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潰滅

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本日、二話更新します(ざまぁ完了。次話で完結)



 レニエの言葉を理解するのに、少し時間がかかったが――解った瞬間、ゲルダは真っ青になった。
 ゲルダは、母の死後はずっと使用人として働いていた。母が亡くなった後、父が伯爵と呼ばれるようになったのを、子供だった彼女は「そういうものだ」と受け入れていた。
 けれど、レニエの言葉だと決してそういうものではない。前世を思い出しても、逆に価値観の弊害で男性が後を継ぐのが当たり前だと思っていたが――思えば女性である母が伯爵だったのだから、婿養子である父が後を継ぐのがそもそもおかしいのだ。今回の場合はゲルダが幼かったという理由があったが、その跡継ぎであるゲルダに教育を施さず、虐げていた上に悪評を流し、更に成人になると同時に追い出したとなると伯爵家を乗っ取ろうとしたとしか思えない。と言うか、レニエの言葉に真っ青になっているので、本当にそれを狙っていたのだろう。

(お義母様は知っていて、クリスティアは知らなかったみたいね……だけど、知らなかったでは済まされないわ。クリスティアも、そして私も)

 母が生きていた頃に、簡単な淑女教育を受けたことがあったが――亡くなった後、使用人としてこき使われていて全く教育を受けていないので、いくら前世の知識はあっても伯爵家の当主になどなれない。しかし伯爵家を乗っ取られそうになっていた以上、父がこのまま家を継げば良いなんて言えない。
 幸いと言うのも変だが、王族であるレニエがこの状況を把握しているので、家の取り潰しや領主の交代は速やかに済むだろう。領民への迷惑は、最小限で済む筈だ。
 ……あとは知らなかったとは言え、伯爵家を乗っ取られそうになった責任を取らなければ。

「殿下……いかなる処分も、甘んじてお受けします」
「ゲルダ!?」
「クロム……我が家は、それだけのことをしたのよ。知らなかったじゃ済まされないの。ただ殿下、クロムは私を助けてくれていただけなので……罰は、我が家だけで」

 罰を受けることを申し出たゲルダに、クロムが焦った声を上げる。そんな彼を宥めつつもレニエにゲルダだったが、クロムは引かなかった。

「……だったら! 俺も一緒だ、俺はゲルダのものなんだからっ」
「クロム?」
「離れない……離さないからな!」

 そう言って、クロムが抱き締めてきたのに――その熱に包まれたのに、ゲルダの目がたまらず潤んだ。前世と違って、この異世界でのゲルダは一人で。クロムがずっと傍にいてくれて、ありがたいと思っていたがこうして抱き締められたことで、一人じゃないと痛感した。
 そんなゲルダに対して、クリスティアが嫌なことを振り払うように首を横に振って叫ぶ。

「わ、私は関係ないわ!? お父様とお母様が勝手にっ」
「お前……よくもぬけぬけと!」
「本当に。人間は、ここぞという時に本性が出るね」

 ここぞとばかりに無実を訴えるクリスティアにクロムが声を荒げ、レニエは呆れたように肩を竦めて言葉を続けた。

「主犯であるジェロムと妻・エレノアは、罪人として鉱山送りとする。そして領土は、他家に任せるとして……この森はサブル伯領から王家領として、ゲルダ嬢にはこのまま森番を続けて貰う。勿論、毎月の手当ては払うよ」
「……よろしいのですか?」
「ああ。これだけ緑豊かな森は国だけではなく、他国にもないからね。種や苗木を持ってくるから、可能な限り育ててみてほしい。あとクロムは、今まで通りゲルダ嬢を守ってくれ」
「言われなくても」
「私は、こんなところに住むのは嫌よっ! おじい様のところに行くわっ」
「ゲージ子爵家のことかい? 彼は、ゲルダ嬢を表に出さない息子を何度も諌めたが、聞き入れられなかったと言って絶縁したよ。子爵家を継いでいたジェロムの兄君と共に、爵位返上すると言うのは止めたけどね……そんな訳で、ゲージ子爵家に行くのは無理だよ。もう君達は平民だ。そもそも下位貴族だからって、手紙や贈り物が来ても受け取るだけでろくにお礼もしていなかったと聞いたけど? あと、ゲルダ嬢への贈り物も奪っていたって?」
「そんな……お姉様!?」
「舌の根も乾かないうちに、ゲルダに頼るな。そもそも俺は、お前が来るのを絶対に認めない」

 クリスティアが縋ってくるのを、クロムが一蹴する。レニエ同様、いや、それ以上にクリスティアを相手にしないクロムを諦め、クリスティアは再びレニエに向き直った。

「酷いわ! 私は、何も知らなかったのよっ!?」
「ああ。だから財産没収はするけど、君は鉱山送りにはしないでこの先を選ばせてあげる。修道院と娼館、どっちが良い?」
「何よ、その二択!?」
「最低限の衣食住を保証した結果だけど? 家から放り出されて、すぐに仕事や住むところが見つかる? あ、貴族や富裕層との婚姻は夢見ない方が良い。伯爵家を乗っ取ろうとした愚か者の娘なんて、せいぜい愛人にしかなれない。とは言え、飽きられたら結局は娼館か、他国に売り払われるだけだ」
「そんな……っ」
「別に、信じなくても構わないけど……逆に、君に嘘をつくメリットが私にあると思う?」

 今までの笑みを消し、小首を傾げて尋ねたレニエに――現実を突きつけられたクリスティアは立っていられなくなり、その場にへたり込み静かに涙を流しながらも口を開いた。

「……修道院で、お願いします」
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