先祖返りの君と普通の僕

紫蘇

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先祖返りの君と普通の僕

先輩の威厳

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サッカー部の寮では新人の入寮が終わり、自己紹介の時間となった。

「それでは、上級生から、挨拶」
「はい!3年1組の荒木栄作です。
 ポジションはミッドフィルダー。
 宜しくお願いします」

アイウエオ順で3年生から順に自己紹介だ。
人数が多いので、できるだけ簡潔に…。

樫原君の番が回ってきた。

「3年5組、樫原勇人。
 ポジションはフォワード。
 宜しくお願いします」

すると1年生の中から挙手するものが現れた。
頭には三角の耳…猫タイプの先祖返りらしい。

「はい、先輩は男の教師と付き合ってるって本当ですか?」

…どうやら、ポジションを奪うためには手段を選ばない人種のようだ。
これはスキャンダルなんじゃないか、と言いたげな顔をしている。

一瞬の間があってから、3年生が口を押さえる。
2年生は下を向いて黙りこむ。
その光景に、質問をした1年生はしてやったりと樫原君を見る…
そして、樫原君は真っ赤な顔でその1年に返す。

「別に、付き合ってねえ…」

その台詞に、3年生と2年生の堰が切れた。

「ぶはは!まだ付き、だろ!」
「ぎゃはは!このヘタレが!ひー!!」
「スカしてんなよ、かっしー…ぷくくくく」

上級生は大爆笑だ。

あの水族館デートで、高原先生に「今年のぶんのご褒美はいらないのか」と聞かれた樫原君は、欲しいと言ったものの何が欲しいかまでは言い出せず…

「た、タオル、貰っただけ、ひ、ひひひ」
「付き合ってとか、言えよ、ふふふふ」
「さすが百獣のヘタレ王、ぷぷぷぷ」
「うるせえ!!」

そんなこんなで、樫原君の恋がまだ成就してない事がきっちりと新入生にまで伝わってしまった。

質問をした1年生はバツが悪そうに下を向いた。

「おい、次のやつ挨拶しろ~!」

笑い過ぎて自己紹介が進まないのを見て、顧問が笑いながら声を掛ける。
それは、去年まで同性愛差別をしていた人物とは思えない姿だった。

***

一方、職員室にも新人教師がやってきた。
今年の新任は3名…単純に増員である。
3人は幸田先生が面倒を見る事になった。

「宜しくお願いしますね!皆さん!」

その3人の中に、赤味がかった目をした教師が1人…
彼は名前を「菱本ヒシモト」と名乗った。
彼の席は高原先生の隣。

「菱本先生は、どちらの大学ですか!」
「はい、実は高原先生と同じ大学で…」
「そうなんだ!へえ~…」

そういえば僕、どこの大学出たんだっけ…。

色々と記憶を無くしている高原先生に、この程度の欠落はよくある事であった。

だからその科白が、菱本からの「自分も魔導師です」というメッセージだと気づくことも無く…
普通に「そうなんだ、何ていう大学?」と菱本先生に話しかけ、3人に訝しまれることとなった。

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