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侮辱
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そう、アデライトは十八歳だった。貴族の令息令嬢が通う王立学園を卒業した後は、婚約者――いや、妃として王太子であるリカルドを支えることになっていた。
……しかし入学してから今まで、アデライトはほとんどリカルドと話せていない。
同じクラスで、昼食も一緒に食べている。だが、リカルドは同席しているサブリナとばかり話して、アデライトには一瞥すらしない。
「亡霊みたいに辛気臭いお前の話など、つまらない。母上がうるさいから、いてもいいが……黙っていろ。サブリナと話す方が、有意義だ」
入学して間もなくそう言われてからずっと、アデライトは無視されている状態が続いていた。
ゆるやかに波打つ白銀の髪と、透き通った青い瞳。幼い頃、両親が「月の妖精のよう」と称してくれた容姿は、けれどリカルドのお気に召さなかったらしい。「亡霊」と言われ続けたせいでアデライトは自信を失い、長い髪で顔を隠し黙って俯くようになった。
一方、一年生の時にリカルドの隣の席になったサブリナは、光を思わせるサラサラの金髪と、宝石のように鮮やかな緑の瞳の持ち主だった。黒い髪と瞳のリカルドと並ぶと、光と闇の一対のようで本当にお似合いである。
更に彼女は外交官の娘であり、その美しさだけではなく話題も豊富だ。しかし、流石に二人きりで会うことは出来ないので、アデライトもリカルドの側近兼護衛達と共に行動『だけ』していた。
(……お父様には、相談するべきなんでしょうけれど)
言えなかったのは、己の力不足が招いた結果を知られるのが怖かったせいもあるが――今の彼女は、そもそも父とまともに話せない。幼い頃に母親を亡くしているからと、婚約が決まった八歳の時からずっと、令嬢教育と妃教育の為に王宮で暮らしているからである。
一方、父・ウィリアムは財務大臣を務めているので、王宮に執務室を持っている。そしてほぼ毎日、出勤している。
しかし、いや、むしろだからこそ、アデライトは自分から父に会いにいけなかった。仕事の邪魔をしたくなかったからである。
だが、今回はどうしても父と直接、話をしなければならない。
それ故、アデライトは先触れを出し学校から戻った後、父に会いにいくことにした。
……今、この国は昨年の猛暑と嵐。更に虫害により、深刻な食料不足に陥っている。
苦しむ民の為、アデライトは考えた。そして、自分に割り振られている王室助成金を使えないかと思いついた。
(今までは未成年だったけれど、王立学園を卒業したら一人前だわ……少しでも国の、民の為になれば)
そう思い、執務室で父に己の考えを打ち明けたのだが――返されたのは、思いがけない言葉だった。
……しかし入学してから今まで、アデライトはほとんどリカルドと話せていない。
同じクラスで、昼食も一緒に食べている。だが、リカルドは同席しているサブリナとばかり話して、アデライトには一瞥すらしない。
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入学して間もなくそう言われてからずっと、アデライトは無視されている状態が続いていた。
ゆるやかに波打つ白銀の髪と、透き通った青い瞳。幼い頃、両親が「月の妖精のよう」と称してくれた容姿は、けれどリカルドのお気に召さなかったらしい。「亡霊」と言われ続けたせいでアデライトは自信を失い、長い髪で顔を隠し黙って俯くようになった。
一方、一年生の時にリカルドの隣の席になったサブリナは、光を思わせるサラサラの金髪と、宝石のように鮮やかな緑の瞳の持ち主だった。黒い髪と瞳のリカルドと並ぶと、光と闇の一対のようで本当にお似合いである。
更に彼女は外交官の娘であり、その美しさだけではなく話題も豊富だ。しかし、流石に二人きりで会うことは出来ないので、アデライトもリカルドの側近兼護衛達と共に行動『だけ』していた。
(……お父様には、相談するべきなんでしょうけれど)
言えなかったのは、己の力不足が招いた結果を知られるのが怖かったせいもあるが――今の彼女は、そもそも父とまともに話せない。幼い頃に母親を亡くしているからと、婚約が決まった八歳の時からずっと、令嬢教育と妃教育の為に王宮で暮らしているからである。
一方、父・ウィリアムは財務大臣を務めているので、王宮に執務室を持っている。そしてほぼ毎日、出勤している。
しかし、いや、むしろだからこそ、アデライトは自分から父に会いにいけなかった。仕事の邪魔をしたくなかったからである。
だが、今回はどうしても父と直接、話をしなければならない。
それ故、アデライトは先触れを出し学校から戻った後、父に会いにいくことにした。
……今、この国は昨年の猛暑と嵐。更に虫害により、深刻な食料不足に陥っている。
苦しむ民の為、アデライトは考えた。そして、自分に割り振られている王室助成金を使えないかと思いついた。
(今までは未成年だったけれど、王立学園を卒業したら一人前だわ……少しでも国の、民の為になれば)
そう思い、執務室で父に己の考えを打ち明けたのだが――返されたのは、思いがけない言葉だった。
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