悪女と呼ばれた聖女が、聖女と呼ばれた悪女になるまで

渡里あずま

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口実

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 孤児院にいられるのは、十四歳まで。来年、十五歳の春までには進路を決めて、孤児院を出なければいけない。
 しかし孤児の進路と言えば、人足や職人見習い。学があれば、商人などに仕える使用人など――つまりは、労働者である。お金をかけ、更に学ぶという道は本来、ありえないのだ。

「僕が……王立学園に?」
「ええ。貴族は貴族であるだけで入学出来るけれど、平民でも貴族からの推薦があれば、受験して通うことが出来るのよ。そして王立学園を卒業すれば、あなたの未来はもっと拓けるわ」
「……何故、そこまで?」

 呆然としながらも、エセルはアデライトに尋ねてきた。当然だろう。孤児への施しにしては、破格である。
 そんな少年の視線の先でつ、と目を伏せてアデライトは答えた。

「十五歳になったら、私も王立学園に通うの。それまでに学園や、授業のことを教えてほしいのよ……領地にいたら、なかなか調べられないから」

 貴族であれば、王立学園に通うのに受験はない。しかし入学後、あまり成績や素行が悪いと退学になることはある。
 貴族に生まれた身としては、王立学園を卒業することが絶対条件なのだ。だから令嬢令息によっては、過去の授業の内容や試験問題を人やお金を使って手に入れ、予習したり復習したりして学園生活を乗り切るのである。
 しかしアデライトは、そうする代わりにエセルを通わせて、自分の入学に備えたいと言っている。そこで一旦、言葉を切ってアデライトはおずおずと目を上げ、視線を揺らしながらエセルを見て続けた。

「がっかりしたでしょう? 私は私の為に、あなたを利用しようとしているの」
「そんなっ!?」

 アデライトの言葉を、即座にエセルは否定した。そしてグッと右手で拳を握ると、真っ直にアデライトを見返してきた。
 そう、収穫量や新たな商品を作り、裕福な侯爵家ならわざわざ孤児を使う必要はない。それをあえて、と言うのならエセルへの侯爵家からの――いや、アデライトからの慈悲であり、恩着せがましくならない為の口実としか思えない。

「むしろ、安心しました……アデライト様は、僕の恩人です。あなたの為になれるなら僕は喜んで、そして絶対に王立学園に入ります」
「……エセル、ありがとう」
「こちらこそ……入学したら、アデライト様に手紙を送っても?」
「勿論よ! 私からも、手紙を書くわね」

 そう言って、アデライトが微笑みかけると――エセルもまたつられたように、赤く染まった頬を笑みに緩めた。
 そんなアデライトとエセルを、宙に浮いたノヴァーリスは楽しそうに見下ろしていた。
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