上 下
12 / 31

捨てる神あれば拾う神あり

しおりを挟む
「おーい、俺だ! ランだっ……魔物が多いから、この子らに頼んで連れてきて貰ったんだ!」

 不意に空からそう声を張り上げたランに、何事かと思ったら――声の先、視線の先で剣や槍を構えている獣人達が見えた。

「無礼な……!」
「メル、ごめんね……大きいから、誤解されやすいのかも。すごく、優しくて頼りになるのに」
「アガタ様のせいではありません!」
「運んで貰った身からすると、嬢ちゃんに同感なんだが……悪いな。魔物もだけど、ここら辺は野盗や奴隷商人も来るんだよ。喋る鳥もどきだけじゃなく、女子供でも人間がいたらどうしても警戒する」
「その鳥もどきはやめろ!」
「……ああ、うん。それは、仕方ないね」

 ランの遠慮のない言葉に、メルが憤慨するが――アガタとしては、納得するしかなかった。差別されるわ、捕まったら奴隷にされるわでは、むしろよく思えと言うのが難しい。

「……あれ? それなのにわたしにご飯とか、お金っていいの?」

 そこまで考えて、今更ながらに気づいた。それから、ランからは人間に対する警戒や嫌悪をあまり感じなかったことにも。
 そんなアガタの疑問にランが軽く目を見張り、次いでやれやれと呆れたように笑った。

「普通の人族なら渡さないと怒るし、むしろこれ幸いと吹っかけるぞ?」
「え……」
「会えたのが、あんたで良かった……あと俺は、蜂蜜の売り買いで里の奴らよりは、人族に会う。だから全員一括りにはしねぇし、恩は返す。それだけだ」
「……そう」

 話を聞きながら、アガタこそ最初に会った獣人がランだったのは、幸運だと思った。しかし攻撃こそしないが武器から手は離さず、こちらを睨んでいる獣人の男達を見て、これ以上刺激しない方がいいとも思った。

「気持ちだけ受け取るわ。メル、ランを降ろして行きましょ」
「お待ち!」

 だからメルだけではなく、獣人達に聞こえるようにそう言って、立ち去ろうとしたのだが――不意に、知らない女性の声に呼び止められて驚いた。そんなアガタに、いや他の者達にも声の主――獣人の老婆は、臆せず言い放った。

「子供が、変な気を使うんじゃない! 降りといで! あと、あんた達! ランの恩人に、何やってんだい!?」
「……彼女は、ロラ婆。語り部だ……あの婆さんが出てきてくれたら、もう大丈夫だ」

 アガタ達だけに聞こえる小さな声で、ランがボソリと言う。
 その言葉通り、アガタよりも小柄に見える老婆に従い、男達は武器を下ろしたり、鞘に収めたりした。

(もしかして……ランは皆にもだけど、あのお婆さんにも聞こえるように、大きな声で言ったのかしら?)

 そんな疑問が顔に出たのか、ランはニッと口の端を上げ――つられて頬を緩めながら、アガタはメルに言った。

「……メル、一緒に行ってみましょう?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界から本物の聖女が来たからと、追い出された聖女は自由に生きたい! (完結)

深月カナメ
恋愛
十歳から十八歳まで聖女として、国の為に祈り続けた、白銀の髪、グリーンの瞳、伯爵令嬢ヒーラギだった。 そんなある日、異世界から聖女ーーアリカが降臨した。一応アリカも聖女だってらしく傷を治す力を持っていた。 この世界には珍しい黒髪、黒い瞳の彼女をみて、自分を嫌っていた王子、国王陛下、王妃、騎士など周りは本物の聖女が来たと喜ぶ。 聖女で、王子の婚約者だったヒーラギは婚約破棄されてしまう。 ヒーラギは新しい聖女が現れたのなら、自分の役目は終わった、これからは美味しいものをたくさん食べて、自由に生きると決めた。

【完結】人々に魔女と呼ばれていた私が実は聖女でした。聖女様治療して下さい?誰がんな事すっかバーカ!

