悪女と呼ばれた聖女が、聖女と呼ばれた悪女になるまで

渡里あずま

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硬軟

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「違……いや、違わないが、どうか待って……待って、ほしい」
「……殿下」

 言い方を変えてきたのに、アデライトはひとまず立ち去るのをやめて話を聞くことにした。それがリカルドにも伝わったのか、頭を下げたままリカルドは話の先を続けてきた。

「君への試験などではないが、生徒会がサブリナの案の問題点に気づいているのは事実だ……だから、婚約者である私に万が一のことを考えて、代替え案を用意するよう言われている」
「……そうだったんですか」
「ああ、そうなんだ! それで、君の領地は薔薇が有名だから……歓迎会用に、都合をつけて貰えないかと思ったんだが……」

 そこで、リカルドは言葉に詰まった。入学式の時もだが、下手に小細工などせず今のようにまず謝るべきだったのだ。前回はサブリナのやらかしの方が目立ったが、今回、アデライトが不信感を抱いて身を引こうとしたのを見て、己の失敗にようやく気付いたのだろう。

「……さようでございましたか。それなら……微力ながら、そちらについてもお手伝いさせて頂きますね。父に、会場に飾れるだけの薔薇を用意出来るか聞いてみます」
「っ!? 良いのか!?」

 アデライトの言葉に、リカルドが顔を上げる。
 そんな彼の瞳を見返して、アデライトは頷いて見せた。

「ええ、新入生歓迎会は成功させなければ……ただ、サブリナ様にはどう話せば良いでしょう? 私と殿下が話していたら、不安に思われるのでは……」
「心配しないでくれ。君が、生徒会を手伝ってくれることは知っているし……万が一の時は、私から君に頼んだと伝える……君のことは、私が守るから」
「殿下……ありがとう、ございます」

 守るという言葉をリカルドから引き出せたのに、アデライトは保護欲を掻き立てるように微笑んでお礼を言った。
 そんなアデライトに、リカルドが見惚れたのが解ったが――気付かない振りをして「それでは、失礼致します」と挨拶をし、長い髪を翻して校舎を出た。背中に視線を感じたが、振り向いたりはしない。

「これであいつも、小賢しい真似はやめるよね」
「ええ……そんなことをしても動かないと、流石に解ったでしょうから」

 巻き戻った今、アデライトは黙って利用なんてされない。今回、手伝うのはリカルドにそのことを思い知らせて、それでも彼女を欲しがらせる為だ。
 今まで黙って見守ってくれていたノヴァーリスに、そう答えると――アデライトは聖女像に祈りを捧げ、宙に浮くノヴァーリスと二人で学生寮へと向かった。
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