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旗手
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一回目の時、飢饉の後の新聞でアデライトはある記事に目を止めた。
「これは……」
その記事は、飢饉の後の民の苦労を書いていた。そして直接にではないが、暗に民にばかり働かせて、国王が動かないことを指摘していた。
気になったが、国王批判をする者のことを王宮では調べられない。
しかし、その頃は奉仕活動で王宮の外に出られたので、記事を書いた記者について聞いてみた。そうすると平民の代弁者として、更に彼自身が成功者として有名なのだと聞かされた。何でも地方役人の父を失い、母も子供の頃に亡くなっていた為、孤児になったそうだ。けれどその優秀さを評価され、故郷の領主代行の推薦と援助を受けて、王都の王立学園に入学。卒業後、新聞記者となったと言う。
……そんな彼の名前は。
「アデライト様! お越し頂き、ありがとうございます!」
「エセル。あなたこそ、皆の先生になってくれてありがとう」
「とんでもない! 僕の勉強にもなりますから」
集合室に行くと、まだ働けない小さな子達に一人の少年が絵本を読んであげていた。そしてアデライトの姿を見ると、パッと顔を輝かせて姿勢を正した。
少し癖のある、薄茶の髪と瞳。今のアデライトより五歳年上だが、屈託なく笑いかけてくる様子は子犬を連想させる。
エセル・テイラー、十四歳。
目の前の彼が、一回目の時にアデライトが目を留めた記事を書いた新聞記者だ。
※
エセルについて調べた時、故郷がベレス領――つまり、父・ウィリアムの領地だと知って驚いた。しかし奉仕活動中に、たまたま通りがかったのを遠目に見たことはあったが、一回目では直接話したことはなかった。
だが、巻き戻った今は違う。
ベレス領に、孤児院は一つ。そしてアデライトが領地に戻り、孤児達に読み書きを教えるようになった頃、父を亡くしたエセルが孤児院にやってきた。平民ではあるが、役人の息子だった彼は読み書きも計算も出来たので、アデライト達が行けない時は孤児達に勉強を教えてくれた。
勿論、孤児としての労働も行っていたが――エセルはアデライトにひどく感謝していて、事あるごとに言う。
「父が亡くなり、親戚も頼れずに孤児院に入るしかなかった時……大げさかもしれませんが、未来が閉ざされたと思いました。ですが、アデライト様のおかげで勉強を続けることが出来ました」
「そう言ってくれると、嬉しいわ……ねぇ、エセル? 実はあなたに、お願いがあるの」
「っ! 何なりとっ」
「ありがとう……あのね? 来年、エセルには王立学園に入学して欲しいの。勿論、推薦状は出すし、その為の支援もさせて貰うわ」
「……えっ?」
そんな彼に、そう切り出すと――予想外だったのか、エセルは薄茶の瞳をまん丸くしてアデライトを見返した。
「これは……」
その記事は、飢饉の後の民の苦労を書いていた。そして直接にではないが、暗に民にばかり働かせて、国王が動かないことを指摘していた。
気になったが、国王批判をする者のことを王宮では調べられない。
しかし、その頃は奉仕活動で王宮の外に出られたので、記事を書いた記者について聞いてみた。そうすると平民の代弁者として、更に彼自身が成功者として有名なのだと聞かされた。何でも地方役人の父を失い、母も子供の頃に亡くなっていた為、孤児になったそうだ。けれどその優秀さを評価され、故郷の領主代行の推薦と援助を受けて、王都の王立学園に入学。卒業後、新聞記者となったと言う。
……そんな彼の名前は。
「アデライト様! お越し頂き、ありがとうございます!」
「エセル。あなたこそ、皆の先生になってくれてありがとう」
「とんでもない! 僕の勉強にもなりますから」
集合室に行くと、まだ働けない小さな子達に一人の少年が絵本を読んであげていた。そしてアデライトの姿を見ると、パッと顔を輝かせて姿勢を正した。
少し癖のある、薄茶の髪と瞳。今のアデライトより五歳年上だが、屈託なく笑いかけてくる様子は子犬を連想させる。
エセル・テイラー、十四歳。
目の前の彼が、一回目の時にアデライトが目を留めた記事を書いた新聞記者だ。
※
エセルについて調べた時、故郷がベレス領――つまり、父・ウィリアムの領地だと知って驚いた。しかし奉仕活動中に、たまたま通りがかったのを遠目に見たことはあったが、一回目では直接話したことはなかった。
だが、巻き戻った今は違う。
ベレス領に、孤児院は一つ。そしてアデライトが領地に戻り、孤児達に読み書きを教えるようになった頃、父を亡くしたエセルが孤児院にやってきた。平民ではあるが、役人の息子だった彼は読み書きも計算も出来たので、アデライト達が行けない時は孤児達に勉強を教えてくれた。
勿論、孤児としての労働も行っていたが――エセルはアデライトにひどく感謝していて、事あるごとに言う。
「父が亡くなり、親戚も頼れずに孤児院に入るしかなかった時……大げさかもしれませんが、未来が閉ざされたと思いました。ですが、アデライト様のおかげで勉強を続けることが出来ました」
「そう言ってくれると、嬉しいわ……ねぇ、エセル? 実はあなたに、お願いがあるの」
「っ! 何なりとっ」
「ありがとう……あのね? 来年、エセルには王立学園に入学して欲しいの。勿論、推薦状は出すし、その為の支援もさせて貰うわ」
「……えっ?」
そんな彼に、そう切り出すと――予想外だったのか、エセルは薄茶の瞳をまん丸くしてアデライトを見返した。
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