悪女と呼ばれた聖女が、聖女と呼ばれた悪女になるまで

渡里あずま

文字の大きさ
上 下
23 / 73

結果

しおりを挟む
 アデライトが望んだ通り翌年の春、エセルは奨学生として合格して王立学園に通い出した。
 エセルのような平民や下位で領地が遠方の貴族の為に、学生寮が用意されている。そこで暮らし、授業のノートや試験の内容を、エセルは綺麗にまとめてアデライトに送ってくれた。
 十二歳になった今も、エセルからの手紙と荷物は続いていて――授業に使っているミレーヌは、感心したように言った。

「エセルは本当に、お嬢様のお役に立ちたいのですね」
「嬉しいけれど、申し訳ないです。せっかく王都で、勉強しているのに……」
「平民で、しかも奨学生でしたらむしろ遊んだり出来ません。ですが、こうしてお嬢様の為にノートを作ることは、彼の勉強にもなっていますよ」
「本当ですか?」
「ええ。かつて王立学園に通っていた私が、保証します……もっとも私の場合は、お小遣い稼ぎの、ノート作りでしたけど。人に教えることは、本当に勉強になるんですよ」
「申し訳……」
「いいのですよ。あの時、勉強したからこそ今があるのですから」
「……はい」

 冗談めかした言葉だが、ミレーヌの家は彼女が在学中に没落したそうなので、切実だったのだろう。けれど、微笑んでキッパリと言い切ったミレーヌに、アデライトもそれ以上言わずに返事をした。

「エセルと言えば、来年の卒業後は新聞社で働くことが決まったそうですね」
「ええ、そうなんです。孤児院の先生達が、エセルは孤児達の希望なのだと言っていました」
「本当ですね。王都で勉強をして、そのまま仕事まで決まりましたから……失礼致しました。授業を、再開致しましょう」
「はい」

 ミレーヌも勉強を教えていたので、エセルのことを語る声音は優しい。けれど、今はアデライトの授業中なのでそこで話を締め括った。
 アデライトも、一回目では王立学園の授業を受けている。しかし巻き戻り、授業を受けてから数年が経っていたので素直にありがたいし、エセルから一緒に届く手紙も楽しかった。狙った通り、嫌いだからこそ気になるのかサブリナの噂話が、結構な頻度で書かれている。

(サブリナはドレスをリカルドや親にねだっている、か……リカルドは未成年だから、婚約者の為とは言えそう何枚もは買えないだろうし。ロイド伯爵は財務大臣に就任し、陞爵したから? でも、もしかしたら……)

 一回目の時、自分や父は冤罪だったが――もしかしたらリカルドが唆し、サブリナやロイド伯爵は本当に王室助成金に手を付けたのかもしれない。

「面白いように、踊ってくれるね」

 今まで黙ってアデライト達の授業を宙に浮いて眺めていたノヴァーリスが、アデライトの耳元に顔を近づけて言う。

「ええ、本当に」

 ノヴァーリスへの返事は、他の者には聞こえない。
 だからこそ、アデライトはそう答えてひっそりと微笑んだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄をされた悪役令嬢は、すべてを見捨てることにした

アルト
ファンタジー
今から七年前。 婚約者である王太子の都合により、ありもしない罪を着せられ、国外追放に処された一人の令嬢がいた。偽りの悪業の経歴を押し付けられ、人里に彼女の居場所はどこにもなかった。 そして彼女は、『魔の森』と呼ばれる魔窟へと足を踏み入れる。 そして現在。 『魔の森』に住まうとある女性を訪ねてとある集団が彼女の勧誘にと向かっていた。 彼らの正体は女神からの神託を受け、結成された魔王討伐パーティー。神託により指名された最後の一人の勧誘にと足を運んでいたのだが——。

追放された魔女は、実は聖女でした。聖なる加護がなくなった国は、もうおしまいのようです【第一部完】

小平ニコ
ファンタジー
人里離れた森の奥で、ずっと魔法の研究をしていたラディアは、ある日突然、軍隊を率いてやって来た王太子デルロックに『邪悪な魔女』呼ばわりされ、国を追放される。 魔法の天才であるラディアは、その気になれば軍隊を蹴散らすこともできたが、争いを好まず、物や場所にまったく執着しない性格なので、素直に国を出て、『せっかくだから』と、旅をすることにした。 『邪悪な魔女』を追い払い、国民たちから喝采を浴びるデルロックだったが、彼は知らなかった。魔女だと思っていたラディアが、本人も気づかぬうちに、災いから国を守っていた聖女であることを……

この野菜は悪役令嬢がつくりました!

真鳥カノ
ファンタジー
幼い頃から聖女候補として育った公爵令嬢レティシアは、婚約者である王子から突然、婚約破棄を宣言される。 花や植物に『恵み』を与えるはずの聖女なのに、何故か花を枯らしてしまったレティシアは「偽聖女」とまで呼ばれ、どん底に落ちる。 だけどレティシアの力には秘密があって……? せっかくだからのんびり花や野菜でも育てようとするレティシアは、どこでもやらかす……! レティシアの力を巡って動き出す陰謀……? 色々起こっているけれど、私は今日も野菜を作ったり食べたり忙しい! 毎日2〜3回更新予定 だいたい6時30分、昼12時頃、18時頃のどこかで更新します!

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

本物の聖女じゃないと追放されたので、隣国で竜の巫女をします。私は聖女の上位存在、神巫だったようですがそちらは大丈夫ですか?

今川幸乃
ファンタジー
ネクスタ王国の聖女だったシンシアは突然、バルク王子に「お前は本物の聖女じゃない」と言われ追放されてしまう。 バルクはアリエラという聖女の加護を受けた女を聖女にしたが、シンシアの加護である神巫(かんなぎ)は聖女の上位存在であった。 追放されたシンシアはたまたま隣国エルドラン王国で竜の巫女を探していたハリス王子にその力を見抜かれ、巫女候補として招かれる。そこでシンシアは神巫の力は神や竜など人外の存在の意志をほぼ全て理解するという恐るべきものだということを知るのだった。 シンシアがいなくなったバルクはアリエラとやりたい放題するが、すぐに神の怒りに触れてしまう。

実家から絶縁されたので好きに生きたいと思います

榎夜
ファンタジー
婚約者が妹に奪われた挙句、家から絶縁されました。 なので、これからは自分自身の為に生きてもいいですよね? 【ご報告】 書籍化のお話を頂きまして、31日で非公開とさせていただきますm(_ _)m 発売日等は現在調整中です。

聖女追放 ~私が去ったあとは病で国は大変なことになっているでしょう~

白横町ねる
ファンタジー
聖女エリスは民の幸福を日々祈っていたが、ある日突然、王子から解任を告げられる。 王子の説得もままならないまま、国を追い出されてしまうエリス。 彼女は亡命のため、鞄一つで遠い隣国へ向かうのだった……。 #表紙絵は、もふ様に描いていただきました。 #エブリスタにて連載しました。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

処理中です...