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接近
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ドミニク達とのお茶会と、孤児院への訪問。
その時、お茶会にはドミニク達に合わせて流行りのドレスを、孤児院へ行く時は王妃が好むようなドレスを着た。すると日曜の夜、エルマを下がらせて寝台で父から届いた手紙を読んでいると、ノヴァーリスが声をかけてきた。
「……ネズミが、いるよ」
「え?」
「屋根裏にいる。昨日、お茶会に行く頃からうろついていたから、君を害する気はないみたいだね……何か、探っているのかな? まあ、私達の声は聞こえていないけど」
「監視……もしかしてとは、思っていましたけれど」
実は一回目の時、不思議に思ったことがある。
卒業パーティーの前に父と話した時、そのことをアデライトは誰にも話さなかった。それは、父も同様だろう。
しかし、卒業パーティーで逆に王室助成金の使い込みを利用された。冤罪を着せたのはリカルドだが、国王夫妻も知っていたようなので、アデライト達が告発しようとしていたことが事前に漏れていたのではないかと思っていたのだ。
「王室側の監視だと思います……リカルドではないでしょうから、国王……いえ、王妃が指示したと思います」
そう、まだリカルドからは淡い好意くらいなので、人を動かすまではしないだろう。そうなると、むしろサブリナの暴走の『おかげ』で国王――いや、国王はあまり行動的ではなかったので、裏で色々と画策する王妃の興味を引けたのだと思われる。
「別に、構いません。悪いことは、していませんし……サブリナには都合が悪いかもしれませんが、私には関係ないですし」
むしろ、アデライトにつっかかるサブリナの行動が報告され、評価が下がるのは好都合だ。だからそう言うと、アデライトは読み終えた手紙を寝台横の棚へと入れた。
※
そして、次の日の朝。
学生寮を出て聖女像に祈りを捧げ、顔を上げて歩き出そうとすると、そこには入学式の時のようにリカルドとサブリナがいた。
「おはよう、ベレス侯爵令嬢」
「…………」
「おはようごさいます」
リカルドからは声がかけられたが、サブリナは無言だった。それ故、アデライトもあえて名前は口にせず、挨拶と笑顔だけを返した。
そんなアデライトに、リカルドが言う。
「実は来月、生徒会主催で新入生歓迎会のパーティーを行うんだが……君に、準備を手伝ってほしいんだ」
「私が? よろしいんですか?」
「何よ、まさか断ろうって言うの?」
リカルドの言葉をアデライトが確認すると、サブリナが睨みつけてくる。しかし反対ではないのに戸惑って『みせて』アデライトはリカルドに尋ねた。
「いえ……ただ、生徒会室には役員以外は近寄ってはいけないと聞いています」
「ああ、なるほど……だが例外として、行事で人手が足りない時は生徒会役員が頼んだ生徒なら、立ち入りが許されるんだ。だから歓迎会が終わる間だけ、手伝ってほしい」
「フン。生徒会の為に、頑張りなさい?」
リカルドの言葉に続いて、サブリナが言う。なるほど、流石に口には出さないが『アデライトに雑用仕事をさせる』などと言って、サブリナに了解させたのだろう。
……理由など、何だっていい。リカルドに、近づけるなら。
「かしこまりました。微力ながら、お手伝いさせて頂きます」
アデライトはそう言って、リカルドとサブリナに微笑みかけた。
その時、お茶会にはドミニク達に合わせて流行りのドレスを、孤児院へ行く時は王妃が好むようなドレスを着た。すると日曜の夜、エルマを下がらせて寝台で父から届いた手紙を読んでいると、ノヴァーリスが声をかけてきた。
「……ネズミが、いるよ」
「え?」
「屋根裏にいる。昨日、お茶会に行く頃からうろついていたから、君を害する気はないみたいだね……何か、探っているのかな? まあ、私達の声は聞こえていないけど」
「監視……もしかしてとは、思っていましたけれど」
実は一回目の時、不思議に思ったことがある。
卒業パーティーの前に父と話した時、そのことをアデライトは誰にも話さなかった。それは、父も同様だろう。
しかし、卒業パーティーで逆に王室助成金の使い込みを利用された。冤罪を着せたのはリカルドだが、国王夫妻も知っていたようなので、アデライト達が告発しようとしていたことが事前に漏れていたのではないかと思っていたのだ。
「王室側の監視だと思います……リカルドではないでしょうから、国王……いえ、王妃が指示したと思います」
そう、まだリカルドからは淡い好意くらいなので、人を動かすまではしないだろう。そうなると、むしろサブリナの暴走の『おかげ』で国王――いや、国王はあまり行動的ではなかったので、裏で色々と画策する王妃の興味を引けたのだと思われる。
「別に、構いません。悪いことは、していませんし……サブリナには都合が悪いかもしれませんが、私には関係ないですし」
むしろ、アデライトにつっかかるサブリナの行動が報告され、評価が下がるのは好都合だ。だからそう言うと、アデライトは読み終えた手紙を寝台横の棚へと入れた。
※
そして、次の日の朝。
学生寮を出て聖女像に祈りを捧げ、顔を上げて歩き出そうとすると、そこには入学式の時のようにリカルドとサブリナがいた。
「おはよう、ベレス侯爵令嬢」
「…………」
「おはようごさいます」
リカルドからは声がかけられたが、サブリナは無言だった。それ故、アデライトもあえて名前は口にせず、挨拶と笑顔だけを返した。
そんなアデライトに、リカルドが言う。
「実は来月、生徒会主催で新入生歓迎会のパーティーを行うんだが……君に、準備を手伝ってほしいんだ」
「私が? よろしいんですか?」
「何よ、まさか断ろうって言うの?」
リカルドの言葉をアデライトが確認すると、サブリナが睨みつけてくる。しかし反対ではないのに戸惑って『みせて』アデライトはリカルドに尋ねた。
「いえ……ただ、生徒会室には役員以外は近寄ってはいけないと聞いています」
「ああ、なるほど……だが例外として、行事で人手が足りない時は生徒会役員が頼んだ生徒なら、立ち入りが許されるんだ。だから歓迎会が終わる間だけ、手伝ってほしい」
「フン。生徒会の為に、頑張りなさい?」
リカルドの言葉に続いて、サブリナが言う。なるほど、流石に口には出さないが『アデライトに雑用仕事をさせる』などと言って、サブリナに了解させたのだろう。
……理由など、何だっていい。リカルドに、近づけるなら。
「かしこまりました。微力ながら、お手伝いさせて頂きます」
アデライトはそう言って、リカルドとサブリナに微笑みかけた。
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