10 / 12
相方と一緒に来ました。よろしくお願いしますー。
しおりを挟む
その後、実緒はレストランを後にし、森脇に連れられてロッカーが並んでいる部屋へと入った。そして、言われるままにテーブルに腰かけ、書類作成を行った。
実緒の契約は、九月までのおよそ半年だ。とは言え、ホテル側と実緒の双方が望めば、そこからまた半年単位で更新出来るらしい。まあ、初めてのバイトなので実緒はともかく、ホテル側に認められるかどうかはこれからの頑張り次第だが。
「あと、こちらが明日からの制服です。サイズを確認したいので、着てみて下さい」
「はい」
制服、と言われて差し出されたのは長袖シャツと、黒いエプロン。あと、黒のスラックスのギャルソンスタイルだった。幸い、大きすぎたり小さすぎたりせず、腕を振ってみたりしゃがんでみても問題なかった。
「問題なければ、ここがあなたのロッカーになるので入れて下さい。とは言え、シャツは毎日。エプロンとズボンは、休み前にホテルのクリーニングに出して下さい。この社員証を見せると、新しいものが渡されるので今日のように、自分のロッカーに入れて翌日の仕事に備えて下さい……黒い革靴は、持ってきていますか?」
「フロントに預けた荷物の中にあります」
「では持ってきて、靴用のロッカーに入れましょう。あとは、クリーニングの場所を案内して……社員寮に、行きますよ」
「はい!」
社員証を受け取り、荷物を取ってきてローファーを置き、ホテルのクリーニングの場所を確認して。
実緒は荷物を荷物を手に、森脇と共に女子寮へと向かった。そして、洗面所や共用スペースを案内された後、自分の部屋で解散──と思ったが、何故か部屋に入る前に森脇が隣の部屋のドアをノックした。
「はーい?」
「森脇です。佐久間さん、明日からの同期の方が着きましたが、ちょっとよろしいでしょうか?」
「はい、解りましたー」
森脇の声がけに答え、ドアを開けたのは実緒より少し上、二十歳くらいの女性だった。ただ、年は近いが見た目はまるで違う。親が嫌がるからと髪を染めたりパーマをかけたりせず、化粧っ気もない実緒に対して、目の前の女性の明るい色の髪はふんわりと波打ち、まだ入浴前だからかバッチリ化粧をしていて、それがまたよく似合っていた。
「佐久間晴です、相方と一緒に来ました。よろしくお願いしますー」
「……門倉実緒です、こちらこそよろしくお願いします」
「はい、明日からよろしくー……森脇さん?」
「ええ、ありがとう。二人とも、明日から頑張って下さいね」
『相方』。つまり恋人と一緒に、のところで引っかかったが、リゾートバイトを派遣している会社では、恋人や友人などと一緒に申し込み、同じバイトをするのは禁止していない。いや、むしろそれで応募が一人増えるならと思うのか、推奨しているくらいだ。
その為、実緒が口出しする話ではない。まあ、三人中二人が恋人だと実緒はあぶれるだろうが、別に友達を作りたくて来ている訳ではない。
そう思い、相方発言には触れずに挨拶すると晴はまずは実緒を、次いで森脇を見て言った。あっさりしたものだが、とりあえず穏便に済んだようなのでホッとする。そして、森脇が話を締め括ったことで晴はドアを閉め、実緒は隣の部屋に入るよう促された。
「……個室」
「ええ、短期じゃないですし春さんとは違う派遣会社ですからね。あ、こちらが部屋の鍵になります。部屋を空ける時は忘れずにかけるか、かけないなら貴重品は持ち歩いて下さい」
「解りました。今日は、ありがとうございました」
「いえ、明日からよろしくお願いします」
そう返事をして、実緒は森脇が立ち去るのを見送ってから、ドアを閉めて鍵をかけ部屋の明かりをつけた。
小さくて、部屋の半分はベッドのようだが──自分の、自分だけの部屋だ。
荷物を床に置き、少し考えて実緒はベッドにごろりと寝転んでみた。
(……ここに来れば休みの日の朝は好きなだけ眠れるし、お給料の範囲であれば自分の好きなものを好きなように買える)
そう考えるだけで、実緒はワクワクした。
ただ、ジュースくらいは飲んだが昼食は食べていなかったのでお腹が鳴り──慌てて上着などを脱ぐと、実緒はちょっと行儀が悪いが、床に直に座って木元から貰った食べ物やお茶を敷いたビニール袋の上に並べ、昼食兼夕食として食べた。お腹が空いていたのもあるが、美味しくてペロリとたいらげた。
それから、着てきたものや買ってきた服をハンガーにかけたり、荷物を置いたりした後、少し考えた末に部屋についていたユニットバスを使うことにした。先程、寮に温泉浴場もあると教えて貰ったが、複数の人間とお風呂に入ったのは修学旅行くらいである。今日は緊張しない方を選び、慣れてきたら足を伸ばしたりしたいので、大きい浴場を使うことにした。
(おぉ……)
ユニットバスなのでお湯を溢れさせたり、シャワーのお湯を飛び散らさないことに気をつけて、実緒はお風呂に入った。体を洗った後、浴槽にお湯をためて入ったら、体が冷えていたのもありあまりの気持ち良さに「うぁー……」と声が出てしまった。
そして髪を乾かした後、少し早いがスマートフォンで時間差のアラームを設置し、実緒は目を閉じた。
……家出初日の夜は翌日、アラームが鳴るまで夢も見ずに爆睡した。
