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先祖返りの君と普通の僕
弱小の哀しみ
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高原先生は怒りの声を上げた。
「えっ、そんな!今日はうちがグラウンド使う日って、決まってるはずじゃないですか!?」
野球部の生徒が職員室に駆けてきて、慌ててグラウンドに行くと、サッカー部の整備係がすでにマウンドを平坦にしていた。これでは野球が出来ない。
「あのねえ、こっちは全国大会に向けて練習しないといけないわけよ、だから理事長に掛け合って、暫くはここもサッカー部が使わしてもらうことにしたの。あんたらは河川敷でも走ってたらいいじゃないの、地方予選も1回戦負けでしょ?どうせ」
「そんな…!」
野球部の部員はグラウンドで練習するのを楽しみにしてるのに、それはないんじゃないか…と思うが、あっちは強豪、こっちは弱小。
「仕方ないよ、先生」
「先生、俺ら、河川敷でもいいよ」
「ほら、高原先生、生徒もこう言ってるし、ね?
ありがとう野球部諸君!サッカー部は君たちのためにも全国優勝を目指すよ」
その言葉を聞いて、高原先生は悲しそうな顔で部員たちに言う。
「でも、打撃練習しようって…守備の練習も、内野の連携も、やりたかったのに」
部員たちは小声で先生に言う。
「でも先生、サッカー部に逆らうのはまずいよ…」
「先生の立場も悪くなっちゃうだろ」
潰れかけていた野球部の顧問を引き受けてくれた先生に、これ以上迷惑をかけたくない。
野球部員たちの総意だった。
「行こ、先生。河川敷、場所なくなっちゃう!」
「う、うん」
部員たちは諦めがついているようで、高原先生を河川敷へと促す。
「……じゃあ、走るか!
僕より早く河川敷に着いた子にはジュース奢ってあげる!」
「やったあ!」
部員たちは大喜びで走り出す。
高原先生は足も遅いし体力もないので、全員ジュースを奢ってもらえることは確定だ。
「先生ー!早く早く!」
「はいはい、待って待って」
高原先生はスポーツウェアに着替えることもせず、スーツと革靴のまま走っていく。
それを見たサッカー部の顧問は、
「仲良しごっこの部活なんぞ、潰れれば良かったのに」
と呟いた。
----------
「ハァ、ハァ、」
「せんせー、ビリぃー!」
「ジュース、ジュース!」
「はぁ、はぁ、わかった、わかったから、ちょっと、待って」
「帰りでいいよ!」
「そうそう、自販機は高いし、帰りのスーパーでいいよ!」
「はぁ、はぁ、ありがと、」
部員たちは体力のない高原先生を放って、キャッチボールをしに行ってしまう。
「はぁ、情けないなぁ、もうちょい、体力、つけないとな」
ジョギングでも始めるか…
でも、そうなると、警護の人の都合もあるし…
高原先生は高名な魔導士だった兄にそっくりで、勘違いで誘拐されたこともあるので、それではまずかろうと、兄の同僚だった人が警護をつけてくれている。
今も見えないところからこちらを警護してくれているはずだ。
「朝早めに学校へ行って、走ればいいか…」
朝練の生徒もいるし、人目のあるところで襲われることもないだろう。
先生は一人、決意を固める。
今日も土手に腰掛けて、野球部員たちがわちゃわちゃと楽しそうにキャッチボールをしたり素振りをしたりしているのを眺めながら、ふと考える。
「…河川敷のグラウンド、借りられないかな…」
兄が残してくれた遺産もあるし、多少お金を出しても困ることはない。
月に一度でもいいから、グラウンドで練習させてあげたいな…と、先生はぼんやり思った。
「えっ、そんな!今日はうちがグラウンド使う日って、決まってるはずじゃないですか!?」
野球部の生徒が職員室に駆けてきて、慌ててグラウンドに行くと、サッカー部の整備係がすでにマウンドを平坦にしていた。これでは野球が出来ない。
「あのねえ、こっちは全国大会に向けて練習しないといけないわけよ、だから理事長に掛け合って、暫くはここもサッカー部が使わしてもらうことにしたの。あんたらは河川敷でも走ってたらいいじゃないの、地方予選も1回戦負けでしょ?どうせ」
「そんな…!」
野球部の部員はグラウンドで練習するのを楽しみにしてるのに、それはないんじゃないか…と思うが、あっちは強豪、こっちは弱小。
「仕方ないよ、先生」
「先生、俺ら、河川敷でもいいよ」
「ほら、高原先生、生徒もこう言ってるし、ね?
ありがとう野球部諸君!サッカー部は君たちのためにも全国優勝を目指すよ」
その言葉を聞いて、高原先生は悲しそうな顔で部員たちに言う。
「でも、打撃練習しようって…守備の練習も、内野の連携も、やりたかったのに」
部員たちは小声で先生に言う。
「でも先生、サッカー部に逆らうのはまずいよ…」
「先生の立場も悪くなっちゃうだろ」
潰れかけていた野球部の顧問を引き受けてくれた先生に、これ以上迷惑をかけたくない。
野球部員たちの総意だった。
「行こ、先生。河川敷、場所なくなっちゃう!」
「う、うん」
部員たちは諦めがついているようで、高原先生を河川敷へと促す。
「……じゃあ、走るか!
僕より早く河川敷に着いた子にはジュース奢ってあげる!」
「やったあ!」
部員たちは大喜びで走り出す。
高原先生は足も遅いし体力もないので、全員ジュースを奢ってもらえることは確定だ。
「先生ー!早く早く!」
「はいはい、待って待って」
高原先生はスポーツウェアに着替えることもせず、スーツと革靴のまま走っていく。
それを見たサッカー部の顧問は、
「仲良しごっこの部活なんぞ、潰れれば良かったのに」
と呟いた。
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「ハァ、ハァ、」
「せんせー、ビリぃー!」
「ジュース、ジュース!」
「はぁ、はぁ、わかった、わかったから、ちょっと、待って」
「帰りでいいよ!」
「そうそう、自販機は高いし、帰りのスーパーでいいよ!」
「はぁ、はぁ、ありがと、」
部員たちは体力のない高原先生を放って、キャッチボールをしに行ってしまう。
「はぁ、情けないなぁ、もうちょい、体力、つけないとな」
ジョギングでも始めるか…
でも、そうなると、警護の人の都合もあるし…
高原先生は高名な魔導士だった兄にそっくりで、勘違いで誘拐されたこともあるので、それではまずかろうと、兄の同僚だった人が警護をつけてくれている。
今も見えないところからこちらを警護してくれているはずだ。
「朝早めに学校へ行って、走ればいいか…」
朝練の生徒もいるし、人目のあるところで襲われることもないだろう。
先生は一人、決意を固める。
今日も土手に腰掛けて、野球部員たちがわちゃわちゃと楽しそうにキャッチボールをしたり素振りをしたりしているのを眺めながら、ふと考える。
「…河川敷のグラウンド、借りられないかな…」
兄が残してくれた遺産もあるし、多少お金を出しても困ることはない。
月に一度でもいいから、グラウンドで練習させてあげたいな…と、先生はぼんやり思った。
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