先祖返りの君と普通の僕

紫蘇

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先祖返りの君と普通の僕

入学試験狂騒曲

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卒業式から遡る事2か月と少し。
各部の全国大会が終わったあたりで、入試担当の職員が叫んだ。

「こんな大量の願書…捌くだけで夜が明ける!!」
「試験会場が校舎だけじゃ間に合わん…!
 今から空いている会場を探すのも…」
「そうだ!シェルターを開放しよう」
「それはあまりにも受験環境に差が出ないか?
 まずくないか?」

12月に決定するスポーツ特待生枠にも希望者が殺到したが、そこで落ちた子たちが一般受験で応募してきた…
だけではなく、周辺の中学校からもスポーツとは全く無関係な子たちが沢山応募してきている。

……
それはある「出来の悪かった」子を持つ親の証言の影響だった。

中学校で「落ちこぼれ寸前」と揶揄されていたあの子が、国立大学へ進学した…しかも一般受験で!
それはもう一大事だった。
何せ親だってまだ信じられない。
あの高校に受かった事さえ奇跡だったのに…!

「あの子がまさか、地元の国立大へ行けるなんて…!!」
「しかも経済学部ですよ?受験に数学が必要なんですよ!?算数さえ覚束なかったあの子が…!!」
「本当に、親身になって特別授業をして頂いた先生たちには頭が上がりません」

嬉しくて嬉しくて、どう勉強させたのかと聞きに来た人全員に喋りまくった。
無自覚な広告塔…だが、本当の事だ。
盛った部分など一切ない。
そういう話を聞くと、進学校へ行けるかどうかギリギリの成績な子を持つ親たちは色めき立つ。
進学校は無理でも、何とか高卒という格好をつけさせてやりたい…という目標から、もしかしたら自分の子が、学費の安い国公立大学へ進学できるかもしれない…という最高地点を、目指せるものなら目指したい。

「光輝高校って、そんなに倍率高く無かったですよね?」
「そうそう、1.0~1.2をウロウロしてましたよね」
「そうでなきゃうちの子なんか入れませんよ!
 何とかお情けで…その年は運よく0.95だったから」

12月の時点で、予想倍率は1.10。
そして今からでも頑張れば入れなくもない偏差値50。

「すぐに願書書かなくちゃ」

こうして、周辺の中学校からお勉強の出来ない子たちが大量に募集してくることになったのだ…


……
「どうしたもんかな…」
「近所の中学校へ連絡してみましょう、教室を貸して欲しいって」

嬉しい悲鳴と言って良いのか何なのか。
この時点で入試担当の職員にはっきりと分かるのは、受験料が儲かるということだけであった。


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