悪女と呼ばれた聖女が、聖女と呼ばれた悪女になるまで

渡里あずま

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相見

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 ノヴァーリスと会い、巻き戻ったことを知った後、アデライトは一回目のことを思い出して書き出した。起こった出来事や流行ったこと、あるいはそれらに関係した人物をである。
 そして、巻き戻ってから十日ほど経っているが――その中でもう一つ、アデライトは気づいたことがあった。

(ミレーヌのことは、リカルドが口を滑らせた時に調べて……お母様が亡くなった頃、解雇されたと知ったけれど)

 理由は、ミレーヌが国王の『お手付き』になり、王妃が激怒したからである。賢く美しいと評判のミレーヌを、息子の家庭教師にと雇ったのは王妃だ。けれど、いやだからこそミレーヌに裏切られたと感じたのだろう。それ故、ミレーヌは解雇されて王宮ではミレーヌの名前は禁忌になった。
 話を聞いたのが二年後だったのと、唯一の家族である母を一年前に亡くし、王都を離れていたのでアデライトが調べられたのはそこまでだった。しかし考えてみれば、急に王子の家庭教師を解雇されたのなら当時、多少は噂になっていた筈だ。
 現に今、使用人の中ではミレーヌの解雇について噂する者がいた。だが一回目の時は、母・アンヌマリーの死のショックで聞いていても頭に入っておらず――巻き戻った今では、噂話をしっかり聞く余裕がある。こんな風に、一回目では聞き逃していたことを、巻き戻って理解出来る今では取りこぼさなくなっていた。

(まあ、予習復習しているような状態だものね)

 そう心の中で納得し、アデライトはその日の夜、王宮から戻ってきた父との夕食で、ある申し出をした。

「お父様? 私、ミレーヌ様に家庭教師をお願いしたいわ」
「……誰から、その名前を?」

 父の声が、低くなる。子供のアデライトに、下世話な噂話など聞かせたくなかったのだろう。
 しかし下手に使用人達を咎められて今後、情報源を失うのは困るので、アデライトは言わずに話の先を続けた。

「家庭教師を辞めたけれど、お母様と二人暮らしで大変だと聞いたの……先生をお願いしたら、私達みたいに親子でのんびり過ごせるんじゃないかしら?」
「アデライト……解った。お願いしてみよう」
「ありがとう、お父様!」

 優しさから出た言葉だと思われたのか、ウィリアムは頷いてくれた。
 そんな父に、アデライトは無邪気に『見える』笑顔でお礼を言った。



 そして二日後、アデライトは父と共に屋敷に訪れたミレーヌと対峙した。

「初めまして。ミレーヌ・ハルムと申します」

 結い上げた黒髪と、黒い瞳。
 年の頃は二十歳くらいか。薄化粧と眼鏡。そして、女家庭教師らしい地味なドレス――しかし、いやむしろシンプルだからこそ清楚な美貌が際立ち、また名乗る声や立ち上がっての礼はとても美しかった。

(……なるほどね)

 国王との話を聞いていたので色気のある女性か、それこそサブリナのような女性だと思っていた。しかし実際会ってみると派手ではなく、代わりに動作の一つ一つがしとやかで洗練されている。慎ましやかで、だからこそ庇護欲を掻き立てる女性だ。
 アデライトが納得していると、ミレーヌがしばしの躊躇の後、思い切ったように口を開いた。

「失礼ですが……今回のお申し出は、私にとってはありがたい限りです。ですが、べレス侯爵様には不利益かと……私に一体、何をお望みでしょうか?」

 ……流石に、露骨に顔には出してこない。
 しかしその言葉で、アデライトはミレーヌに警戒されていることに気づいた。
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