実緒の契約は、九月までのおよそ半年だ。とは言え、ホテル側と実緒の双方が望めば、そこからまた半年単位で更新出来るらしい。まあ、初めてのバイトなので実緒はともかく、ホテル側に認められるかどうかはこれからの頑張り次第だが。
「あと、こちらが明日からの制服です。サイズを確認したいので、着てみて下さい」
「はい」
制服、と言われて差し出されたのは長袖シャツと、黒いエプロン。あと、黒のスラックスのギャルソンスタイルだった。幸い、大きすぎたり小さすぎたりせず、腕を振ってみたりしゃがんでみても問題なかった。
「問題なければ、ここがあなたのロッカーになるので入れて下さい。とは言え、シャツは毎日。エプロンとズボンは、休み前にホテルのクリーニングに出して下さい。この社員証を見せると、新しいものが渡されるので今日のように、自分のロッカーに入れて翌日の仕事に備えて下さい……黒い革靴は、持ってきていますか?」
「フロントに預けた荷物の中にあります」
「では持ってきて、靴用のロッカーに入れましょう。あとは、クリーニングの場所を案内して……社員寮に、行きますよ」
「はい!」
社員証を受け取り、荷物を取ってきてローファーを置き、ホテルのクリーニングの場所を確認して。
実緒は荷物を荷物を手に、森脇と共に女子寮へと向かった。そして、洗面所や共用スペースを案内された後、自分の部屋で解散──と思ったが、何故か部屋に入る前に森脇が隣の部屋のドアをノックした。
「はーい?」
「森脇です。佐久間さん、明日からの同期の方が着きましたが、ちょっとよろしいでしょうか?」
「はい、解りましたー」
森脇の声がけに答え、ドアを開けたのは実緒より少し上、二十歳くらいの女性だった。ただ、年は近いが見た目はまるで違う。親が嫌がるからと髪を染めたりパーマをかけたりせず、化粧っ気もない実緒に対して、目の前の女性の明るい色の髪はふんわりと波打ち、まだ入浴前だからかバッチリ化粧をしていて、それがまたよく似合っていた。
「佐久間晴です、相方と一緒に来ました。よろしくお願いしますー」
「……門倉実緒です、こちらこそよろしくお願いします」
「はい、明日からよろしくー……森脇さん?」
「ええ、ありがとう。二人とも、明日から頑張って下さいね」
『相方』。つまり恋人と一緒に、のところで引っかかったが、リゾートバイトを派遣している会社では、恋人や友人などと一緒に申し込み、同じバイトをするのは禁止していない。いや、むしろそれで応募が一人増えるならと思うのか、推奨しているくらいだ。
その為、実緒が口出しする話ではない。まあ、三人中二人が恋人だと実緒はあぶれるだろうが、別に友達を作りたくて来ている訳ではない。
そう思い、相方発言には触れずに挨拶すると晴はまずは実緒を、次いで森脇を見て言った。あっさりしたものだが、とりあえず穏便に済んだようなのでホッとする。そして、森脇が話を締め括ったことで晴はドアを閉め、実緒は隣の部屋に入るよう促された。
「……個室」
「ええ、短期じゃないですし春さんとは違う派遣会社ですからね。あ、こちらが部屋の鍵になります。部屋を空ける時は忘れずにかけるか、かけないなら貴重品は持ち歩いて下さい」
「解りました。今日は、ありがとうございました」
「いえ、明日からよろしくお願いします」
そう返事をして、実緒は森脇が立ち去るのを見送ってから、ドアを閉めて鍵をかけ部屋の明かりをつけた。
小さくて、部屋の半分はベッドのようだが──自分の、自分だけの部屋だ。
荷物を床に置き、少し考えて実緒はベッドにごろりと寝転んでみた。
(……ここに来れば休みの日の朝は好きなだけ眠れるし、お給料の範囲であれば自分の好きなものを好きなように買える)
そう考えるだけで、実緒はワクワクした。
ただ、ジュースくらいは飲んだが昼食は食べていなかったのでお腹が鳴り──慌てて上着などを脱ぐと、実緒はちょっと行儀が悪いが、床に直に座って木元から貰った食べ物やお茶を敷いたビニール袋の上に並べ、昼食兼夕食として食べた。お腹が空いていたのもあるが、美味しくてペロリとたいらげた。
それから、着てきたものや買ってきた服をハンガーにかけたり、荷物を置いたりした後、少し考えた末に部屋についていたユニットバスを使うことにした。先程、寮に温泉浴場もあると教えて貰ったが、複数の人間とお風呂に入ったのは修学旅行くらいである。今日は緊張しない方を選び、慣れてきたら足を伸ばしたりしたいので、大きい浴場を使うことにした。
(おぉ……)
ユニットバスなのでお湯を溢れさせたり、シャワーのお湯を飛び散らさないことに気をつけて、実緒はお風呂に入った。体を洗った後、浴槽にお湯をためて入ったら、体が冷えていたのもありあまりの気持ち良さに「うぁー……」と声が出てしまった。
そして髪を乾かした後、少し早いがスマートフォンで時間差のアラームを設置し、実緒は目を閉じた。
……家出初日の夜は翌日、アラームが鳴るまで夢も見ずに爆睡した。
3
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説


どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。





ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる