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リバース!1
急転2
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「……えっと、コスプレしてたのか?」
「まぁ、失礼ね? れっきとした四月生まれの十六歳よ? 化粧は仕事用」
「仕事……ってか、そもそもここ、何だよ?」
研究って、魔法のか? 床に転がっているせいもあるが、そもそもが薄暗くて周りがよく見えない。
一方、目の前の黒城は別のことに感心したようだった。
「流石ね? 結界装置があるのに、喋れるなんて」
「結界……装置?」
「その機械のことよ。魔力に反応して、対象者の動きを封じるの」
「対象者って……テルスの奴らのことかよ」
「……ええ。彼らのことよ」
俺がテルスからの拉致監禁について尋ねると、黒城は驚く代わりに唇の端を上げた。刹那、明かりが点いて周りが見えるようになる。
部屋の両脇に並ぶ、ガラスの入れ物。
俺が目を見張ったのは、その中にいる面々が胴衣やマント――つまりはテルスの衣装を着ていたから、だけじゃない。
その中の一人の顔に、ひどく見覚えがあったからだ。
「……義父さん!?」
短い銀髪。今は閉じられてるが紫色の瞳など、日本ではほとんど見かけない色彩だ。精悍な容姿。アラフィフな筈なのに、アラフォーどころかアラサーにしか見えない。
最後に会った頃からほとんど変わっていないなんて、それこそ一種のファンタジーだ。
「あら? 知り合いだったの?」
「……ってか、何だよあれ?」
「ああ、抽出装置のこと? 魔力を奪う為の機械よ?」
話題を変える為に振った質問に、黒城が笑顔で答える。もっとも内容は全然、全く笑えない。
「何で、はるばる異世界にまで行って」
「だって、実験するのにはたくさんの材料が必要だったんだもの」
にこにこ、にこにこ――あっさりととんでもないことを言うと、黒城はそこでクイッと俺の顎を持ち上げた。
「ねぇ? だからあなたも、私の研究に協力してくれるわよね?」
「協、力?」
声が掠れるくらい、体にかかる負荷が増している。
たまらず眉を寄せた俺の顔を覗き込みながら、黒城が話を続ける。
「ええ、あなたの魔力も手に入れたらMSは完璧よ。誰でも簡単に、魔力を手に入れられるわ」
「……んな、スゲェ技術……あんなら、魔力なんていらねぇ……だろ?」
「逆よ。テルスを手に入れるには、化学の力だけじゃ足りないの」
思いがけない世界征服(こと)を笑顔で語り、黒城はふと言葉を止めた。そして、その視線を背後へと流した。
……視線の先、そこには気を失ったまま横たえられた椿がいる。
「どれくらい素晴らしい研究か、実際に見て貰えば解るわよね?」
その言葉に応えるように、椿の横にいた白衣の男がMSを手に取り、椿の口に入れようとした。
「……よせ、やめろっ!」
魔法を使うつもりはなかった。だが、俺の怒りに応えるように魔力が体の内側から沸き上がった。
風がうねりを上げ、全てを吹き飛ばす。
……そう、椿の口に入ろうとしたMSだけじゃなく。
俺を戒めていた機械、それから義父さん達を閉じ込めていた機械が砕け散る中、俺は立ち上がった。
「何て魔力だ……結界装置も、抽出装置も吹き飛ばすなんて」
「……化け物」
「危険です、黒城博士! いくらお母様の故郷で、ご両親の悲願だったとしても……結界装置が通用しないとなるとっ」
口々に勝手なことを言う男達に呆れたが、最後の内容には引っかかった。えっ、お母様って――黒城の母親が、テルスの人間ってことか?
……パンッ!
そんな俺の見ている前で、黒城が気になることを言った眼鏡の男の頬を叩く。
「うるさいわね……彼女の魔力から、予測出来たことでしょう? 見苦しく騒ぐんじゃないわよ、菅原(かんばら)」
冷ややかに言い放った黒城の顔からは、笑みが消えていた。それから、驚く俺に目を向けてきて、
「そう、私の母はテルス人だったのよ。あいにく、私が生まれてすぐに死んで……父が『道』を見つけたのは、その後だけどね?」
あっさりととんでもないことを言って、黒城はサラリと長い髪を掻き上げた。
そして再び、俺に笑って見せたかと思うと、
「混血だけど、私にはあなたと違って魔力はないわ……だからコレ、用意しておいたの」
その言葉と共に、黒城は取り出したMSを躊躇せず口にした。刹那、MSを飲んだ黒城の額に青い文様が現れる。
「……水の蛇」
呪文と共に、俺へと襲いかかった水の魔法に対して、俺は闇を凝らせて突き出した。ぶつかった、と思った刹那、闇が水を吸い込んで消える。
それを見てコクリ、と首を傾げたかと思うと、黒城は何でもないことのように呟いた。
「コレだけじゃ駄目なら……もっと、摂取しなくちゃ」
「なっ!?」
ギョッとした俺の前で、黒城が再びMSを飲み込む――って、サプリメントとかじゃねぇんだぞ!?
