もはや看過出来ん! お前との婚約は今、この場をもって破棄とする!」
「っ!?」

 パーティー会場に響き渡ったリカルドの声に、居合わせた者達は息を呑み、何事かと声の主に目を向けた。
 大広間でサブリナに近付き、声を上げたのは王太子・リカルド。その背後には、数人の側近が控えている――アデライトはその隣にいないが、それ以外は一回目と同じである。

「リカルド様……暴虐だなんて、私は何も……」

 一方、婚約破棄されたサブリナは突然のことに青ざめながらも、何とかこの場を収めようとしていた。
 そもそも卒業パーティーなのに、退場せずに話を進めるのかとアデライトは内心、サブリナに呆れた。もっとも、リカルドの追求が止まることはなかったが。

「白々しい。勝手に国費に手を出したことが、暴虐ではなくて何になる!」
「なっ!?」
「王室助成金を使い果たし、更に父に金を国費を横領させて贅の限りを尽くした悪女! その悪事を誤魔化す為に、わずかばかりの金を民に配ろうとしたのだろう?」
「そんな……っ」
「ご、誤解です! 娘は民の、いや、この国の為にっ」
「衛兵! この者達を捕らえろっ」
「「「はっ!」」」

 一回目の時のように、冤罪ではない。ノヴァーリスにも確認して貰った。ロイド父子による横領は事実である。
 悪事を暴かれ、しかしサブリナと娘を庇おうとしたロイド伯爵が、その理由――贅沢の為の横領を否定しようとしたが、リカルドに命じられた兵士達によって捕らえられて押さえつけられ、二人は跪かされた。
 以前のアデライトのように、サブリナの薄紅のドレスが兵士に踏まれた。アデライトとは違い、サブリナは媚びるような涙目でリカルドを見上げたが、リカルドはハッと鼻で笑うだけだった。

「悪事を偽善で誤魔化そうなど、恥を知れ! アデライト嬢が、良案を思いついてくれた……彼女こそが、王太子妃に相応しい!」
「リカルド様!?」
「女の浅知恵でございます……でも、お金を使い込んだくせにあなたは何を仰っているのです? 民にとっては、落ち着くまで税を払わない方が良いんです」
「なっ……!」

 リカルドに促され、周囲の視線が向いた中、アデライトはしれっとサブリナから奪い取った案を告げた。しかしそれよりも、勢いに任せてアデライトを新たな婚約者にしようとしていることに気づいたのか、サブリナが声を上げた。

「哀れな方」
「ふざけるな、この泥棒猫っ!」

 その声を、アデライトが制した。言葉同様、同情する視線を向けるとサブリナが緑の瞳をギラギラと光らせて睨み、アデライトに暴言を吐いた。

「フフ、横領した女の台詞じゃないよね」

 宙に浮き、アデライトに寄り添うノヴァーリスの言葉は至極当然である。
 まあ、確かにアデライトはサブリナの思い付きを横取りした。そういう意味では、サブリナの言っていることは間違いではない。
 しかしそもそも自分の金ではなく、国費を使おうとしたことが問題なのだが、サブリナ達は解っていない。
 解っていないから、サブリナは救いを求めて会場の中に視線を巡らせた。
 しかし、リカルドの両親である国王夫妻はそんなサブリナを一蹴した。

「……その罪人どもを、引っ立てよ」
「目障りです」

 二人の言葉に愕然としたところで、サブリナ達父子は兵士達に引きずられるようにパーティー会場を後にした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄をされた悪役令嬢は、すべてを見捨てることにした

アルト
ファンタジー
今から七年前。 婚約者である王太子の都合により、ありもしない罪を着せられ、国外追放に処された一人の令嬢がいた。偽りの悪業の経歴を押し付けられ、人里に彼女の居場所はどこにもなかった。 そして彼女は、『魔の森』と呼ばれる魔窟へと足を踏み入れる。 そして現在。 『魔の森』に住まうとある女性を訪ねてとある集団が彼女の勧誘にと向かっていた。 彼らの正体は女神からの神託を受け、結成された魔王討伐パーティー。神託により指名された最後の一人の勧誘にと足を運んでいたのだが——。

追放された魔女は、実は聖女でした。聖なる加護がなくなった国は、もうおしまいのようです【第一部完】

小平ニコ
ファンタジー
人里離れた森の奥で、ずっと魔法の研究をしていたラディアは、ある日突然、軍隊を率いてやって来た王太子デルロックに『邪悪な魔女』呼ばわりされ、国を追放される。 魔法の天才であるラディアは、その気になれば軍隊を蹴散らすこともできたが、争いを好まず、物や場所にまったく執着しない性格なので、素直に国を出て、『せっかくだから』と、旅をすることにした。 『邪悪な魔女』を追い払い、国民たちから喝采を浴びるデルロックだったが、彼は知らなかった。魔女だと思っていたラディアが、本人も気づかぬうちに、災いから国を守っていた聖女であることを……

この野菜は悪役令嬢がつくりました!

真鳥カノ
ファンタジー
幼い頃から聖女候補として育った公爵令嬢レティシアは、婚約者である王子から突然、婚約破棄を宣言される。 花や植物に『恵み』を与えるはずの聖女なのに、何故か花を枯らしてしまったレティシアは「偽聖女」とまで呼ばれ、どん底に落ちる。 だけどレティシアの力には秘密があって……? せっかくだからのんびり花や野菜でも育てようとするレティシアは、どこでもやらかす……! レティシアの力を巡って動き出す陰謀……? 色々起こっているけれど、私は今日も野菜を作ったり食べたり忙しい! 毎日2〜3回更新予定 だいたい6時30分、昼12時頃、18時頃のどこかで更新します!

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

本物の聖女じゃないと追放されたので、隣国で竜の巫女をします。私は聖女の上位存在、神巫だったようですがそちらは大丈夫ですか?

今川幸乃
ファンタジー
ネクスタ王国の聖女だったシンシアは突然、バルク王子に「お前は本物の聖女じゃない」と言われ追放されてしまう。 バルクはアリエラという聖女の加護を受けた女を聖女にしたが、シンシアの加護である神巫(かんなぎ)は聖女の上位存在であった。 追放されたシンシアはたまたま隣国エルドラン王国で竜の巫女を探していたハリス王子にその力を見抜かれ、巫女候補として招かれる。そこでシンシアは神巫の力は神や竜など人外の存在の意志をほぼ全て理解するという恐るべきものだということを知るのだった。 シンシアがいなくなったバルクはアリエラとやりたい放題するが、すぐに神の怒りに触れてしまう。

実家から絶縁されたので好きに生きたいと思います

榎夜
ファンタジー
婚約者が妹に奪われた挙句、家から絶縁されました。 なので、これからは自分自身の為に生きてもいいですよね? 【ご報告】 書籍化のお話を頂きまして、31日で非公開とさせていただきますm(_ _)m 発売日等は現在調整中です。

聖女追放 ~私が去ったあとは病で国は大変なことになっているでしょう~

白横町ねる
ファンタジー
聖女エリスは民の幸福を日々祈っていたが、ある日突然、王子から解任を告げられる。 王子の説得もままならないまま、国を追い出されてしまうエリス。 彼女は亡命のため、鞄一つで遠い隣国へ向かうのだった……。 #表紙絵は、もふ様に描いていただきました。 #エブリスタにて連載しました。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

処理中です...