先祖返りの君と普通の僕

紫蘇

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先祖返りの君と普通の僕

恋の行方とサッカー部

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全国大会への切符を手に入れた日からしばらく。

「かっしーの話…聞いた?」
「激重のやつ?もうどうしようもなくね?」

なるようにしかならないだろ…と、そこかしこからため息が出る。

「せっかく男同士っていう最大級のハードルを越えたってとこへ…なあ」
「うん…そうなんだよなあ」

サッカー部の何人かは、高原先生が休職する前に付き合っていた「お迎えに来る男」の事を知っている。
その男との関係を、どうやら先生は望んでいなかったのでは…ということも。

「いつも、顔が暗かった」
「付き合ってる相手にする顔じゃなかった」
「態度もおかしかった」

だから、付き合っているということもあくまで信憑性のない噂として聞き流されていたし、「その男と肉体関係がある」なんて話も「いきすぎた妄想の産物」として消費されてきた。
現実にそんなことがあるわけがない、とほとんどの生徒が思っていた。
樫原君から聞いた高原先生の言葉で、ついにそのことが裏付けられてしまったのだ。

「先生の過去、重すぎるだろ…」
「俺、なんて言っていいか分かんねえ、もう」

今までの先生の態度から、そんな重たいものを抱えているなんて想像もできなかった。
想像したくなかったともいう。
高原先生を知っている生徒の大半が、そんな目にあっている高原先生なんて見たくなかったし、考えたくなかったはずだ。
優しくて、ちょっと天然で、何事にも一生懸命で…。
みんなに平等であろうとするし、そのために自分を犠牲にすることをためらわない。
そんな人が、酷い目に合わされてきただなんて、そんなに世の中が間違っているはずがないと…信じていた。

「理不尽なのは、災害だけで十分だろ…」

もはや「男同士の恋愛なんて気持ち悪い」などと言う部員はいない。
そんなことを気にしている場合ではないのだ。
なんなら樫原君のことはどうでも、高原先生に幸せになってもらいたい。
樫原君の話によれば、先生は樫原君を特別な人間だと思っているらしい。
だったら、高原先生のパートナーは樫原君がベターだと言えるのでは?

「かっしーと先生が付き合うなら、それが先生にとってもいいことだとは思うんだよな」

いっそ国外へ逃げたら?
でも、先生は教師を続けたいかもしれない。
外国でだって、教師にはなれるんじゃないか。
でも、高原先生をほとんどの運動部があてにしている現状で、先生が辞めるとなったら大騒ぎになるんじゃないか。
運動部だけじゃないだろ、勉強ついてけないやつとか、盆踊りのこととか…。
高原先生が学校からいなくなると困るやつがいっぱいいるんだから…

「あっ、そうか!」
「どうした坂下」
「樫原のことはともかく、高原先生はこの学校が守ってくれるんじゃないか?」
「どういうこと?」
「この学校のウリって、運動部が強いことだろ?運動部には高原先生がいないと困るんだろ?
 つまり、高原先生を守ることは運動部を守ること、運動部を守ることは学校のウリを守ることになるだろ。
 お前ら先祖返りがさ、高原先生を呼び出して、金曜日に何か集まってやってるだろ、あれを黙認してることが何よりの証拠じゃん」
「ってことは、高原先生がかっしーと付き合おうがどうしようが学校は黙認ってことか」
「そう、だから問題は、樫原が卒業して学校と関係なくなった時だろうな」

樫原君は、もうすでに国内のプロチームから声がかけられている。
ただ、プロチームには先祖返りの選手も多く、獣人だからといって優遇されるかというとそうでもないだろう。

「他の先祖返りの連中よりずっと強くないと、チームは守ってくれないんじゃないか」
「もしそうなったとしても、入った後から付き合うってなると、チームは全力で止めるだろうな」
「むしろ、今から付き合ってた方がいいのかもな…」

みんなは考えを巡らせる。

「そんで、別れろって言われたら辞めます、って言ったときに、別れなくてもいいからチームにいて欲しいと思われるくらいのプレーヤーになってないとダメってことか」

なるほどな。
つまり、樫原君次第ってことか。

その場にいる全員がその話に納得したところで、風呂から上がった樫原君がやってきた。

「あっ、おい、かっしー!
 ちょっとこっちこい」
「何すか?」
「俺ら、考えたんだけどさ…」
「お前が高原先生と付き合いたいんだったらさ、今のうちからがいいんじゃないかって」

「え?」

「俺らもバックアップするから」
「高原先生のためにもそれがいいと思って」
「だから、とにかく押せ。押して押して…押し倒せ」

「おしたおす!?」

「おい、押し倒すのはまずいだろ」
「すまん、言葉のあやだ」
「あと、お前がすげえ選手にならないと計画が台無しだから」
「そうそう、今の練習にプラスしてできること…部長に聞くか、自分で調べるか…とにかく、やれ」

よく分からないまま、樫原君は返事をした。

「はい」

それは、体育会系の悪しき部分であり、良い部分でもある…

「先輩の言うことは絶対」

の成果だった。
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