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すっかり忘れていたけれど

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 そして、翌々日のことである。
 無事、引継ぎを終えた恵理達は、朝からニゲル――の前に寄る、グリエスクード辺境伯領を目指して旅立った。
 山越えをするので身軽な馬での移動も考えたが、アジュールの時と違ってニゲルでは宿泊場所を考えられない。だから最低限、雨を避けて眠れるように幌馬車にした。前回同様、御者は恵理達が交代でやるつもりだ。
 とは言え今回、途中のグリエスクード辺境伯領では、ローニさんの知り合いの鍛冶職人にボイラーや換気扇について伝える予定だ。だから一泊は辺境伯領で泊まり、そこからまたニゲルに向かう予定になっている。

「グルナを頼むわねぇ、エリ」
「解りました」
「皆が返ってくるまで、ロッコのことは任されたわぁ」
「はい! 行ってきますっ」

 旅立つ恵理達を、ルーベルがそう言って隻眼を細めて笑ってくれた。そんな頼もしい言葉と笑顔に、恵理もまた元気よく返事をして笑みを返した。

「では、行きましょう」
「ええ」

 御者を務めるティートの言葉に頷いて、レアン達と一緒に幌馬車に乗る。
 それから交代で御者をしながら朝昼は携帯食を、そして夜は恵理が作った食事を食べて――やはり交代で見張りと休息を行っているうちに次の日の夕方には、恵理達はグリエスクード辺境伯領の、領主城がある街へと辿り着くことが出来た。

「ごきげんよう」
「……エリ! 来たんだなっ」

 そんな恵理達を城下町で迎えたのは、辺境伯令嬢であるアレクサンドラと――思いがけないと言うか、すっかり忘れていた人物だった。

「「「「「グイド(さん)?」」」」」
「おう! ニゲルに行くんだって? せっかくだから、俺もきょ」
「結構よ、頼んでないわ」
「久々なのに、当たりキツイな!?」
「フフ」

 抗議し、逆に警戒されては困るので恵理達はこっそりニゲルに行くことにした。ただ、黙ってニゲルに向かって後から問題になっても困るので、ヴェロニカにお願いして辺境伯に許可を取るよう手配していた。だから、学園にいる筈のアレクサンドラがとは思うが、転移魔法があるので恵理と会ったことがある彼女が来ていたこと自体は解る。
 しかしそう言えば以前、辺境伯からグイドが冒険者として誘われて、辺境伯領に来ていたことを恵理は今更ながらに思い出した。
 思い出したが、頼んでもいないことを言われたのに即却下し――言い返してくるグイドとのやり取りに、アレクサンドラがおかしそうに笑って言った。

「ヴェロニカからの手紙で、あなたの話は全く出て来なかったから……だから、変に盛り上がらないように言ったのに」
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