タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま

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情報量が多すぎる

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 元々、獣人はもう少し南の、人族の国と呼ばれる・ダルニア国の近くに住んでいたと言う。
 しかしランが話していた通り、獣人は人族以外ということと見た目や身体能力のせいで、人間に捕まって奴隷にされるようになった。
 その時、このエアヘル国近くの森に逃げ込もうと決めたのが――初代語り部であり、異世界からの転生者だった。

「彼女は今までになかった知識をたくさん、教えてくれた。料理や香草の使い方に、蜂蜜を育てる養蜂。それと、取れた蜂蜜の使い方なんかを教えてくれた。おかげであたしらは食べられるものが増えたし、金を稼ぐ術も覚えた」
「ああ、だから……」

 食事やお風呂で知識もだが、おもてなしに溢れた感じが日本のようだと思った訳だ。同じ国なだけではなく、生まれ育った時期も近い気がするが、異世界からの転生なのでこちらとの時間にズレがあるのかもしれない。
 そう納得したのが顔に出たのか、ロラは満足そうに笑って言った。

「あんたが満足したなら、何よりだ。彼女は今は作れなくても、いずれ機会があればって色んな料理や技術を口頭で伝えてくれたんだが、それらの完成形が頭にあるのは転生者だけからね。百五十年くらい前の話だから、あたしも初代には実際会ってないし」
「……そうなんですね」
「そうなんだよ。ただ、そもそも転生者だって知らないと知識の出どころの説明が出来ないから、代々の語り部と……あと、ランにだけは教えてるんだけどね」
「ランさんに?」

 語り部に伝えられるというのは解る。しかし何故、ここでランの名前が出てくるか解らない。

「ここからは、本人からじゃないと……聞いてるだろう? ラン、出ておいで」
「ああ」
「っ!?」
「アガタ様!」

 それ故、アガタが戸惑っているとロラが不意に声をかけ――それに応えて扉代わりの布を捲り、ランが出てきたのに驚いた。
 メルは気づいていたのか、即座にアガタの肩から降りて彼女を庇うように前に出て、しかもアガタの身長くらいの大きさになって羽根を広げた。
 そのもふもふ越しにアガタが視線を向けると、ランは気まずそうに右頬を掻きながら言った。

「……俺も、なんだ」
「えっ?」
「だから……俺も、異世界からの転生者なんだ」
「「え」」
「もっとも、享年十七歳の女子高生だったから初代様みたいに、大した知識はなくて……味見くらいしか、出来ないんだけどな」
「いや、俺……いえ、わたしは大往生だったけど。食堂のオヤジだったから、わたしも食事のことくらいしか言えないかな」
「……ありがとな。改めて初代様、すげぇな」
「うん」

 思いがけない発言にアガタだけではなく、メルも声を上げた。
 そして、更に続けられた内容に――前世の口調が出てしまうくらい動揺したが、年齢は関係ないのでそう言って慰め、ランが初代の多岐に渡る知識のすごさを褒めるのに大きく頷いた。
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