19 / 73
出処
しおりを挟む
学園入学の年を、十六歳から十五歳に変更しました。
※
……話は、三年前の一月に遡る。
アデライトは馬車で、孤児院へと向かっていた。
一年間やっていることなので、ミレーヌとは役割分担が出来ている。そして今日、彼女は教会に向かったので今は別行動だ。馬車の外には馬に乗った護衛がいるし、何より今日はノヴァーリスがいる。いつもは浮いていることが多いが、馬車の中なので今日は向かいの席で大人しく座っている。
だから馬車に揺られながら、アデライトは思いつくまままに言葉を紡いでいた。
領地に戻ったアデライトが、再び王都に行くのは十五歳。学園に入学する時だ。
だが一回目では、アデライトは王都にこそいたがずっと王宮だった。寄付や慰問に出られるようになったのは、学園に入学した後だったしそこまでの間、リカルドは一度もアデライトを誘って出かけようとしなかった。
だから、アデライトが王宮外の様子を知るのは、新聞や本のみだった。それらは妃教育として、目を通すことを許されていたのである。
「今の私なら侍女達の噂話からも、情報を得られたんでしょうけれど……一回目の時は、馬鹿にされたので使用人達を避けていたんですよね」
「嫌だった……違うか、怖かった?」
「ええ」
ノヴァーリスからの問いかけに、アデライトは素直に頷いた。
そう、一回目の時は最初、どうして自分が使用人達に馬鹿にされるか理解出来なかった。貴族の子女ではあるが、家の格で言えばアデライトの侯爵家の方が上だ。それなのに何故、見下されるかそもそも解らず、解らないからこそ恐ろしかった。
「リカルドに嫌われているからにしても、あんな風に悪意をぶつけられる意味が解りませんでした」
「その後……いや、今は解る?」
「ええ……王妃が介入してこなかったから『馬鹿にしていい』と思われたんでしょうね」
復讐対象ではあるが、王妃に嫌われていたかどうかは解らない。こうして巻き戻り振り返ると、少なくとも衣服はともかく食事と生活は保障されていたからだ。
もしかしたら王妃は、自力でアデライトが使用人達に認められることを望んだかもしれないが――今、思えば無理難題を押しつけられたとしか思えない。だからこそ、アデライトは今回婚約者になること自体を避けた。
「一回目の時の、己の未熟さには恥ずかしくはなりますが……代わりに部屋で目を通せるからと、新聞や本をくり返し隅々まで読み耽ったことには感謝しています。だからこそ、自分が着られなくてもドレスの流行などを知りましたから」
「そうか」
「ええ……ただ、巻き戻って私はリカルドの婚約者ではなくなり、代わりにサブリナが婚約者になりましたから」
そうなったことで、一回目と違うことが起きるかどうか知りたかった。それこそ領地の薔薇を使った商品は、アデライトが巻き戻ったからこそ生まれたものだ。あと、王都でのサブリナの評価も気になった。
「ただ流行については、多少は商人達から聞けますが……他の貴族については、内心はともかく形式上は顧客ですから、あまり話して貰えないのです」
「なるほどね」
商人達の姿勢は素晴らしいが、そうなると他の貴族――と言うか、サブリナについて聞くのは難しい。
「だから、情報源を手に入れようと思います」
そう言って、アデライトがノヴァーリスに微笑んだところで、馬車は孤児院に到着した。
※
……話は、三年前の一月に遡る。
アデライトは馬車で、孤児院へと向かっていた。
一年間やっていることなので、ミレーヌとは役割分担が出来ている。そして今日、彼女は教会に向かったので今は別行動だ。馬車の外には馬に乗った護衛がいるし、何より今日はノヴァーリスがいる。いつもは浮いていることが多いが、馬車の中なので今日は向かいの席で大人しく座っている。
だから馬車に揺られながら、アデライトは思いつくまままに言葉を紡いでいた。
領地に戻ったアデライトが、再び王都に行くのは十五歳。学園に入学する時だ。
だが一回目では、アデライトは王都にこそいたがずっと王宮だった。寄付や慰問に出られるようになったのは、学園に入学した後だったしそこまでの間、リカルドは一度もアデライトを誘って出かけようとしなかった。
だから、アデライトが王宮外の様子を知るのは、新聞や本のみだった。それらは妃教育として、目を通すことを許されていたのである。
「今の私なら侍女達の噂話からも、情報を得られたんでしょうけれど……一回目の時は、馬鹿にされたので使用人達を避けていたんですよね」
「嫌だった……違うか、怖かった?」
「ええ」
ノヴァーリスからの問いかけに、アデライトは素直に頷いた。
そう、一回目の時は最初、どうして自分が使用人達に馬鹿にされるか理解出来なかった。貴族の子女ではあるが、家の格で言えばアデライトの侯爵家の方が上だ。それなのに何故、見下されるかそもそも解らず、解らないからこそ恐ろしかった。
「リカルドに嫌われているからにしても、あんな風に悪意をぶつけられる意味が解りませんでした」
「その後……いや、今は解る?」
「ええ……王妃が介入してこなかったから『馬鹿にしていい』と思われたんでしょうね」
復讐対象ではあるが、王妃に嫌われていたかどうかは解らない。こうして巻き戻り振り返ると、少なくとも衣服はともかく食事と生活は保障されていたからだ。
