38 / 88
先祖返りの君と普通の僕
商店街でも避難訓練
しおりを挟む
「避難訓練です!避難訓練です!ただいま災害が発生しました!すぐに最寄りのシェルターへ避難してください!」
その日商店街に買い物に来ていた人も参加しての避難訓練。
シェルターの入口がある店は、「シェルター入口」のピクトグラムの看板を下げ、赤いパトランプを点灯させた。
「シェルターはこちらです!避難してください!」
その言葉に、その場に居合わせた人たちが最寄りのシェルターへ向かう。
「こんなお店もあったのね」
「このお店、何で潰れないのか不思議だったけど、シェルターキーパーだったんだな」
シェルターの鍵は入口のある店舗で管理されており、その入り口を管理する店舗や会社を「シェルターキーパー」と呼ぶ。
シェルターキーパーはその名のとおりシェルターを常に使えるように整備点検をする代わりに、自治体からいくらか補助をもらっている。
商店街で長くお茶を扱っている古びた店舗もその一つだ。
「シェルターキーパーって儲かるんだな」
「滅多なこと言うなよ、そこの費用ケチったばっかりに痛い目見たとこがいくつあるよ」
「あったねえ、店が閉店してて使えないっていう…」
むしろ、税金の無駄だとキーパーへの補助金を半額以下にカットされたあの時期にも経営は続いていたのだから、不思議なのに変わりはない。
「補助金をケチったせいで人が死んだんだ」
と国民は怒り、当時の政権があっさりと倒れたことも記憶に新しい。
だがその補助金を削れと言い出したのも国民なのだが…
それ以来、国から自治体へ補助が出て、そこからシェルターキーパーに補助が出るようになった。
税金は多少上がったけれど、反対するものはいなかった。
「備えることに金や労力を惜しむのはダメだわな」
この時期はどこの地域でも避難訓練が行われており、全員が「ああまたこの季節か」と思いながら参加する。
うんざりしているわけではない。
数年前の大災害以来、避難訓練を馬鹿にするものは一人もいない。
訓練を怠ったせいで何人もの死者を出した都会。
シェルターの点検をせずに放置し、その日に扉が開かないことが分かって死んだ人々。
シェルターの位置が分からず逃げまどい、結果死に至った人々…。
そういう人たちに思いをはせる…死者を悼む日でもあった。
あの時、魔導師が来てくれなければ、もっともっと死んでいただろう。
この地域には、黄色い目の魔導師と赤い目の魔導師のおかげで生き延びた人がたくさんいる。
「黄色い目の魔導師さん、亡くなったんだってね」
「赤い目の魔導師さんは行方不明だってね」
守ってくれる魔導師が誰なのかは、災害が来るまで分からない。
今、この地域を担当してくれる魔導師が誰なのか、未だ誰も見たことがないのだ。
だから、当時守ってくれた魔導師がいないことは、人々の不安に直結していた。
黄色い目の魔導師と赤い目の魔導師は兄弟で、この国で災害が起こりやすい地域をいくつも担当していたらしい。
当時、シェルターに入り損ねて逃げまどい、偶然にも助かった人々が見た光景は、圧倒的な力で魔獣を撃退する彼らの背中だった。
特に記憶に残るのは、赤い目をした魔導師だ。
眉一つ動かさず魔獣を撃退したその姿は、街を守ったヒーローというには異質で…
礼の一つも聞かないまま、すぐに姿を消し、次の街へ行ってしまった。
そんな赤い目の魔導師は…「最後の最後、海に出現した巨大な魔獣を一人で倒して力尽き、自分も波に攫われた」と、彼を特集したミリタリー雑誌にはそう書かれている。
それ以外に人間的なエピソードなど何もない、ただの戦いの記録…
どんな顔で、何歳で、彼女はいたのかどうかとか、何が好きだったかなどの情報は何もない。
写真は全て、遠くから望遠レンズを使って撮られたものだ。
この国の人々は、魔導師が何人いて、どんな生活をして、どうやって日常を暮らしているのか知らされていない。
ただ、それなりの税金が彼らのために計上されているという事実だけが知られている。
噂では、毎日豪華な食事をし、災害や戦争のとき以外は遊んで暮らしているんじゃないかとも言われている。
それほどの額が、魔導師及び魔導師を支える機関に費やされているのだ。
この国で魔導師はヒーローでもあるが、
税金で食わせてやってるんだから当然だという声もある。
「災害が来れば…誰かは来てくれるんだろうけどな」
「さすがに誰も来ないってことは無いだろ」
すぐに来てくれるとは限らない。
それでも、魔導師に文句を言えるものはいない。
それは魔導師の持つ力の大きさでもあり、
あまりにも繋がりが無いせいでもあった。
