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先祖返りの君と普通の僕
納得…いかない
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先生を部屋まで運んで寝かせる。
本棚にはぎっしりと本が並んでおり、読書家であることを思わせる部屋だ。
冷蔵庫には、ミネラルウォーターとゼリー飲料が入っているが、電源は入っていない。
テーブルには箱が無造作に置かれ、中にはシリアルバーが詰め込まれていた。
使われた形跡のないキッチン。
食器も調理器具も見当たらず、湯を沸かすことすらできない。
電話はかろうじてあったので、そこから寮に電話をして今日は高原先生の家に泊まることを連絡し、改めて碧に向き直る。
「朱紅…一郎は、いつも本を読んでいたな」
「ふーん、そうなんだ」
「私達の楽しみといえば本だった。私も一郎ほどではないが…本の中でなら、自由を感じることが出来たから…こいつの言う兄も、同じだ」
「…ふぅん」
「私と一郎の関係が気になるか?」
「気になるね。あの男との関係も」
「あの男…ああ、こいつを酷い目に合わせた?」
「そうだ、そのせいでどれだけ先生が傷ついたか…一年も仕事を休んだ。そうして、人が変わった。
危うさはそのままで、危うさを自覚しない人間になった」
拒否できないから最初から人を受け入れない雰囲気を出していた人間が、予防線は張るもののなるべく受け入れようとする人間になった。
結果、各方面から漬け込まれていいように振り回されている。
だのに自分の思いだけは頑なに拒否する。
納得がいかない。
「本当の事を聞きたいか?」
「聞けるならな」
「それは私の口からでも構わないのか?」
「構わない。全てを知って、それでも先生を受け入れるのが、俺のすることだ」
「こいつを愛しているのか?」
「そうだ」
高原先生を取り巻く様々な違和感。
教師としては全く矛盾のない人物だが、プライベートは矛盾だらけだ。
身体を動かす最低限の栄養しか取らないのに、体力をつけようとしたり。
約束が守れないと困るからと、絶対に来るのに「行けたら行く」と言ったり。
かと思えば来年の話…正確に言うと、今年と変わらない来年の話は、好きだったり。
碧はそれならと語って聞かせることにした。
高原一郎と多禍原朱紅のことについて、自分が知っている限りを。
本棚にはぎっしりと本が並んでおり、読書家であることを思わせる部屋だ。
冷蔵庫には、ミネラルウォーターとゼリー飲料が入っているが、電源は入っていない。
テーブルには箱が無造作に置かれ、中にはシリアルバーが詰め込まれていた。
使われた形跡のないキッチン。
食器も調理器具も見当たらず、湯を沸かすことすらできない。
電話はかろうじてあったので、そこから寮に電話をして今日は高原先生の家に泊まることを連絡し、改めて碧に向き直る。
「朱紅…一郎は、いつも本を読んでいたな」
「ふーん、そうなんだ」
「私達の楽しみといえば本だった。私も一郎ほどではないが…本の中でなら、自由を感じることが出来たから…こいつの言う兄も、同じだ」
「…ふぅん」
「私と一郎の関係が気になるか?」
「気になるね。あの男との関係も」
「あの男…ああ、こいつを酷い目に合わせた?」
「そうだ、そのせいでどれだけ先生が傷ついたか…一年も仕事を休んだ。そうして、人が変わった。
危うさはそのままで、危うさを自覚しない人間になった」
拒否できないから最初から人を受け入れない雰囲気を出していた人間が、予防線は張るもののなるべく受け入れようとする人間になった。
結果、各方面から漬け込まれていいように振り回されている。
だのに自分の思いだけは頑なに拒否する。
納得がいかない。
「本当の事を聞きたいか?」
「聞けるならな」
「それは私の口からでも構わないのか?」
「構わない。全てを知って、それでも先生を受け入れるのが、俺のすることだ」
「こいつを愛しているのか?」
「そうだ」
高原先生を取り巻く様々な違和感。
教師としては全く矛盾のない人物だが、プライベートは矛盾だらけだ。
身体を動かす最低限の栄養しか取らないのに、体力をつけようとしたり。
約束が守れないと困るからと、絶対に来るのに「行けたら行く」と言ったり。
かと思えば来年の話…正確に言うと、今年と変わらない来年の話は、好きだったり。
碧はそれならと語って聞かせることにした。
高原一郎と多禍原朱紅のことについて、自分が知っている限りを。
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