もしかしたら王妃は、自力でアデライトが使用人達に認められることを望んだかもしれないが――今、思えば無理難題を押しつけられたとしか思えない。だからこそ、アデライトは今回婚約者になること自体を避けた。
「一回目の時の、己の未熟さには恥ずかしくはなりますが……代わりに部屋で目を通せるからと、新聞や本をくり返し隅々まで読み耽ったことには感謝しています。だからこそ、自分が着られなくてもドレスの流行などを知りましたから」
「そうか」
「ええ……ただ、巻き戻って私はリカルドの婚約者ではなくなり、代わりにサブリナが婚約者になりましたから」
そうなったことで、一回目と違うことが起きるかどうか知りたかった。それこそ領地の薔薇を使った商品は、アデライトが巻き戻ったからこそ生まれたものだ。あと、王都でのサブリナの評価も気になった。
「ただ流行については、多少は商人達から聞けますが……他の貴族については、内心はともかく形式上は顧客ですから、あまり話して貰えないのです」
「なるほどね」
商人達の姿勢は素晴らしいが、そうなると他の貴族――と言うか、サブリナについて聞くのは難しい。
「だから、情報源を手に入れようと思います」
そう言って、アデライトがノヴァーリスに微笑んだところで、馬車は孤児院に到着した。
53
お気に入りに追加
552
あなたにおすすめの小説
婚約破棄をされた悪役令嬢は、すべてを見捨てることにした
アルト
ファンタジー
今から七年前。
婚約者である王太子の都合により、ありもしない罪を着せられ、国外追放に処された一人の令嬢がいた。偽りの悪業の経歴を押し付けられ、人里に彼女の居場所はどこにもなかった。
そして彼女は、『魔の森』と呼ばれる魔窟へと足を踏み入れる。
そして現在。
『魔の森』に住まうとある女性を訪ねてとある集団が彼女の勧誘にと向かっていた。
彼らの正体は女神からの神託を受け、結成された魔王討伐パーティー。神託により指名された最後の一人の勧誘にと足を運んでいたのだが——。

追放された魔女は、実は聖女でした。聖なる加護がなくなった国は、もうおしまいのようです【第一部完】
小平ニコ
ファンタジー
人里離れた森の奥で、ずっと魔法の研究をしていたラディアは、ある日突然、軍隊を率いてやって来た王太子デルロックに『邪悪な魔女』呼ばわりされ、国を追放される。
魔法の天才であるラディアは、その気になれば軍隊を蹴散らすこともできたが、争いを好まず、物や場所にまったく執着しない性格なので、素直に国を出て、『せっかくだから』と、旅をすることにした。
『邪悪な魔女』を追い払い、国民たちから喝采を浴びるデルロックだったが、彼は知らなかった。魔女だと思っていたラディアが、本人も気づかぬうちに、災いから国を守っていた聖女であることを……
この野菜は悪役令嬢がつくりました!
真鳥カノ
ファンタジー
幼い頃から聖女候補として育った公爵令嬢レティシアは、婚約者である王子から突然、婚約破棄を宣言される。
花や植物に『恵み』を与えるはずの聖女なのに、何故か花を枯らしてしまったレティシアは「偽聖女」とまで呼ばれ、どん底に落ちる。
だけどレティシアの力には秘密があって……?
せっかくだからのんびり花や野菜でも育てようとするレティシアは、どこでもやらかす……!
レティシアの力を巡って動き出す陰謀……?
色々起こっているけれど、私は今日も野菜を作ったり食べたり忙しい!
毎日2〜3回更新予定
だいたい6時30分、昼12時頃、18時頃のどこかで更新します!
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

本物の聖女じゃないと追放されたので、隣国で竜の巫女をします。私は聖女の上位存在、神巫だったようですがそちらは大丈夫ですか?
今川幸乃
ファンタジー
ネクスタ王国の聖女だったシンシアは突然、バルク王子に「お前は本物の聖女じゃない」と言われ追放されてしまう。
バルクはアリエラという聖女の加護を受けた女を聖女にしたが、シンシアの加護である神巫(かんなぎ)は聖女の上位存在であった。
追放されたシンシアはたまたま隣国エルドラン王国で竜の巫女を探していたハリス王子にその力を見抜かれ、巫女候補として招かれる。そこでシンシアは神巫の力は神や竜など人外の存在の意志をほぼ全て理解するという恐るべきものだということを知るのだった。
シンシアがいなくなったバルクはアリエラとやりたい放題するが、すぐに神の怒りに触れてしまう。
実家から絶縁されたので好きに生きたいと思います
榎夜
ファンタジー
婚約者が妹に奪われた挙句、家から絶縁されました。
なので、これからは自分自身の為に生きてもいいですよね?
【ご報告】
書籍化のお話を頂きまして、31日で非公開とさせていただきますm(_ _)m
発売日等は現在調整中です。
聖女追放 ~私が去ったあとは病で国は大変なことになっているでしょう~
白横町ねる
ファンタジー
聖女エリスは民の幸福を日々祈っていたが、ある日突然、王子から解任を告げられる。
王子の説得もままならないまま、国を追い出されてしまうエリス。
彼女は亡命のため、鞄一つで遠い隣国へ向かうのだった……。
#表紙絵は、もふ様に描いていただきました。
#エブリスタにて連載しました。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる