先祖返りの君と普通の僕

紫蘇

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先祖返りの君と普通の僕

災害が来る 3

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「…良かった、みんな避難できたんだな」

高原先生は公園をぐるりと見回り、だれもいないことを確認してから会場の体育館へ向かう。
会場にはバスケ部の生徒たちが避難したシェルターの入口がある。
そこへ行けば合流できるだろう。

避難訓練で学んだことも活かせたし、教師としての務めは果たせたはず。
幸田先生に、教えてもらった通りにできたことを報告しよう…きっと心配してるから。
ずれた眼鏡を直しながらトコトコ歩く。
それにしても疲れたなあ…

「先生!」

急に後ろから声がした。
振り向くとそこにバスケ部の生徒たちがいた。

「あれ?みんな、会場のシェルターにいたんじゃないの?」
「入口はそこだったけど、奥へ奥へって言われて移動してるうちに、そこの出口のほうが近くなったんだ」

生徒が指さす先には、あの時会った子どもたちとご年配の先生がいた。

「先ほどは…お声がけ頂いて、その…」
「おじちゃんありがとう!」
「おじたんありあと!」

おじさん…おじさんかあ。
先生は苦笑いして子どもたちの頭を撫でる。

「ちゃんと走れた?間に合ったかな?」
「うん!走れた、びゅーんって走れた」
「そっか、間に合って良かったね」

災害がそこまで迫ったんだもの、怖かったねえ…
よく頑張ったね。

子どもたちとそんなことを話してから別れたあと、バスケ部の顧問に大会が中止になったことを聞き、それなら学校へ帰ろうということになった。
電車は止まっているけど、バスは無事だし、道さえ被害にあっていなければ帰れるだろう…とのことで、高原先生は一緒にバスに乗せてもらうことにした。

バスの中で川田君が話しかけてきた。

「先生、どこにいたの?」
「えーとね、公園の見回りして、逃げ遅れた人がいないか探してたんだ」
「駄目だよ、到着予想の3分前にはシェルターに入らなきゃ!」
「あ、うん…そうなんだね、気を付けるよ」

その言葉でバスの中は騒然とした。

「先生、シェルターに入らなかったの!?」
「う、うん…」
「なんでそんな危ないことするの!?」
「だって、みんながちゃんと逃げられたか不安だったんだ、あの子たちみたいに逃げ遅れてる子がいないかって」
「自分の命も大事にしなきゃ駄目なんだよ!?」
「う、うん、気を付ける」
「駄目だ、絶対分かってない」
「先生、死んじゃうよ!?ちゃんと逃げないと」
「でも、幸田先生がね、生徒がちゃんと逃げたのを確認してから…」

そういうと顧問の先生が怒った。

「限度があります!
 先生は走るのが得意でないんですから、生徒と一緒に逃げててもいいくらいです!
 そういうときの為に僕らスポーツが得意な教師がいるんです!!」
「はっ、ええ、はい…」
「大体幸田先生は、あれでも学生駅伝の選手だったんですよ!一緒にしちゃいけません!」
「えっ、駅伝?」

長距離を走る人は細いはずなのでは?
陸上部で知った知識が通用しなくて混乱する。
そういえば大災害から鍛え直したと言ってた…

それはあまりに完全な肉体改造だった。

「わかりましたね!?」
「はい…」

顧問に怒られてシュンとなる高原先生。
それを見て、川田君は不覚にも

「かわいいなあ」

と呟いてしまった。

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