先祖返りの君と普通の僕

紫蘇

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先祖返りの君と普通の僕

高原先生、朝活を始める

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はあ、はあ…
体力がない高原先生は、何とか自分を鍛えようと朝早くから学校でジョギングを始めた、は、いいけれど。

「あれっ、先生、どうしたの」
「野球部、の、顧問、にも、なったしね、た、体力、つけようと、おもって、今日から、ちょっと、」
「へえー!」

校庭を3周しただけなのに、もう限界。
水飲み場へへたり込んで休んでいるところに、樫原君がやってきて、少し話をする。

「樫原、君は、朝練?すごい、ね、」
「すごくはないよ、皆やってるし…。
 それに、俺、先生に言っただろ?
 親父とお袋と、あんたのお兄さんのぶんも頑張るって。だからさ、もっと上手くならないと!」
「そ、だね、うん、だからさ、僕、せめて、自分の、父と、母の、ぶんだけでも、頑張らなきゃって、思ってね」
「先生、お父さんとお母さんも…いないのか?」
「うん、そうだよ、僕、施設で育ったから」

樫原君は高原先生の話に驚いた。
自分にも両親はいないが、まさか。
とんでもない共通点があったものだ。
あの時、本当に酷い事を言ってしまった…
樫原君は反省度を深くした。
許されたことが奇跡のような気がした。
そして、敢えて明るく聞いてみた。

「お兄さんも一緒に?」
「ううん、兄さんは、魔導士だから別だよ。
 魔導士になる子どもは、特別な施設に預けられることになってるんだって。
 母も魔術師だったから、名前だけはテレビや雑誌見て、知ってるだけ」

樫原君は反省度をより深くした。

「そうなんだ…」
「でも、たった一人の家族だし、魔導士って格好いいじゃない、だから、人には言わないけど、自慢の兄だったんだ」
「そっか」

許してくれたことに、感情が揺さぶられる。
お兄さんのぶんも頑張るなら、もっと努力しないと。
お兄さんは先生の特別な人なんだから…

「樫原君、あっちで先生が呼んでるよ」
「あ、ほんとだ!じゃあね、先生」

樫原君は走っていく。
猫科の動物を思わせる走りに、見とれる。

「いいなぁ…」

高原先生は、単純に樫原君の体力が羨ましかった。


----------


「なー、樫原かっしー。お前、高原センセと仲良いん?」

サッカー部の先輩で「先祖返り」の小田君が、樫原君に急に話しかけてきた。

「あっと、仲良い、というか…1年のとき色々あって、俺、一方的に高原先生のこと恨んでて…んで、和解して、今に至るというか」
「へー。」

小田君は、狼型の「先祖がえり」。
鼻が高くて彫りが深く、切れ長の目に青の瞳。
女子にモテまくる、イケメン中のイケメンである。

そんな小田君が、とんでもない発言をする。

「なあ、高原先生ってよ、変わった匂いしねえ?」
「はっ!?」
「俺さあ…鼻が敏感なのよ。
 すっげえ疲れてる時に先生の近く、行ってみ?
 何かすげーいい匂いするから…こう、何ていうか…食べたくなるような」
「た、食べる!?」
「そう、ガブっと…こう…骨付き肉みたいな…」

性欲的な方でなく、食欲的なことらしい。
どちらにしろ問題である。

「朝さあ、高原先生、走ってたろ」
「あ、はい、今日からジョギングするって」
「あれも何かいい匂いなんだよ」
「ええー」

樫原君は引いた。
先輩の感覚についていけない。

「兎に角さー、かじりつきたいのよ、先生に」
「か、かじりつく…」
「ちょーーっと囓らせてくんないかなーって」
「ええー、ちょっと先輩、………って、まさか…
 俺からそれ、頼ませようとしてます!?」
「そうそう」
「無理っすよ!」
「ダメ元でいいから!」

二人でゴニョゴニョしていたら、顧問に見つかった。

「コラー!そこ!私語をするな!」
「すんません!」

小田がこそっと樫原君に言う。

「な、な、樫原かっしー。聞くだけ、な」
「わかりました、聞くだけ、ですね」

変な伝言を預かってしまった…。


----------


「か、か、かじりたい??」
「そうらしいです」
「そ、そうか、うん…」

樫原君は律儀にも、高原先生に小田先輩の頼みを話していた。
先生も驚きすぎて言葉が出ないようだ。

「全然、断ってくれていいんで。
 話だけはしたことが小田先輩に伝われば…」
「う、うん…じゃあさ、『かじる…って、僕のお肉、食べるってことでしょ?それって大けがじゃない?痛いのは嫌だし、また休職しなきゃならなくなるし、ごめんね』って、言ってたって、言っておいてくれるかな?」
「はい、分かりました」
「ごめんね…」
「いや、こっちも…変な事聞いて、すいません」

囓りたい…なんて、最近の子は変わってるなぁ。
テレビで流行ってるのかな…

高原先生は首をかしげ、次の授業へ向かった。



しかし、この「囓らせて」事件、
これで終わりではなかった。




この後、この話が、あんな事になるなんて、
二人は知る由もなかったのだ……。


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