悪女と呼ばれた聖女が、聖女と呼ばれた悪女になるまで

渡里あずま

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下知 ※王妃視点※

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 王子であるリカルドと、その婚約者であるサブリナには表立った護衛だけではなく、監視する為の『影』を付けている。そして、それぞれの『影』からの報告を部屋で聞き、王妃はため息ごと紅茶を飲み干した。
 王はいない。今、この部屋にいるのは王妃の前で跪いている『影』二人と、信頼出来る侍女達だけだ。それ故、王妃は苛立ちを隠すことなく口にした。

「サブリナ……あの娘は、全く」

 幼い頃の彼女は、人形のように愛くるしかった。元々可愛がっていたが父親が陞爵し、更にお気に入りだったミレーヌに裏切られた反動もあって、王妃はサブリナをリカルドの婚約者にした。

「それなのに……妃教育からは逃げ回り、周囲に媚びるくせに気に入らない者は解雇し……更に、助成金で下品なドレスばかり買って」

 単なるお気に入りと、王子の婚約者ではやるべきことも、求められることもまるで違う。だからこそ王宮に来て早々、王妃はサブリナに王太子妃としての心得を伝えた。
 しかしサブリナは理解することを拒み、リカルドに泣きついて毎日のように王妃や家庭教師について愚痴っていた。更に、ドレスをねだられたリカルドが面倒になったのか、彼女の助成金を使うことを教えてしまった。
 ……実は、そこまでなら王妃は呆れはするが、怒りはしなかった。
 だがサブリナは、婚約者であることに胡坐をかいて他家の令嬢との交流を疎か、どころでなく蔑ろにしている。王妃同様、王国の女性代表である王太子妃になる者としてはいただけない。

「しかも入学初日から、よりによってベレス侯爵令嬢を田舎者呼ばわりするなんて」

 ベレス侯爵家は侯爵夫人を亡くした後、王都や社交界から遠ざかってはいたが――他の領地と違い、国に納める税金が年々増えている。つまりは、それ以上の収益を得ているということだ。
 王族に割り振られる助成金は王族自身の管理する土地からの収益だが、そもそもの国を支えているのは各領地から収められる税金である。しかもベレス侯爵領の場合、現侯爵だけではなく一人娘である侯爵令嬢も領地運営を担っていると言う。そんな功労者であるベレス侯爵令嬢に、リカルドの婚約者とは言え伯爵令嬢が暴言を吐くとは。

「そして、そんなサブリナをリカルドが窘めたと……確か、サブリナに辞めさせられたエルマが、ベレス侯爵令嬢に雇われたのだったわね?」
「はい、さようでございます……おそれながら、私からエルマにどのような令嬢か、聞いてみましょうか?」
「ええ……いえ」
 王妃の疑問に、侍女の一人が申し出る。けれど、一度頷きかけたが王妃はすぐに思い直した。そして、自分の前に跪いていた『影』へと声をかけた。

「『影』を、ベレス侯爵令嬢にも付けて……彼女のことを、調べてちょうだい」
「「御意」」

 それは、王妃がベレス侯爵令嬢――アデライトに、目を付けたことを意味していた。
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