「コレならどうかしら……風の刃! 炎の牙!」
それから楽しそうに笑うと、異なる属性の魔法を次々と俺へと放った。闇で吸い込むのが追いつかず、避けるので精一杯になる。
……浮かんでいた文様は、いつしか額だけじゃなく黒城の顔や足、全身へと広がっていた。
「まぁ、失礼ね? れっきとした四月生まれの十六歳よ? 化粧は仕事用」
「仕事……ってか、そもそもここ、何だよ?」
研究って、魔法のか? 床に転がっているせいもあるが、そもそもが薄暗くて周りがよく見えない。
一方、目の前の黒城は別のことに感心したようだった。
「流石ね? 結界装置があるのに、喋れるなんて」
「結界……装置?」
「その機械のことよ。魔力に反応して、対象者の動きを封じるの」
「対象者って……テルスの奴らのことかよ」
「……ええ。彼らのことよ」
俺がテルスからの拉致監禁について尋ねると、黒城は驚く代わりに唇の端を上げた。刹那、明かりが点いて周りが見えるようになる。
部屋の両脇に並ぶ、ガラスの入れ物。
俺が目を見張ったのは、その中にいる面々が胴衣やマント――つまりはテルスの衣装を着ていたから、だけじゃない。
その中の一人の顔に、ひどく見覚えがあったからだ。
「……義父さん!?」
短い銀髪。今は閉じられてるが紫色の瞳など、日本ではほとんど見かけない色彩だ。精悍な容姿。アラフィフな筈なのに、アラフォーどころかアラサーにしか見えない。
最後に会った頃からほとんど変わっていないなんて、それこそ一種のファンタジーだ。
「あら? 知り合いだったの?」
「……ってか、何だよあれ?」
「ああ、抽出装置のこと? 魔力を奪う為の機械よ?」
話題を変える為に振った質問に、黒城が笑顔で答える。もっとも内容は全然、全く笑えない。
「何で、はるばる異世界にまで行って」
「だって、実験するのにはたくさんの材料が必要だったんだもの」
にこにこ、にこにこ――あっさりととんでもないことを言うと、黒城はそこでクイッと俺の顎を持ち上げた。
「ねぇ? だからあなたも、私の研究に協力してくれるわよね?」
「協、力?」
声が掠れるくらい、体にかかる負荷が増している。
たまらず眉を寄せた俺の顔を覗き込みながら、黒城が話を続ける。
「ええ、あなたの魔力も手に入れたらMSは完璧よ。誰でも簡単に、魔力を手に入れられるわ」
「……んな、スゲェ技術……あんなら、魔力なんていらねぇ……だろ?」
「逆よ。テルスを手に入れるには、化学の力だけじゃ足りないの」
思いがけない世界征服(こと)を笑顔で語り、黒城はふと言葉を止めた。そして、その視線を背後へと流した。
……視線の先、そこには気を失ったまま横たえられた椿がいる。
「どれくらい素晴らしい研究か、実際に見て貰えば解るわよね?」
その言葉に応えるように、椿の横にいた白衣の男がMSを手に取り、椿の口に入れようとした。
「……よせ、やめろっ!」
魔法を使うつもりはなかった。だが、俺の怒りに応えるように魔力が体の内側から沸き上がった。
風がうねりを上げ、全てを吹き飛ばす。
……そう、椿の口に入ろうとしたMSだけじゃなく。
俺を戒めていた機械、それから義父さん達を閉じ込めていた機械が砕け散る中、俺は立ち上がった。
「何て魔力だ……結界装置も、抽出装置も吹き飛ばすなんて」
「……化け物」
「危険です、黒城博士! いくらお母様の故郷で、ご両親の悲願だったとしても……結界装置が通用しないとなるとっ」
口々に勝手なことを言う男達に呆れたが、最後の内容には引っかかった。えっ、お母様って――黒城の母親が、テルスの人間ってことか?
……パンッ!
そんな俺の見ている前で、黒城が気になることを言った眼鏡の男の頬を叩く。
「うるさいわね……彼女の魔力から、予測出来たことでしょう? 見苦しく騒ぐんじゃないわよ、菅原(かんばら)」
冷ややかに言い放った黒城の顔からは、笑みが消えていた。それから、驚く俺に目を向けてきて、
「そう、私の母はテルス人だったのよ。あいにく、私が生まれてすぐに死んで……父が『道』を見つけたのは、その後だけどね?」
あっさりととんでもないことを言って、黒城はサラリと長い髪を掻き上げた。
そして再び、俺に笑って見せたかと思うと、
「混血だけど、私にはあなたと違って魔力はないわ……だからコレ、用意しておいたの」
その言葉と共に、黒城は取り出したMSを躊躇せず口にした。刹那、MSを飲んだ黒城の額に青い文様が現れる。
「……水の蛇」
呪文と共に、俺へと襲いかかった水の魔法に対して、俺は闇を凝らせて突き出した。ぶつかった、と思った刹那、闇が水を吸い込んで消える。
それを見てコクリ、と首を傾げたかと思うと、黒城は何でもないことのように呟いた。
「コレだけじゃ駄目なら……もっと、摂取しなくちゃ」
「なっ!?」
ギョッとした俺の前で、黒城が再びMSを飲み込む――って、サプリメントとかじゃねぇんだぞ!?
「コレならどうかしら……風の刃! 炎の牙!」
それから楽しそうに笑うと、異なる属性の魔法を次々と俺へと放った。闇で吸い込むのが追いつかず、避けるので精一杯になる。
……浮かんでいた文様は、いつしか額だけじゃなく黒城の顔や足、全身へと広がっていた。
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