隣のカキ
ファンタジー
私は魔法が使える。そのせいで故郷の村では魔女と迫害され、悲しい思いをたくさんした。でも、村を出てからは聖女となり活躍しています。私の唯一の味方であったお母さん。またすぐに会いに行きますからね。あと村人、テメぇらはブッ叩く。 ※三章からバトル多めです。

悪役令嬢は始祖竜の母となる

葉柚
ファンタジー
にゃんこ大好きな私はいつの間にか乙女ゲームの世界に転生していたようです。 しかも、なんと悪役令嬢として転生してしまったようです。 どうせ転生するのであればモブがよかったです。 この乙女ゲームでは精霊の卵を育てる必要があるんですが・・・。 精霊の卵が孵ったら悪役令嬢役の私は死んでしまうではないですか。 だって、悪役令嬢が育てた卵からは邪竜が孵るんですよ・・・? あれ? そう言えば邪竜が孵ったら、世界の人口が1/3まで減るんでした。 邪竜が生まれてこないようにするにはどうしたらいいんでしょう!?

令嬢に転生してよかった!〜婚約者を取られても強く生きます。〜

三月べに
ファンタジー
 令嬢に転生してよかった〜!!!  素朴な令嬢に婚約者である王子を取られたショックで学園を飛び出したが、前世の記憶を思い出す。  少女漫画や小説大好き人間だった前世。  転生先は、魔法溢れるファンタジーな世界だった。リディーは十分すぎるほど愛されて育ったことに喜ぶも、婚約破棄の事実を知った家族の反応と、貴族内の自分の立場の危うさを恐れる。  そして家出を決意。そのまま旅をしながら、冒険者になるリディーだったのだが? 【連載再開しました! 二章 冒険編。】

召喚されたけど不要だと殺され、神様が転生さしてくれたのに女神様に呪われました

桜月雪兎
ファンタジー
召喚に巻き込まれてしまった沢口香織は不要な存在として殺されてしまった。 召喚された先で殺された為、元の世界にも戻れなく、さ迷う魂になってしまったのを不憫に思った神様によって召喚された世界に転生することになった。 転生するために必要な手続きをしていたら、偶然やって来て神様と楽しそうに話している香織を見て嫉妬した女神様に呪いをかけられてしまった。 それでも前向きに頑張り、楽しむ香織のお話。

最強幼女のお助け道中〜聖女ですが、自己強化の秘法の副作用で幼女化してしまいました。神器破城槌を振り回しながら、もふもふと一緒に旅を続けます〜

黄舞
ファンタジー
 勇者パーティの支援職だった私は、自己を超々強化する秘法と言われた魔法を使い、幼女になってしまった。  そんな私の姿を見て、パーティメンバーが決めたのは…… 「アリシアちゃん。いい子だからお留守番しててね」  見た目は幼女でも、最強の肉体を手に入れた私は、付いてくるなと言われた手前、こっそりひっそりと陰から元仲間を支援することに決めた。  戦神の愛用していたという神器破城槌を振り回し、神の乗り物だと言うもふもふ神獣と旅を続ける珍道中! 主人公は元は立派な大人ですが、心も体も知能も子供です 基本的にコメディ色が強いです

放置された公爵令嬢が幸せになるまで

こうじ
ファンタジー
アイネス・カンラダは物心ついた時から家族に放置されていた。両親の顔も知らないし兄や妹がいる事は知っているが顔も話した事もない。ずっと離れで暮らし自分の事は自分でやっている。そんな日々を過ごしていた彼女が幸せになる話。

無才印の大聖女 〜聖印が歪だからと無能判定されたけど、実は規格外の実力者〜

Josse.T
ファンタジー
子爵令嬢のイナビル=ラピアクタは聖印判定の儀式にて、回復魔法が全く使えるようにならない「無才印」持ちと判定されてしまう。 しかし実はその「無才印」こそ、伝説の大聖女の生まれ変わりの証であった。 彼女は普通(前世基準)に聖女の力を振るっている内に周囲の度肝を抜いていき、果てはこの世界の常識までも覆し——

処理中です...