悪女と呼ばれた聖女が、聖女と呼ばれた悪女になるまで

渡里あずま

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 巻き戻った時、アデライトがしたのはサブリナと自分の立場を入れ替えることだった。
 それは、自分を裏切ったリカルドと婚約したくなかったのもあるが――幼い頃から交流があり、好意を持たれていたサブリナではなく、アデライトが婚約者に決まれば一回目同様、拒絶されると思ったからだ。
 お茶会からの帰り道。馬車の中で、アデライトはノヴァーリスと話していた。

「王妃や侍女達には、気に入られることも出来たでしょうが……リカルドは、親が決めた婚約者では誰であろうと拒否したでしょうからね」
「無駄な努力なんて、しなくて良いよね」
「フフ、ええ」

 ノヴァーリスの言葉に、アデライトは笑って頷いた。
 だが、一方で――一回目のサブリナを見る限り、王子妃教育を終えられないと思っていた。外交官である父親経由の話題や、貴族令嬢らしからぬ距離の近さをリカルドは気に入っていたが、逆にそれが許されていたのはサブリナが婚約者ではなかったからである。学力や言動を見る限り、サブリナには無理だ。
 そしていくらリカルドから好意を持たれていても、いつまで経っても王子妃教育を終えられなければ、サブリナの地位は危うくなる。

「肝心のリカルドからの愛情も、嫌っている私への反発もあったでしょうから……婚約者になった上、私がいなければいずれ破綻すると思っていました。もっとも自分達のことを棚に上げて、炊き出しをするサブリナを馬鹿にする程とは思いませんでしたが」

 そこまで疎まれているサブリナに、けれどアデライトは躊躇せずとどめを刺した。一回目でのサブリナの案を、わざわざ本人の前で横取りしたのだ。

「炊き出しでうまくいかなかったのなら、挽回する為にも私がいる時に言いに来ると思ったんですよね……ノヴァーリス、教えて頂きありがとうございました」
「これくらい、お安い御用だよ……リカルドも、すっかり君に落ちたみたいだしね」

 アデライトがお礼を言うと、ノヴァーリスはそう返して――どこからかハンカチを取り出すと、アデライトの手の甲を拭いた。先程、アデライトの手を握ったリカルドが「君こそ、王太子妃に相応しい」と言って口づけたのだ。

「一回目のサブリナと違って、卒業パーティーまで恋人になるつもりはないですけどね……断罪した直後は問われないかもしれません。ですが、いくら評判が悪くても婚約者がいるうちに付き合っては、不貞でしかありませんから」

 そう思っているからこそ、アデライトはリカルドに口づけを落とされた時、申し訳なく見えるように目を伏せて言ったのだ。

「過分なお言葉ですが……サブリナ様が、いらっしゃいます」
「すまない。きちんと話をつけてから、君を迎え入れるから……その時は、どうか私の気持ちに応えてほしい」
「……ええ、リカルド様」

 嘘はつかない。けれど、それ以外なら出来る限り何でもする。
 正直、手の甲とは言え勝手に口づけられて嫌悪感しかなかったが――心を無にしてやり過ごしたし、こうしてノヴァーリスが気遣ってくれたことが嬉しかった。
 そして微笑みながら、アデライトは話を締め括った。

「話をつけるそうですから、これからリカルドはサブリナの粗探しをするんでしょうね……まあ、私と違って自分で助成金を使いきったようなので、本当に横領するしかないでしょうから。断罪には、好都合ですね」
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