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神殿の真実
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その頃の神殿
※
「処罰は、追って沙汰するが……まずは、結界を張り直せ」
エアヘル国王に言われ、大神官はマリーナを連れて――いや、逃げないように腕を掴んで用意されていた馬車に押し込んだ。そして自分も馬車に乗り込んだところで、周囲の様子に気づき顔を引きつらせた。
馬車の周りには、騎士達が控えている。
……それはマリーナもだが、大神官もまた逃げないようにだ。
「まぁ……これだけ守られていれば、安心ですね」
その意図が解らないマリーナに、つい舌打ちしそうになるが――考えてみればこの娘は、アガタより年下だ。それ故、かつての神殿や神官について知らないのである。
そして今は、こんな小娘一人でもいなくなられると困る。
「……あぁ、そうだな」
だから、と大神官はそれだけ答えて、マリーナと共に神殿へと戻った。それから、騎士達には集中したいからと外の警護(という名の監視)だけ頼み、神殿の中へと入った。
※
「大神官!」
「結界が……一体、何が!?」
「あの娘に何かあったのですか!?」
途端に、神官達が駆け寄ってくる。結界が消えたことは皆、感じているようだが、青ざめて大神官に詰め寄ってくるのは大神官同様、アガタが現れる前に結界維持に励んでいた者達だ。
そんな彼らに申し訳なく思いながら、大神官は口を開いた。
「……結界を壊して、出ていった」
「何と!?」
「そんな……」
「それ故、陛下は我ら神官に結界を張り直すよう言われた」
「おぉ……」
「皆様、そんな大げさな……そりゃあ、怠けられなくはなるでしょうが、あの娘一人いなくなったくらいで」
「「「何?」」」
「ひっ……」
途端に、神官達が嘆き悲しむ。
だが、それを見て何も知らないマリーナが窘めるように言うと――刹那、目を据わらせ、低い声で問い詰められて悲鳴のような声を上げた。後退ろうとするが、構わず現実を教えることにする。
「無知な小娘に、教えてやろう」
「「「は」」」
「なっ……いやっ、いやあぁ……っ!」
大神官の言葉と共に、かつて結界維持をしていた神官達が用意していた杖を手にして、マリーナを取り囲んだ。それに合わせて、大神官もまた渡された杖を持つ。
そしてそれぞれ持ち上げた杖で、対精霊の為の魔法陣を描かれた床をつくと――それを合図に、体中の力が吸い上げられ、幾筋もの光となって飛び去っていった。かつて慣れ親しんだ感覚だが、初めて体験するマリーナは耐えられないらしく、その場にへたり込んで今度こそ悲鳴を上げた。
「……怠ける、と言ったな? 逆に問おう。交代とは言え日々、このように身を削ったのだ。少しくらい、楽をしたいと思うのは罪か?」
「あっ……あぁ……っ」
「だが、あの娘がいなくなった今となっては、またこの日々に戻るしかないが……連れ戻すとは言っていたが、それまで我々でどれだけ張り直せることやら」
苦しみに身悶えながら涙を流すマリーナに、と言うより己に言い聞かせるように大神官は呟いた。
何せ元々、ある結界を維持するだけでこうだったのだ。悔しいがアガタがいない今、以前のようにエアヘル国全体に結界を張り直すのは難しいかもしれない。
(さて、マリーナにも杖を渡すか……アガタが戻る可能性は低い。ならば少しでも杖で負担を軽くして、結界維持を長引かせなければ)
やれやれとため息をついて、大神官は他の神官達に指示を出して現状の説明や交代要員の手配をした。
※
「処罰は、追って沙汰するが……まずは、結界を張り直せ」
エアヘル国王に言われ、大神官はマリーナを連れて――いや、逃げないように腕を掴んで用意されていた馬車に押し込んだ。そして自分も馬車に乗り込んだところで、周囲の様子に気づき顔を引きつらせた。
馬車の周りには、騎士達が控えている。
……それはマリーナもだが、大神官もまた逃げないようにだ。
「まぁ……これだけ守られていれば、安心ですね」
その意図が解らないマリーナに、つい舌打ちしそうになるが――考えてみればこの娘は、アガタより年下だ。それ故、かつての神殿や神官について知らないのである。
そして今は、こんな小娘一人でもいなくなられると困る。
「……あぁ、そうだな」
だから、と大神官はそれだけ答えて、マリーナと共に神殿へと戻った。それから、騎士達には集中したいからと外の警護(という名の監視)だけ頼み、神殿の中へと入った。
※
「大神官!」
「結界が……一体、何が!?」
「あの娘に何かあったのですか!?」
途端に、神官達が駆け寄ってくる。結界が消えたことは皆、感じているようだが、青ざめて大神官に詰め寄ってくるのは大神官同様、アガタが現れる前に結界維持に励んでいた者達だ。
そんな彼らに申し訳なく思いながら、大神官は口を開いた。
「……結界を壊して、出ていった」
「何と!?」
「そんな……」
「それ故、陛下は我ら神官に結界を張り直すよう言われた」
「おぉ……」
「皆様、そんな大げさな……そりゃあ、怠けられなくはなるでしょうが、あの娘一人いなくなったくらいで」
「「「何?」」」
「ひっ……」
途端に、神官達が嘆き悲しむ。
だが、それを見て何も知らないマリーナが窘めるように言うと――刹那、目を据わらせ、低い声で問い詰められて悲鳴のような声を上げた。後退ろうとするが、構わず現実を教えることにする。
「無知な小娘に、教えてやろう」
「「「は」」」
「なっ……いやっ、いやあぁ……っ!」
大神官の言葉と共に、かつて結界維持をしていた神官達が用意していた杖を手にして、マリーナを取り囲んだ。それに合わせて、大神官もまた渡された杖を持つ。
そしてそれぞれ持ち上げた杖で、対精霊の為の魔法陣を描かれた床をつくと――それを合図に、体中の力が吸い上げられ、幾筋もの光となって飛び去っていった。かつて慣れ親しんだ感覚だが、初めて体験するマリーナは耐えられないらしく、その場にへたり込んで今度こそ悲鳴を上げた。
「……怠ける、と言ったな? 逆に問おう。交代とは言え日々、このように身を削ったのだ。少しくらい、楽をしたいと思うのは罪か?」
「あっ……あぁ……っ」
「だが、あの娘がいなくなった今となっては、またこの日々に戻るしかないが……連れ戻すとは言っていたが、それまで我々でどれだけ張り直せることやら」
苦しみに身悶えながら涙を流すマリーナに、と言うより己に言い聞かせるように大神官は呟いた。
何せ元々、ある結界を維持するだけでこうだったのだ。悔しいがアガタがいない今、以前のようにエアヘル国全体に結界を張り直すのは難しいかもしれない。
(さて、マリーナにも杖を渡すか……アガタが戻る可能性は低い。ならば少しでも杖で負担を軽くして、結界維持を長引かせなければ)
やれやれとため息をついて、大神官は他の神官達に指示を出して現状の説明や交代要員の手配をした。
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