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女性が髪を結い上げるのは社交界デビューの時、それから結婚した時だ。
逆に言えば未婚で、社交界デビュー前のアデライトは白銀の髪を下ろしている。今回は流行前のあまり胸元は開かず、青い生地に銀糸の刺繍が施されたドレスだ。露出は少ないが鮮やかな青が髪、あるいは白い肌に映えてアデライトの美しさを引き立てている。昨日から、エルマが連れてきた二人の女性美容師に髪と肌を任せた甲斐があった。今日のアデライトは、髪の毛先から爪の先までエルマが言っていた通り磨き上げられている。
「お美しい……きっと、王妃様の御眼鏡に適(かな)うことでしょう」
「そうだと良いのだけれど……でも、そうね。エルマが言うのなら、間違いないわね」
「恐れ入ります」
そう言って頭を下げるエルマに頷き、アデライトは学生寮の前で待っていた迎えの馬車に乗り込んだ。
そして一人になったところで、隣に座っている――ように見えるが若干、浮いているノヴァーリスがアデライトに話しかけてきた。
「緊張……は、していないみたいだね」
「一回目で、何度も行いましたから……ああ、でも一挙手一投足監視されるので、少しは緊張する素振りを見せた方が……いえ、やはり落ち着きを見せつけた方が良さそうですね」
そう、一回目では妃教育という名目で王妃と何度もお茶会をしていた。そして王妃や侍女達から無言で見られた。その経験のおかげで今、影に見られても気にならないのだから、何が役に立つか解らないものである。
話を戻すがお茶会ではカップの持ち方、傾け方、それからお茶の飲み方など――僅かでも粗相があれば、その理由を短く伝えて王妃と侍女達が退席するので、最初は一人ポツンと取り残されたものだ。王立学園に入る頃には、最後まで王妃と過ごすことが出来たので、その通りにさえすれば王妃の目に留まる筈である。
(不思議なのは、一回目ではあんなサブリナをリカルドの相手にしようとしたことだけど……調べたら、婚約者になる前はたまに会って、可愛がっていたようだから。それこそ、愛玩動物みたいなものだったかもしれないわね)
だが子供の頃ならともかく、あと二年くらいで社交界デビューしようとする年で、愛玩動物扱いされるつもりはない。王太子妃候補となる為には、下手に愛嬌を振り撒くより実力を見せた方が良いだろう。
……そんなことを考えていると、馬車が止まって扉が開いた。
「ようこそ、王宮へ……ドレス姿は初めてだが、良く似合っている」
「光栄です」
そう言って、王妃の元へ連れていこうと手を差し出してくれるリカルドに、アデライトはニコッと笑って手を取った。
リカルドは、ただ見惚れているだけだが――これから侍女などの使用人達や、王妃との戦いが始まる。
「私がついているよ」
「ええ、ノヴァーリス」
背中に手を添えて押し出し、宙に浮いたまま付いてきてくれるノヴァーリスにそう答えて、アデライトは一歩踏み出した。
逆に言えば未婚で、社交界デビュー前のアデライトは白銀の髪を下ろしている。今回は流行前のあまり胸元は開かず、青い生地に銀糸の刺繍が施されたドレスだ。露出は少ないが鮮やかな青が髪、あるいは白い肌に映えてアデライトの美しさを引き立てている。昨日から、エルマが連れてきた二人の女性美容師に髪と肌を任せた甲斐があった。今日のアデライトは、髪の毛先から爪の先までエルマが言っていた通り磨き上げられている。
「お美しい……きっと、王妃様の御眼鏡に適(かな)うことでしょう」
「そうだと良いのだけれど……でも、そうね。エルマが言うのなら、間違いないわね」
「恐れ入ります」
そう言って頭を下げるエルマに頷き、アデライトは学生寮の前で待っていた迎えの馬車に乗り込んだ。
そして一人になったところで、隣に座っている――ように見えるが若干、浮いているノヴァーリスがアデライトに話しかけてきた。
「緊張……は、していないみたいだね」
「一回目で、何度も行いましたから……ああ、でも一挙手一投足監視されるので、少しは緊張する素振りを見せた方が……いえ、やはり落ち着きを見せつけた方が良さそうですね」
そう、一回目では妃教育という名目で王妃と何度もお茶会をしていた。そして王妃や侍女達から無言で見られた。その経験のおかげで今、影に見られても気にならないのだから、何が役に立つか解らないものである。
話を戻すがお茶会ではカップの持ち方、傾け方、それからお茶の飲み方など――僅かでも粗相があれば、その理由を短く伝えて王妃と侍女達が退席するので、最初は一人ポツンと取り残されたものだ。王立学園に入る頃には、最後まで王妃と過ごすことが出来たので、その通りにさえすれば王妃の目に留まる筈である。
(不思議なのは、一回目ではあんなサブリナをリカルドの相手にしようとしたことだけど……調べたら、婚約者になる前はたまに会って、可愛がっていたようだから。それこそ、愛玩動物みたいなものだったかもしれないわね)
だが子供の頃ならともかく、あと二年くらいで社交界デビューしようとする年で、愛玩動物扱いされるつもりはない。王太子妃候補となる為には、下手に愛嬌を振り撒くより実力を見せた方が良いだろう。
……そんなことを考えていると、馬車が止まって扉が開いた。
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「光栄です」
そう言って、王妃の元へ連れていこうと手を差し出してくれるリカルドに、アデライトはニコッと笑って手を取った。
リカルドは、ただ見惚れているだけだが――これから侍女などの使用人達や、王妃との戦いが始まる。
「私がついているよ」
「ええ、ノヴァーリス」
背中に手を添えて押し出し、宙に浮いたまま付いてきてくれるノヴァーリスにそう答えて、アデライトは一歩踏み出した。
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