悪女と呼ばれた聖女が、聖女と呼ばれた悪女になるまで

渡里あずま

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 王妃と息子は今、ベレス侯爵家の娘・アデライトがお気に入りだ。
 国王が単なる令嬢に会うことはないので、王宮に来たり王妃やリカルドとお茶を飲むのを、遠目に眺めるくらいだが――確かに月の妖精のように美しい少女だ。子供の頃ならまだ、サブリナも可憐さで負けてはいなかったが成長した今となっては、ミレーヌのように聡明さと儚さを併せ持つアデライトの足元にも及ばない。流石に息子と同じ年の娘に手は出さないが、王妃達が気に入るのはよく解る。
 ……しかし、王妃達はアデライトをただ気に入っているだけではない。
 二人は婚約者であるサブリナではなく、アデライトを王太子妃にしようとしているのである。

「子供の頃ならともかく今更、それは無理だろう……仮にもサブリナは、財務大臣の娘だ」
「しかしサブリナは長年、王宮におりながら未だに妃教育も終えられない、未熟者……一方、アデライト嬢は妃教育を受けずとも既に、王太子妃に相応しい所作や教養を身に付けておりますわ。それにサブリナと違って、アデライトは教会や孤児院に寄付や奉仕活動の為に出かけているの。見た目だけではなく、心根も美しい令嬢だと民衆の人気も高いのよ」
「それは……」

 寝室で、二人きりになったところでの王妃からの話に、国王は軽く目を見張った。
 初めてのお茶会から、一年が過ぎた。そこから今までの間に数回、王妃はアデライトを王宮に招いてお茶会をしている。妃教育を怠けてばかりのサブリナは、早々に王妃に見限られたが――そんな王妃の目に、アデライトは適ったと言うのか。
 驚く国王に、王妃は更に言葉を続ける。

「そもそもロイド伯爵の財務大臣就任は、ベレス侯爵が領地に戻ったからですし……まあ、ミレーヌがいるから、王都には来たがらないかもしれませんが。税はたくさん収めていますし、今ではベレス侯爵の方がロイド伯爵より隣国との交流があるのです。国にとっては、ベレス侯爵家と懇意にした方が良いのでは?」
「…………」

 王妃の言い分はもっともだ。ロイド伯爵家とベレス侯爵家。どちらがより、国の為になっているかと言うと間違いなくベレス侯爵家である。
 そして女性として、あるいは人間としての魅力も話を聞く限りアデライトの方が勝っているようだ。

「それに、あなたは無理と言いますが……まだ、リカルド達は学生であり、成人前ではありませんか。それこそ今のうちに、サブリナには誰か貴族令息をあてがえば」
「……王妃よ。気持ちは解るが一度、王家が決めたことを他ならぬ王家が覆すことはならぬ。有事の際ならともかく、少なくとも今の平穏の世ではな」
「あなた……」

 国王がそう言ったのは、王妃を宥めて婚約者交代を諦めさせる為だった。実際、王家を引き合いに出せば王妃もそれ以上は言い募ってこなかった。
 ……しかし、まさかそこから数か月後に国が猛暑と嵐、更に虫害で深刻な食糧不足となり――文字通り、有事の状態になるとは思わなかったのである。
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