飼い猫はご主人を食べる

紫蘇

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箱庭でのせいかつ

これからの普通の始まり

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朝、雄鶏の声で目が覚める。
ボタンの姿が無かったので、フクとスミを起こさないようにそっと布団を出て音がする方へ行ってみる。

「ボタン、おはよう」
「あっ、ご主人…おはよう」

まだ寝てても良かったのに…とボタンは言うけど、二度寝したら駄目な気がしてボタンの手伝いをすることにした。
朝はお味噌汁と卵焼き、ということで僕は大根の皮剥きを買って出た。

「飯は俺の担当なんだ。
 俺が飯作れない時はフクが代わる」
「そうなんだ…ボタンもフクも料理できるんだね」
「おう!
 俺らご主人が居ない間に、人間の生活を学ぶのにテレビ見たり人間になって外へ出てみたり色々やってたんだぜ」

ご主人の後をつけて大学ってとこにも行った、なんて話を聞くと、あの日校内で見かけたあのイケメンはボタンだったのかな…と思ったりして。

僕は大根を切って鍋に入れる。
さらに煮干しの頭とワタを取って投入し、水を入れて火にかける。

「ねえ、人間の姿になるって大変なの?」
「あー、まあ、あっちだとそうだね」
「…こっちだと?」
「こっちだとこの格好が一番楽だね~」

耳も尻尾も仕舞わなくていいからね、と言ったあと、ボタンは少し思い詰めた感じで僕に聞いた。

「……俺、猫の方がいい?」
「えっ?」
「本当は猫のほうが、好きかな、って…」
「えっそんなもったいない」
あっ、しまった!
心の声がそのまま出てしまった。
まずい。
僕は慌てて顔を背けた。
ボタンが顔を近づけてくる…
イケメンすぎて緊張するからやめて!

「…ご主人、俺のこの姿、好き?」

ボタンが耳元で囁く。
その声に背筋がぞくっとする。
答えた方が良いのかどうか、悩む。
悩んでいるとボタンがさらに聞いてくる。

「ねえ、ご主人ってば」
「……」
「俺のこの姿…」
僕は耐えきれず言った。
「す、すき、です…」
すると、すかさずボタンが頬にキスをして…

「へへ、ありがと」

って言って…。

……っ。

ああもう、朝から顔が熱いったら!

***

朝ごはんを食べて、今日もまた田んぼと畑を見に行くことにした。
お昼ご飯用にフクがおにぎりを作ってくれて、それを持って4人で畑へ。

「ナスに水やり~!」と言って、スミがジョウロを持って来てくれたので、田んぼの脇に流れる側溝から水を汲んできてナスの苗にかける。
ナスは水を吸って大きくなるから水やりは大事だ。
ついでに隣のキュウリにも水をやる。

「これは…大根かな?」
「こっちは…キャベツかな」

アブラナ科の野菜が二列ずつ植えてある。
畝はそれほど長くないけど…全部ちゃんと育てられれば、4人分以上ありそう…
その日食べる分を収穫して、残ったら…漬物かな。

「ご主人、何してるの」
「うん…虫がついて無いか見てるの」
「そっか、それは大事だね」
「ここには農薬が持ち込めないから、害虫駆除は大事になるな」

フクが言うには、化学系のものを土に撒くのは神域ではご法度らしい。
本気の有機無農薬栽培か…
いきなりハードル高いなぁ。

そう思っているところへスミから朗報。

「でも病気とかないから安心だよ!」
「へえ~、そうなんだ!じゃあ大分気楽だね」

あくまでここは心穏やかに暮らす土地であって、飢えとは無縁でいられる様になっているそうだ。
さすが神域…

「そういえば、この周りは他に誰か住んでるの?」
「うむ、まだご主人には無理だが、この世に馴染んだ後には他の地へ旅行したりできるぞ」
「馴染む…?」
「左様、この土地で取れたものを食べ、この土地の水を飲み、我らと寝所を共にすれば、そのうち」
「しんじょ…?」

僕が聞きなれない言葉を繰り返すと、フクがふふふ…と笑って、言った。

「今宵は我と寝所を共にしよう、ご主人」
「えっ」

これはもしかして、あ、いや、さすがに自意識過剰すぎでしょ!?
確か匂いが落ち着くって言ってたから、安眠のために嗅がせろみたいなことで、えー、

「…明日はぼくだからね」
「明後日は俺だぞ」
「分かっている」

えーと、うん。
大丈夫、一緒に寝るだけ、寝るだけ…。

自分にそう言い聞かせながら、春先の畑を見回る。

身体を動かすことで、少しでも健康的に痩せられたらいいな…と思いながら。

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