先祖返りの君と普通の僕

紫蘇

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先祖返りの君と普通の僕

高原先生はサッカー部のもの?

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グラウンドには、練習試合とは思えないくらいの黄色い声援が飛び交う。

「キャー!おだくーん!」
「やぶきくんがんばってー!」
「かしはらくーん!ファイトー!」

サッカー部員あてのプレゼントの整理をして、グラウンドに行こうとした高原先生は、サッカー部の部長に呼ばれて、関係者席に入ることができた。

「すいません、差し入れをさばくの、お任せしてしまって。折角ですから、こちらで見ていってください」
「ありがとうございます」

高原先生はサッカーを見るのが初めてで、ルールはよく分からなかったけど、みんなが頑張っているのは分かったし、

「こうしてみると、獣人だからといって全て人間より優っているというわけではないんですね」
「おや、わかりますか?」
「サッカーも身体能力だけが高ければいいってもんじゃないんだなと思いまして…」
「そうなんです、力があるぶん、制御するのにより繊細な技術が必要になります。冷静さをいかに保てるかが大事ですね」
「特にあれ…足で蹴りながら走るのなんかは、スピードが活かせそうなのにボールを蹴る力が強すぎて、コントロールが効かなかったり…あっ!」

先生が言った矢先、相手チームの獣人の子がドリブルをミスして、ボールを遠くに転がしてしまう。
それをすぐに、他の子がフォローして、上手いことパスが繋がったようになった…そこから、獣人の子がゴール前に来るのを待って絶妙なパス。
獣人の子がトラップなしでシュートする。
高原先生は声を上げる。
「小田君!」
バシッ!
「すごい!あっ!」
バシッ!
部長が先生に説明する。
「小田はね、卒業したらすぐにでも大陸に行けるくらいのセーブ力がありますから」
「そうなんですか?すごい!」
「ここ最近、熱心に練習もしてますしね」
「そうなんですね、それで…」
金曜日の時に毛並みが悪いんだ…と言いかけて、
止める。

バシン!

「矢吹!」

小田君が弾いたボールを、矢吹君が拾った。
樫原君が敵陣に走っていく。
矢吹君がぱあん、とボールを蹴る。

「かっしー!」
「はい!」

樫原君がボールと同じ速度で走る。

「速い!」
「先祖がえりならではの速攻ですよ、速いでしょ」
「すごい!樫原君、がんばれー!」

樫原君が落下点に入り、シュート!

ザパッ。

相手のゴールが揺れる。
ホイッスルが鳴る。まずは1点。

「樫原君!すごい!」

先生は何かというと「すごい」を連発する。

ボールを蹴ったらすごいし、走ったらすごいし、跳んだらすごい。とにかく「すごい!」。
ただ、オフサイドにはなんで?と言い、転けた子には頑張れ!と言うのだが。
隣のサッカー部部長は丁寧に解説をしてくれるし、先生は我を忘れてすっかりサッカー観戦を楽しんでのであった。


----------


試合が終わり、サッカー部は大学生相手になんと4-0で勝ってしまった。
矢吹君のアシストで樫原君がハットトリックを決めて、坂下君という子が1点入れて、小田君がスーパーセーブを連発して、とにかくすごかった…と高原先生が呆けているところへ、樫原君がやってきた。

「先生!見に来てくれたの!」
「あ!樫原君!すごいね!」
「へへ、約束守れて良かった!」

樫原君は、この後寮で今日の試合のビデオを見て反省会をするらしいので、またね、と言って別れた。

大学生チームは、高校生に負けて大分悔しそうにしていたが、最後は「全国取れよ!」と言って爽やかに帰っていった。

帰り際に大学生チームのマネージャーから、サッカー部の部長にと差し入れを渡されたのをきっかけに、またも観戦に来た女子たちから、渡せなかった差し入れを大量にお願いされた高原先生は、

「…寮に届けに行くか…」

と、段ボール5箱ぶんの差し入れを台車に載せ、
サッカー部の寮に向かった。

「反省会だったら部員も部長さんもいるだろうし、ちょうどいいよね…しかしみんなモテるんだなぁ」

高原先生は今日何度も連発した言葉を発した。

「すごいなぁ」

ガラガラと台車のタイヤが音をたてた。







今日の試合のビデオを見て、
顧問が何かに気づくのは、
今から30分後のこと……。

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