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先祖返りの君と普通の僕
決勝リーグの結果
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サッカー部の決勝リーグは凄かった。
1試合目は緊迫した0-1の前半から一気に3点取って巻き返し、3-1で勝利。
前半、緊張でやや硬くなっていた小田君が相手の先祖返りの子のシュートを止めきれず1点を失った後、一気に守りの姿勢になってしまい相手方のパスやシュートを止めるので精一杯だったが、
後半は高原先生の声かけの効果か、開始早々に矢吹君ー樫原君へのロングパスが通り、
一気に樫原君がドリブルで駆け上がってシュートを決めた。
その勢いは止まらず、矢吹君から坂下君へのパスが通ると、細かいパスを繋ぎ、最後は坂下君が決めた。
3点目は相手のオウンゴール…
樫原君のシュートを止めようと相手ディフェンダーが出した足にボールが当たり、そのままゴールに入ってしまった。
2試合目は一転、シュート合戦となるも2-0で勝利した。
相手チームは先祖返りの選手を全てオフェンスに当てている超攻撃型チームだ。
何本もシュートを打ってきたが、すべて小田君に阻まれイラついてしまいそれが後半にも響いた。
こちらの細かいパスワークに翻弄された事も原因だろう。
またも「どうしてそこにいたのか分からない」上尾君が矢吹君からのロングパスを中距離から叩き込むと、さらに上尾君から矢吹君、矢吹君から坂下君…のパス回しで相手陣地に切り込み、最後は樫原君が決めた。
小田君は1点取られてしまったものの2試合ともでスーパーセーブを連発し、大会MVP選手になった。
3チームのリーグ戦で2勝したということは、つまり、全国優勝を決めた…ということで。
サッカー部のみんなも、応援のみんなも、最大級の歓喜に揺れた。
高原先生は…
すっかり喉が枯れていた。
***
表彰式が終わった次の日は完全オフ。
毎年大会が開催される港湾地区のスタジアムは、様々なデートスポットがひしめく観光地のすぐそばだ。
オシャレショッピングモールにオシャレ遊園地にオシャレシネコンに…
当然、水族館もオシャレの塊…のはずだった。
港と言えば漁船かカーフェリー、な高校生が大挙して押し寄せるまでは…。
「何でみんないるんだよ!!」
「シーっ!大きい声出すなって」
「そーですよ樫原先輩、高原先生に気づかれちゃう」
樫原君と高原先生は、ホテルからバスに乗って水族館にやってきた。
開館まではまだ30分ほど余裕があるので、水族館近くのオシャレなカフェで、生クリームが乗っている長たらしい名前のコーヒーを買って…
そうしたら、いたのだ。
サッカー部の面々が。
水族館が開くのを待つ人のふりをして。
そこら中に。
「何で来たんすかっ」
「それはだな…」
「俺らには行く末を見守る義務があるからだ」
「ラグビー部の横田にちゃんとサポートするように言われたし」
「よく考えたら、教師と生徒が付き合うってまあまあ禁断の恋だろ?」
「そうそう、変にスキャンダルになっても困るじゃん」
「そういう雑誌の記者とかがいるかもしれないし」
どうやら鬼軍・横田からの指示らしい。
確かに彼女の言う通りだ。
サッカーはこの国で最も人気のあるスポーツだ。
当然高校生の大会であっても注目度は高く、決勝リーグは全国にテレビ中継される。
そのサッカーの大会で全国優勝したばかり。
注目度は当然の如く上がっている。
粗を探そうとする連中は必ず出る。
そして、そいつらに見つかれば必ず面倒な事が起きる…。
鬼軍曹・横田の意見は的確だった。
そう聞かされれば、もはや樫原君の意志は関係無い。
サッカー部全員が自分の恋を応援してくれているのは間違いないのだ。
受け入れざるを得ない。
「…そういうことなら仕方ないっすね」
ただ、何せ金の無い学生の集団である。
オシャレ普段着など持ち合わせていない。
結果、水族館前には、「紺のダッフルコートとジーパン(入学前に保護者が持たせてくれたと思われる)」というスタイルの若者が幅を利かせる事になり、全くデートスポット感はなくなっていた。
「…高原先生に気づかれないように頼みます」
「りょうかいりょうかい」
坂下君の返事に一抹の不安を覚えながらも、トイレと言って抜け出してきた手前それほど長く留まるわけにもいかず、樫原君はその場を後にした。
ケイジと碧がここへ来た理由も忘れて…。
1試合目は緊迫した0-1の前半から一気に3点取って巻き返し、3-1で勝利。
前半、緊張でやや硬くなっていた小田君が相手の先祖返りの子のシュートを止めきれず1点を失った後、一気に守りの姿勢になってしまい相手方のパスやシュートを止めるので精一杯だったが、
後半は高原先生の声かけの効果か、開始早々に矢吹君ー樫原君へのロングパスが通り、
一気に樫原君がドリブルで駆け上がってシュートを決めた。
その勢いは止まらず、矢吹君から坂下君へのパスが通ると、細かいパスを繋ぎ、最後は坂下君が決めた。
3点目は相手のオウンゴール…
樫原君のシュートを止めようと相手ディフェンダーが出した足にボールが当たり、そのままゴールに入ってしまった。
2試合目は一転、シュート合戦となるも2-0で勝利した。
相手チームは先祖返りの選手を全てオフェンスに当てている超攻撃型チームだ。
何本もシュートを打ってきたが、すべて小田君に阻まれイラついてしまいそれが後半にも響いた。
こちらの細かいパスワークに翻弄された事も原因だろう。
またも「どうしてそこにいたのか分からない」上尾君が矢吹君からのロングパスを中距離から叩き込むと、さらに上尾君から矢吹君、矢吹君から坂下君…のパス回しで相手陣地に切り込み、最後は樫原君が決めた。
小田君は1点取られてしまったものの2試合ともでスーパーセーブを連発し、大会MVP選手になった。
3チームのリーグ戦で2勝したということは、つまり、全国優勝を決めた…ということで。
サッカー部のみんなも、応援のみんなも、最大級の歓喜に揺れた。
高原先生は…
すっかり喉が枯れていた。
***
表彰式が終わった次の日は完全オフ。
毎年大会が開催される港湾地区のスタジアムは、様々なデートスポットがひしめく観光地のすぐそばだ。
オシャレショッピングモールにオシャレ遊園地にオシャレシネコンに…
当然、水族館もオシャレの塊…のはずだった。
港と言えば漁船かカーフェリー、な高校生が大挙して押し寄せるまでは…。
「何でみんないるんだよ!!」
「シーっ!大きい声出すなって」
「そーですよ樫原先輩、高原先生に気づかれちゃう」
樫原君と高原先生は、ホテルからバスに乗って水族館にやってきた。
開館まではまだ30分ほど余裕があるので、水族館近くのオシャレなカフェで、生クリームが乗っている長たらしい名前のコーヒーを買って…
そうしたら、いたのだ。
サッカー部の面々が。
水族館が開くのを待つ人のふりをして。
そこら中に。
「何で来たんすかっ」
「それはだな…」
「俺らには行く末を見守る義務があるからだ」
「ラグビー部の横田にちゃんとサポートするように言われたし」
「よく考えたら、教師と生徒が付き合うってまあまあ禁断の恋だろ?」
「そうそう、変にスキャンダルになっても困るじゃん」
「そういう雑誌の記者とかがいるかもしれないし」
どうやら鬼軍・横田からの指示らしい。
確かに彼女の言う通りだ。
サッカーはこの国で最も人気のあるスポーツだ。
当然高校生の大会であっても注目度は高く、決勝リーグは全国にテレビ中継される。
そのサッカーの大会で全国優勝したばかり。
注目度は当然の如く上がっている。
粗を探そうとする連中は必ず出る。
そして、そいつらに見つかれば必ず面倒な事が起きる…。
鬼軍曹・横田の意見は的確だった。
そう聞かされれば、もはや樫原君の意志は関係無い。
サッカー部全員が自分の恋を応援してくれているのは間違いないのだ。
受け入れざるを得ない。
「…そういうことなら仕方ないっすね」
ただ、何せ金の無い学生の集団である。
オシャレ普段着など持ち合わせていない。
結果、水族館前には、「紺のダッフルコートとジーパン(入学前に保護者が持たせてくれたと思われる)」というスタイルの若者が幅を利かせる事になり、全くデートスポット感はなくなっていた。
「…高原先生に気づかれないように頼みます」
「りょうかいりょうかい」
坂下君の返事に一抹の不安を覚えながらも、トイレと言って抜け出してきた手前それほど長く留まるわけにもいかず、樫原君はその場を後にした。
ケイジと碧がここへ来た理由も忘れて…。
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