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王子襲来

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 夜、恵理の店にはルーベルと、ルーベルに呼ばれたグルナも来ていた。そしてルーベルは、ヴェロニカから――ではなく、帝都の冒険者ギルドマスター・デファンスが魔法使い経由で魔法の鳥を送ってきたと教えてくれた。
 帝都リーラにやって来たニゲル国王子は、王太子の婚姻祝いとしてシルクや真珠だけではなく、美しい花器や茶器まで持ってきたそうだ。
 そして皇宮で歓迎会を開いてもてなしたそうだが、そこでジェラルドは王子から思いがけないことを聞かれたと言う。

「これらの料理も十分、美味しいですが……帝都には、珍しくも美味しい料理があるそうですね」
「え……?」
「風の噂で聞いたのですよ。その料理は、食べられないのですか?」

 にこにこ、にこにこ。
 笑顔でそう言われては、断る訳にはいかない。それでもジェラルド達もお忍びで行くとは言え、庶民向けの食堂に他国の王子を連れていく訳にはいかない。
 それ故、食堂の料理人を王宮に呼んで恵理とグルナのレシピ料理を披露した。しかし、それで満足してくれると思ったが、王子は相変わらずの笑顔で言ったそうだ。

「元々は、とある温泉街で食べられる料理だそうですね? 国に戻る前に、立ち寄りたいのですが……一度、戻るとまたしばらく、来られなくなりますので」

 そう言われては、断る訳にもいかず――結果、王子一行はロッコに来ることになった。近くで守るのは皇宮に仕える騎士らしいが、万が一があっては困るので馬車の手配や周囲の警護として、冒険者ギルドにも依頼が入ったらしい。

「幸い、貴族向けの部屋はあるけどぉ~。田舎だから、もてなすのにも限界があるってギルドマスターが言ってくれたから、一泊二日になったわ。あ、他の料理は来てからの注文にするらしいけど、カレー丼はもう注文が入ってるから。悪いけどエリ、よろしくねぇ~?」
「わ、解りました」
「まぁ、頑張ってみるよ……たださ? 流石に王子サマに聞くのは無理だろうけど、お付きとかからは例の……ニゲルの食材については、何か聞けてるのか?」

 随分と大事になったとは思うが、恵理としては注文が入ったらただ精一杯に作るだけである。
 そう思い、気合いを入れていると気になっていたのか、グルナがルーベルに尋ねた。

「それがねぇ……今のところ、教えて貰えてないらしいのよぉ~。殿下もヴェロニカ様も頑張ってくれたらしいけど、どうも笑ってはぐらかされるんですって」
「え? レシピを教えるって言ってもか?」
「そうなのよねぇ。だからロッコ(ここ)で聞けないと、次にいつ聞けるか解らないから……アタシ、頑張るわねっ」
「ネェさん、ありがとうな!」
「ルビィさん、ありがとうございますっ」
「どうか、よろしくお願いしますっ」

 そして「任せなさい」と言うように、自分の厚い胸板を叩いて言うルーベルに、恵理とグルナに加えて新メニューが楽しみなレアンも真剣な表情で頼み込んでいた。
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