先祖返りの君と普通の僕

紫蘇

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先祖返りの君と普通の僕

一学期の終わり

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テストが終わり、採点も終わり、明日から夏休み。

最近忙しかった毎日も、これで少しは時間ができるかな…と思った高原先生だったが、盆踊りの会合と各運動部の顧問から寄せられた地区大会への誘いでスケジュールが埋まっていた。

盆踊りまであと10日間。

ポスター貼りや提灯の修繕も終わり、今日は提灯を吊るす作業をするらしい。
先生は仕事があるのでその作業に参加することが出来ないが、生徒たちから仕事終わりに寄って欲しいと言われている。
みんなに何か差し入れを持っていったほうがいいかな…などと考えつつ、パソコンに向かい…気がつけばいつの間にか終業時間を過ぎていた。

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「あー、遅くなっちゃった!」

先生は商店街へ駆け足で向かう。
早朝のジョギングに加えて朝はサンドイッチ、昼はおにぎりを食べている成果が出てきたのか、最近はそこまで息が上がらなくなってきた。

時計は7時を回ってしまった。
みんなまだ待ってるかな…
結局何も買ってこなかったな…
誰も待ってなかったらどうしようかな…

不安を抱えながら走る。

なんでこんなに不安なんだろう?
今まで、不安になったときはどうしてたんだろう?
そもそも、不安になることなんてあったかな…

自分に過去の記憶があまり無いので、ふとした時に寄辺よるべがない。
まあいい、とにかく走ろう…




そうして、走って、走って…
商店街の真ん中の広場についた時、
あたりはすでに暗くなっていて…誰もいなかった。

「間に合わなかったか…」

どうしよう…約束、したのに…破っちゃった…
と、思ったその時。

ずらりと吊られた提灯に、一斉に明かりがついた。

「うわぁ!」

先生はびっくりして、鞄を落とした。
そして回りを見回した。
提灯の明かりに照らされた広場は、とても綺麗で…
とても幻想的な景色だった。

物陰から生徒たちが覗いているのが見えた。

「あっ…!」

先生が気づいたのを見て、生徒たちが寄ってきた。
ハイタッチしながら「ドッキリ成功~!」なんてはしゃいでいる。
「ドッキリ?ドッキリって何?」
あわあわしている先生に、野球部の子が言った。

「先生!びっくりした!?」
「うん…うん、びっくり…したよぉ…」

びっくりしすぎて…

「ふ…ふぇえ…」
「せ、先生!泣かないでよ!?」
「う…うん、だっ…だって、みんな…帰ったって…ぼく、間に合わなかったんだって…思って」
「先生…」

先生は涙を拭いて、笑って、そして言った。

「よかった、みんないて…。
 でも、ごめん、差し入れ買ってくるの、忘れた」
「差し入れなんていいよー!」
「でも、みんな頑張ってるんだしさ…」
「先生だって頑張ってるじゃん!」

わちゃわちゃと生徒たちに囲まれる高原先生を見て、目頭を熱くする草野球チームの人々と微笑ましく見つめる商店街の人々。

「青春って…いいな」
「こういうの…弱くてよ…もう…だめだ」
「心の汗が…止まらねえ…」



盆踊り、絶対成功させような!
と、皆が1つになった瞬間だった。

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