先祖返りの君と普通の僕

紫蘇

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先祖返りの君と普通の僕

謎の女性

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今朝の職員室は一種異様な雰囲気であった。
理事長から簡単な説明があった後、研修に来たという女性は挨拶をした。

「今日から暫く世話になる、高原あおいだ。
 宜しく頼む」

凡そ社会人がする挨拶ではない。
だが、彼女の青い目に物言える職員もいなかった。
彼女の質問にはできるだけ答えるように、と理事長からお達しがあり、朝の会議は終了した。

幸田先生は高原先生に話しかけた。

「不思議な方ですね!あの方も高原さんですか!」
「そうですね、それにしても苗字が一緒なのってちょっと不便なんですね」
「確かにそうですね!名前でお呼びするのも馴れ馴れしい感じですし!私、女性に対してそういう態度をとるのはどうにも受け付けなくてね!
 なので暫く、高原先生を一郎先生と呼ばせてもらいますね!宜しくお願いします!」
「あ、はい…」

向こうは先生でも無いのだが、生徒からみれば学校にいる大人はみんな先生である。
仕方がない。

「さてと!朝の授業に参りましょう!」
「そうですね」
「私も一緒に行こう」
「ふえっ!!」

急に背後に現れた碧にびっくりする高原先生。

「おや、高原さんは一郎先生の授業を見学されるんですか?」
「ああ、そうだ。今日一日、よろしく頼む」
「ええっ、ああ、はい…」

波乱の予感がする。

***

「一郎、次の授業は?」
「次は5組ですね」
「同じ内容を繰り返すことに苦痛はないのか」
「生徒の反応はまたそれぞれですから、内容は同じでも補足の部分を変えたり…」

2人で話をしながら1つ上の階へ上がる。
いつもながらそこには…

「あっ、高原先生…?」
「あ、樫原君」

高原先生を待ち構えている樫原君がいる。

「…その人、誰?」
「えっと、今日から研修に来られた方で…」
「高原あおいだ」

同じ苗字であることに奇妙な驚きを感じる樫原君。

「ふむ、君は先祖がえりか。ここには獣人の生徒が多いと聞いたが本当だな」
「…どうも」

自分の事を訝しむ樫原君に対し、碧は堂々と告げた。

「私は暫く一郎と行動を共にすることにした。今後また君に会う事もあるだろう、宜しく頼む」
「えっ、暫く!?」

聞いてないよ、と慌てる高原先生に対し、碧は言った。

「最も参考になりそうなのは一郎だし、こういう慣れない場所では一郎の姿が側にあるのは心強いからな」
「あ、はあ…」

何だこの女…。
樫原君は彼女を、初対面で敵と認識した。

「名前で呼ぶような間柄なんですね」
「ああ、その事か。
 同じ苗字だしその方が都合がいいだろう」
「ふ~ん…」

一触即発の雰囲気に、高原先生が待ったをかける。

「あ、ほら、授業始まっちゃうから…。
 行きましょう碧さん、樫原君も、またね」
「……うん」
「時間に遅れるのはいかんな、行こう一郎」

これみよがしに「下の名前で呼び合う」のを見せつけられて、樫原君はますます碧に対して嫌悪を募らせた。

「……あんなやつ、関係ない……」

そうは言ってみたが、
愛する人を獲られたようで…

樫原君はかつてないほどイラついた。

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