悪女と呼ばれた聖女が、聖女と呼ばれた悪女になるまで

渡里あずま

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 こうして、アデライトは家庭教師となったミレーヌから、勉強や礼儀作法を学ぶことになった。
 どちらも一回目に学んでいるが、勉強についてはどんな内容を質問しても、ミレーヌはしっかり調べて的確に答えてくれる。だから、アデライトが狙っていたことも期待通りに教えてくれた。
 そして礼儀作法についても、出来はするがアデライトが習ったのは王妃好みの弊害で、完璧だが逆に完璧すぎて気後れするものだった。それ故、ミレーヌに習って矯正していくのが楽しかった。
 それから、数日後。
 夕食の時、アデライトは父・ウィリアムに「ミレーヌ先生から聞いた」と言って話を切り出した。

「……輪作? 二毛作?」
「ええ、お父様。同じ作物を同じ畑で作ると、育ちにくくなるから一定期間、畑を休ませる必要があるけれど……別の作物を作れば、その問題は解決するそうよ?」

 実は一回目、飢饉が起きた時にアデライトは今後の国のことを考えて調べたのだ。輪作や二毛作を取り入れれば、土地の広さはそのままでも収穫量が増える。ミレーヌが知っているかは賭けだったが、彼女も没落するまでは貴族令嬢であり、領地もあったので調べたことがあったらしい。それ故「お父様の役に立ちたい」と聞くと、色々と教えてくれた。

「あと、お母様は薔薇がお好きだったけれど……薔薇は見るだけではなく、香水の材料になったり食べたりお茶になったりもするそうよ」
「ほう」
「ただ、作物や花だと気候に左右されるから、もう一つくらい特産物を考えたいけれど……やってみたら、領地が豊かにならない? 豊かになったら皆、もっと幸せになれないかしら?」
「アデライト……」

 領地の繁栄も勿論だが、成功すれば王都から離れても国王夫妻の目を惹くことが出来る。だが、アデライトは領主ではない上に、女子供だ。逆に小賢しいと、父ウィリアムに反感を買うかもしれない。

(お父様は、女性を下に見る方ではなかった……と思うけれど)

 しかし、そもそも領地運営のことなどを父と話したことがない。そして比較しては悪いがリカルド、更に王妃もアデライトが国のことに口を出すのを嫌がった。だからこそウィリアムの返事を待つ間、アデライトは怖かった。
 そんなアデライトに、相変わらず表情は変わらないが――静かな声で、ウィリアムは言った。

「……作物や薔薇を育てたり、新たなことを実際に始めるのは領民だ。私達が命じて、無理にやらせることは出来ない」
「はい……」
「だが、確かに良い案だ。一緒に考えよう。そして皆に、話してみて……もし頷いてくれたら、やってみよう」
「っ! ありがとう、お父様っ」

 そして女子供だからと頭ごなしに拒まず、柔軟に受け入れてくれたことにアデライトは俯いていた顔を上げ、満面の笑みでお礼を言った。
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