30 / 73
駆引
しおりを挟む
一回目の時、アデライトはリカルドと一緒に登校していた。下校はアデライトに妃教育があったのと、リカルドがサブリナと過ごしたがったので別々だったが。
校門まで馬車で来て、並木道を通って校舎へと向かう。
……その並木道の先は、二股に分かれていて。一方には校舎が、そしてもう一方の道の先には庭園と聖女像がある。余談だが、その更に奥にアデライトが住む学生寮がある。
リカルドは通学の度、一瞬、けれどいつもその聖女像の方に目をやっていた。
その理由は、一回目では解らなかったけれど――巻き戻った今回、ミレーヌの口から語られた。
「王立学園には、聖女像があるんです」
「そうなんですか?」
「ええ。家が没落して、けれど奨学金制度で学校に通うことが出来て……学べることへの感謝を毎朝、聖女像に捧げていました」
「まあ……そうだったんですね。通うようになったら、私も見に行きますね」
「ええ」
話を聞いて、解った。リカルドもミレーヌから同じ話を聞いていて、聖女像を見ながらミレーヌに思いを馳せていたのだろう。
「君は、何を祈るの?」
エルマには見えていないが、ノヴァーリスはいつものように宙に浮きながら、アデライトと一緒に来ていた。そして一緒に聖女像の前で止まり、アデライトにそう問いかけてきた。
「……そう、ですね。彼らを滅ぼす機会を与えてくれた感謝は、ノヴァーリスに捧げていますし」
「そうだね」
「ああ、運命を作ってくれたことに感謝しましょうか」
そう言うと、アデライトは目を閉じて聖女像に祈った。
そして閉じていた目を開け、校舎へと歩き出そうとし――祈る自分を見て大きく目を見開いているリカルドと、その腕にぶらさがるようにくっついているサブリナを見た。一回目の時も今くらいの時間に登校していたので、狙ってみたら大当たりだ。
(良かった……動揺せず、冷静に対応出来るわ)
一回目の時、虐げられた為にリカルドに対して愛情はなかった。
けれどエルマの時のように、恐怖や動揺が出るかと少しだけ心配だったのだ。けれどこうして会ってみると、憎悪の方が勝ったらしく全く怯むことはなかった。
だから視線の先の二人に、アデライトは無言で微笑んで会釈をした。
巻き戻った今回、会うのは初めてだがリカルドは王子でアデライトより身分が上だ。それ故、アデライトからたとえ挨拶であろうと、声をかけるのはマナー違反になる――しかし、ただお辞儀をしてはリカルドの興味は引けない。ミレーヌならマナーを守りつつも、媚びにならない程度に微笑んだだろうからこうした。
そしてそのまま通り過ぎたアデライトに、背後から声がかかった。
「君の、名前は?」
「リカルド様?」
「アデライト・ベレスと申します」
「……ベレス侯爵家の」
「はい」
サブリナが訝しげな声を上げるのを聞きながら、足を止めて振り返る。
自分からは名乗らず聞いてくるのも失礼だが、アデライトはそこは指摘せずに名乗った。そして家名を口にし、ジッとアデライトを見つめてくるリカルドと、何かを感じたのか睨んでくるサブリナに対して口を開いた。
「ごきげんよう」
今はまず、ここまでで良い。あと変に付き合って、入学式初日から遅刻なんてしたくない。
だから二人にそう声をかけると、アデライトは踵を返して校舎へと向かった。
そんなアデライトと、彼女を見送るリカルド達を見下ろしながら、ノヴァーリスはクスクスと楽し気に笑っていた。
校門まで馬車で来て、並木道を通って校舎へと向かう。
……その並木道の先は、二股に分かれていて。一方には校舎が、そしてもう一方の道の先には庭園と聖女像がある。余談だが、その更に奥にアデライトが住む学生寮がある。
リカルドは通学の度、一瞬、けれどいつもその聖女像の方に目をやっていた。
その理由は、一回目では解らなかったけれど――巻き戻った今回、ミレーヌの口から語られた。
「王立学園には、聖女像があるんです」
「そうなんですか?」
「ええ。家が没落して、けれど奨学金制度で学校に通うことが出来て……学べることへの感謝を毎朝、聖女像に捧げていました」
「まあ……そうだったんですね。通うようになったら、私も見に行きますね」
「ええ」
話を聞いて、解った。リカルドもミレーヌから同じ話を聞いていて、聖女像を見ながらミレーヌに思いを馳せていたのだろう。
「君は、何を祈るの?」
エルマには見えていないが、ノヴァーリスはいつものように宙に浮きながら、アデライトと一緒に来ていた。そして一緒に聖女像の前で止まり、アデライトにそう問いかけてきた。
「……そう、ですね。彼らを滅ぼす機会を与えてくれた感謝は、ノヴァーリスに捧げていますし」
「そうだね」
「ああ、運命を作ってくれたことに感謝しましょうか」
そう言うと、アデライトは目を閉じて聖女像に祈った。
そして閉じていた目を開け、校舎へと歩き出そうとし――祈る自分を見て大きく目を見開いているリカルドと、その腕にぶらさがるようにくっついているサブリナを見た。一回目の時も今くらいの時間に登校していたので、狙ってみたら大当たりだ。
(良かった……動揺せず、冷静に対応出来るわ)
一回目の時、虐げられた為にリカルドに対して愛情はなかった。
けれどエルマの時のように、恐怖や動揺が出るかと少しだけ心配だったのだ。けれどこうして会ってみると、憎悪の方が勝ったらしく全く怯むことはなかった。
だから視線の先の二人に、アデライトは無言で微笑んで会釈をした。
巻き戻った今回、会うのは初めてだがリカルドは王子でアデライトより身分が上だ。それ故、アデライトからたとえ挨拶であろうと、声をかけるのはマナー違反になる――しかし、ただお辞儀をしてはリカルドの興味は引けない。ミレーヌならマナーを守りつつも、媚びにならない程度に微笑んだだろうからこうした。
そしてそのまま通り過ぎたアデライトに、背後から声がかかった。
「君の、名前は?」
「リカルド様?」
「アデライト・ベレスと申します」
「……ベレス侯爵家の」
「はい」
サブリナが訝しげな声を上げるのを聞きながら、足を止めて振り返る。
自分からは名乗らず聞いてくるのも失礼だが、アデライトはそこは指摘せずに名乗った。そして家名を口にし、ジッとアデライトを見つめてくるリカルドと、何かを感じたのか睨んでくるサブリナに対して口を開いた。
「ごきげんよう」
今はまず、ここまでで良い。あと変に付き合って、入学式初日から遅刻なんてしたくない。
だから二人にそう声をかけると、アデライトは踵を返して校舎へと向かった。
そんなアデライトと、彼女を見送るリカルド達を見下ろしながら、ノヴァーリスはクスクスと楽し気に笑っていた。
43
お気に入りに追加
552
あなたにおすすめの小説
婚約破棄をされた悪役令嬢は、すべてを見捨てることにした
アルト
ファンタジー
今から七年前。
婚約者である王太子の都合により、ありもしない罪を着せられ、国外追放に処された一人の令嬢がいた。偽りの悪業の経歴を押し付けられ、人里に彼女の居場所はどこにもなかった。
そして彼女は、『魔の森』と呼ばれる魔窟へと足を踏み入れる。
そして現在。
『魔の森』に住まうとある女性を訪ねてとある集団が彼女の勧誘にと向かっていた。
彼らの正体は女神からの神託を受け、結成された魔王討伐パーティー。神託により指名された最後の一人の勧誘にと足を運んでいたのだが——。

追放された魔女は、実は聖女でした。聖なる加護がなくなった国は、もうおしまいのようです【第一部完】
小平ニコ
ファンタジー
人里離れた森の奥で、ずっと魔法の研究をしていたラディアは、ある日突然、軍隊を率いてやって来た王太子デルロックに『邪悪な魔女』呼ばわりされ、国を追放される。
魔法の天才であるラディアは、その気になれば軍隊を蹴散らすこともできたが、争いを好まず、物や場所にまったく執着しない性格なので、素直に国を出て、『せっかくだから』と、旅をすることにした。
『邪悪な魔女』を追い払い、国民たちから喝采を浴びるデルロックだったが、彼は知らなかった。魔女だと思っていたラディアが、本人も気づかぬうちに、災いから国を守っていた聖女であることを……
この野菜は悪役令嬢がつくりました!
真鳥カノ
ファンタジー
幼い頃から聖女候補として育った公爵令嬢レティシアは、婚約者である王子から突然、婚約破棄を宣言される。
花や植物に『恵み』を与えるはずの聖女なのに、何故か花を枯らしてしまったレティシアは「偽聖女」とまで呼ばれ、どん底に落ちる。
だけどレティシアの力には秘密があって……?
せっかくだからのんびり花や野菜でも育てようとするレティシアは、どこでもやらかす……!
レティシアの力を巡って動き出す陰謀……?
色々起こっているけれど、私は今日も野菜を作ったり食べたり忙しい!
毎日2〜3回更新予定
だいたい6時30分、昼12時頃、18時頃のどこかで更新します!
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

本物の聖女じゃないと追放されたので、隣国で竜の巫女をします。私は聖女の上位存在、神巫だったようですがそちらは大丈夫ですか?
今川幸乃
ファンタジー
ネクスタ王国の聖女だったシンシアは突然、バルク王子に「お前は本物の聖女じゃない」と言われ追放されてしまう。
バルクはアリエラという聖女の加護を受けた女を聖女にしたが、シンシアの加護である神巫(かんなぎ)は聖女の上位存在であった。
追放されたシンシアはたまたま隣国エルドラン王国で竜の巫女を探していたハリス王子にその力を見抜かれ、巫女候補として招かれる。そこでシンシアは神巫の力は神や竜など人外の存在の意志をほぼ全て理解するという恐るべきものだということを知るのだった。
シンシアがいなくなったバルクはアリエラとやりたい放題するが、すぐに神の怒りに触れてしまう。
実家から絶縁されたので好きに生きたいと思います
榎夜
ファンタジー
婚約者が妹に奪われた挙句、家から絶縁されました。
なので、これからは自分自身の為に生きてもいいですよね?
【ご報告】
書籍化のお話を頂きまして、31日で非公開とさせていただきますm(_ _)m
発売日等は現在調整中です。
聖女追放 ~私が去ったあとは病で国は大変なことになっているでしょう~
白横町ねる
ファンタジー
聖女エリスは民の幸福を日々祈っていたが、ある日突然、王子から解任を告げられる。
王子の説得もままならないまま、国を追い出されてしまうエリス。
彼女は亡命のため、鞄一つで遠い隣国へ向かうのだった……。
#表紙絵は、もふ様に描いていただきました。
#エブリスタにて連載しました。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる