悪女と呼ばれた聖女が、聖女と呼ばれた悪女になるまで

渡里あずま

文字の大きさ
上 下
34 / 73

口火

しおりを挟む
「皆、どうだろうか? 朝の様子を見る限り、知識は申し分ないようだがやはり人間、直接話してみないと解らない部分もある。このクラスでより交流を深める為にも、彼女にクラス委員長をお願いするのは」
「いいですね!」
「賛成ですっ」
「私達も、同級生としてお手伝いしますわ!」
「そんな……!?」

 口々に賛同する同級生達に、サブリナがその顔色を怒りの赤から絶望の青へと変えて絶句する。
 一回目も、リカルドはこうして同級生達を味方につけて、サブリナをクラス委員長にした。巻き戻った今は、逆の立場になったが――そもそも、アデライトは立候補していなかったので、今回のサブリナの方がより惨めだと思う。
 そんなサブリナを、アデライトは内心で嘲笑った。

(リカルドが誘導したのもあるけれど、何よりさっきの暴言が効いたみたいね……元々、孤立させるつもりだったけれど。自滅してくれて嬉しいわ、サブリナ)

 もっともそんな考えを顔には出さずに、アデライトはクラス委員長を引き受けて――しかし、自分の考えが伝わっているノヴァーリスだけは、宙に浮きながらおかしそうに笑っていた。



「ベレス様は、学生寮にお住まいなんですね……あの! 馬車を用意しますからぜひ、明後日のお休みに我が家にいらしてくれませんか? ウラリー様と三人で、ぜひお茶会を!」
「ありがとうございます……ブラン様、レニエ様。よければ、名前で呼んでくれますか? 先程、話しかけてくれて私、とても嬉しくて」
「逆に、よろしいんですか!? では、アデライト様……どうか、私のこともドミニクと」
「私のことも、ウラリーと……アデライト様、これからよろしくお願いしますね」
「ええ、ドミニク様。ウラリー様」

 にこにこ、にこにこ。
 放課後に声をかけてきたドミニク達に、アデライトは笑顔で応えた。朝もだが、先程のクラス委員長を決める時も、彼女達はリカルドに声を上げて賛同してくれた。結果、穏便にリカルドとの接点が出来たのでお茶会や名前呼びくらいは安いものだ。
 
「では、ごきげんよう」

 そう言ってクラスを後にし、同級生達に挨拶をしながら校舎を出ようとしたアデライトだったが。

「ちょっと」
「……サブリナ様、ごきげんよ」
「調子に乗らないでね。リカルド様にちょっかいかけたら、承知しないから」

 背後から声をかけられ、振り向き様に挨拶をしようとするが、遮られて言いたいことだけ言うとサブリナは踵を返した。向かった方向からすると、生徒会室に行ったリカルドの元に行くのだろう。

(妃教育に行かなくて、大丈夫なのかしら……あと)

 アデライトが顔を上げると、廊下にいた他の生徒達が気まずそうに目を逸らした。放課後であり、廊下である。人目があるのを気にせずに警告してくる辺り、一回目より愚かだと思う。もっとも、つられてアデライトまで馬鹿を晒す義理はない。

「ごきげんよう」

 それ故、悲しげに微笑みつつも何を言わず、それだけ告げて――アデライトはその場を後にし、聖女像に祈りを捧げて学生寮へと戻った。 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄をされた悪役令嬢は、すべてを見捨てることにした

アルト
ファンタジー
今から七年前。 婚約者である王太子の都合により、ありもしない罪を着せられ、国外追放に処された一人の令嬢がいた。偽りの悪業の経歴を押し付けられ、人里に彼女の居場所はどこにもなかった。 そして彼女は、『魔の森』と呼ばれる魔窟へと足を踏み入れる。 そして現在。 『魔の森』に住まうとある女性を訪ねてとある集団が彼女の勧誘にと向かっていた。 彼らの正体は女神からの神託を受け、結成された魔王討伐パーティー。神託により指名された最後の一人の勧誘にと足を運んでいたのだが——。

追放された魔女は、実は聖女でした。聖なる加護がなくなった国は、もうおしまいのようです【第一部完】

小平ニコ
ファンタジー
人里離れた森の奥で、ずっと魔法の研究をしていたラディアは、ある日突然、軍隊を率いてやって来た王太子デルロックに『邪悪な魔女』呼ばわりされ、国を追放される。 魔法の天才であるラディアは、その気になれば軍隊を蹴散らすこともできたが、争いを好まず、物や場所にまったく執着しない性格なので、素直に国を出て、『せっかくだから』と、旅をすることにした。 『邪悪な魔女』を追い払い、国民たちから喝采を浴びるデルロックだったが、彼は知らなかった。魔女だと思っていたラディアが、本人も気づかぬうちに、災いから国を守っていた聖女であることを……

この野菜は悪役令嬢がつくりました!

真鳥カノ
ファンタジー
幼い頃から聖女候補として育った公爵令嬢レティシアは、婚約者である王子から突然、婚約破棄を宣言される。 花や植物に『恵み』を与えるはずの聖女なのに、何故か花を枯らしてしまったレティシアは「偽聖女」とまで呼ばれ、どん底に落ちる。 だけどレティシアの力には秘密があって……? せっかくだからのんびり花や野菜でも育てようとするレティシアは、どこでもやらかす……! レティシアの力を巡って動き出す陰謀……? 色々起こっているけれど、私は今日も野菜を作ったり食べたり忙しい! 毎日2〜3回更新予定 だいたい6時30分、昼12時頃、18時頃のどこかで更新します!

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

本物の聖女じゃないと追放されたので、隣国で竜の巫女をします。私は聖女の上位存在、神巫だったようですがそちらは大丈夫ですか?

今川幸乃
ファンタジー
ネクスタ王国の聖女だったシンシアは突然、バルク王子に「お前は本物の聖女じゃない」と言われ追放されてしまう。 バルクはアリエラという聖女の加護を受けた女を聖女にしたが、シンシアの加護である神巫(かんなぎ)は聖女の上位存在であった。 追放されたシンシアはたまたま隣国エルドラン王国で竜の巫女を探していたハリス王子にその力を見抜かれ、巫女候補として招かれる。そこでシンシアは神巫の力は神や竜など人外の存在の意志をほぼ全て理解するという恐るべきものだということを知るのだった。 シンシアがいなくなったバルクはアリエラとやりたい放題するが、すぐに神の怒りに触れてしまう。

実家から絶縁されたので好きに生きたいと思います

榎夜
ファンタジー
婚約者が妹に奪われた挙句、家から絶縁されました。 なので、これからは自分自身の為に生きてもいいですよね? 【ご報告】 書籍化のお話を頂きまして、31日で非公開とさせていただきますm(_ _)m 発売日等は現在調整中です。

聖女追放 ~私が去ったあとは病で国は大変なことになっているでしょう~

白横町ねる
ファンタジー
聖女エリスは民の幸福を日々祈っていたが、ある日突然、王子から解任を告げられる。 王子の説得もままならないまま、国を追い出されてしまうエリス。 彼女は亡命のため、鞄一つで遠い隣国へ向かうのだった……。 #表紙絵は、もふ様に描いていただきました。 #エブリスタにて連載しました。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

処理中です...