その日商店街に買い物に来ていた人も参加しての避難訓練。
シェルターの入口がある店は、「シェルター入口」のピクトグラムの看板を下げ、赤いパトランプを点灯させた。
「シェルターはこちらです!避難してください!」
その言葉に、その場に居合わせた人たちが最寄りのシェルターへ向かう。
「こんなお店もあったのね」
「このお店、何で潰れないのか不思議だったけど、シェルターキーパーだったんだな」
シェルターの鍵は入口のある店舗で管理されており、その入り口を管理する店舗や会社を「シェルターキーパー」と呼ぶ。
シェルターキーパーはその名のとおりシェルターを常に使えるように整備点検をする代わりに、自治体からいくらか補助をもらっている。
商店街で長くお茶を扱っている古びた店舗もその一つだ。
「シェルターキーパーって儲かるんだな」
「滅多なこと言うなよ、そこの費用ケチったばっかりに痛い目見たとこがいくつあるよ」
「あったねえ、店が閉店してて使えないっていう…」
むしろ、税金の無駄だとキーパーへの補助金を半額以下にカットされたあの時期にも経営は続いていたのだから、不思議なのに変わりはない。
「補助金をケチったせいで人が死んだんだ」
と国民は怒り、当時の政権があっさりと倒れたことも記憶に新しい。
だがその補助金を削れと言い出したのも国民なのだが…
それ以来、国から自治体へ補助が出て、そこからシェルターキーパーに補助が出るようになった。
税金は多少上がったけれど、反対するものはいなかった。
「備えることに金や労力を惜しむのはダメだわな」
この時期はどこの地域でも避難訓練が行われており、全員が「ああまたこの季節か」と思いながら参加する。
うんざりしているわけではない。
数年前の大災害以来、避難訓練を馬鹿にするものは一人もいない。
訓練を怠ったせいで何人もの死者を出した都会。
シェルターの点検をせずに放置し、その日に扉が開かないことが分かって死んだ人々。
シェルターの位置が分からず逃げまどい、結果死に至った人々…。
そういう人たちに思いをはせる…死者を悼む日でもあった。
あの時、魔導師が来てくれなければ、もっともっと死んでいただろう。
この地域には、黄色い目の魔導師と赤い目の魔導師のおかげで生き延びた人がたくさんいる。
「黄色い目の魔導師さん、亡くなったんだってね」
「赤い目の魔導師さんは行方不明だってね」
守ってくれる魔導師が誰なのかは、災害が来るまで分からない。
今、この地域を担当してくれる魔導師が誰なのか、未だ誰も見たことがないのだ。
だから、当時守ってくれた魔導師がいないことは、人々の不安に直結していた。
黄色い目の魔導師と赤い目の魔導師は兄弟で、この国で災害が起こりやすい地域をいくつも担当していたらしい。
当時、シェルターに入り損ねて逃げまどい、偶然にも助かった人々が見た光景は、圧倒的な力で魔獣を撃退する彼らの背中だった。
特に記憶に残るのは、赤い目をした魔導師だ。
眉一つ動かさず魔獣を撃退したその姿は、街を守ったヒーローというには異質で…
礼の一つも聞かないまま、すぐに姿を消し、次の街へ行ってしまった。
そんな赤い目の魔導師は…「最後の最後、海に出現した巨大な魔獣を一人で倒して力尽き、自分も波に攫われた」と、彼を特集したミリタリー雑誌にはそう書かれている。
それ以外に人間的なエピソードなど何もない、ただの戦いの記録…
どんな顔で、何歳で、彼女はいたのかどうかとか、何が好きだったかなどの情報は何もない。
写真は全て、遠くから望遠レンズを使って撮られたものだ。
この国の人々は、魔導師が何人いて、どんな生活をして、どうやって日常を暮らしているのか知らされていない。
ただ、それなりの税金が彼らのために計上されているという事実だけが知られている。
噂では、毎日豪華な食事をし、災害や戦争のとき以外は遊んで暮らしているんじゃないかとも言われている。
それほどの額が、魔導師及び魔導師を支える機関に費やされているのだ。
この国で魔導師はヒーローでもあるが、
税金で食わせてやってるんだから当然だという声もある。
「災害が来れば…誰かは来てくれるんだろうけどな」
「さすがに誰も来ないってことは無いだろ」
すぐに来てくれるとは限らない。
それでも、魔導師に文句を言えるものはいない。
それは魔導師の持つ力の大きさでもあり、
あまりにも繋がりが無いせいでもあった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
98
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる