飼い猫はご主人を食べる

紫蘇

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箱庭でのせいかつ

想いを伝えるには sideフク

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「…で、やりすぎた、と?」
「ごめん、フク…」
「謝るのはご主人にだろう、全く」

あまりに遅いので風呂へ行ってみれば、ボタンがぐったりしたご主人を抱えていた。

精を抜き過ぎたらしい。

幾分かは戻したと言うが、この分では足りておらんのだろう。
体力も随分と使ったであろうし、暫くお休み頂くことにする。
昼過ぎにはお目覚めになるであろう…

全く、ボタンは性急すぎる。

まだ菜園も池も見せておらんのだ。
きっとそちらも楽しみにしているだろう…
現世うつしよでは毎日働いていたのだから、まずはのんびり穏やかに過ごさせるのが良い。

ボタンの言い訳によれば、ご主人に我らの愛が全く伝わらないから無茶をしてしまったらしい。

「デブだとか、クサいとか、気持ち悪いとか…
 そんな事無いって言ってるのに」
「ふむ、それはな。
 ご主人は自分に自信が無いのだ。
 大学に通っているうちはまだ良かったが、就職活動とやらを始めてから落ち込みが酷くなった」
「…ロスジェネって言ってた…あれ?」
「そうだ」

社会から不要だと言われる毎日。
自分を知りもしない相手から受ける人格否定。
不幸も不運も不遇も全部「自己責任」。

お前が悪い。
何もかもお前が選んだ道だ、
奴隷になるか貧民になるか機械の代わりになるか、選ばせてやっただろう、と。
お前みたいなものを雇ってやっている、と。
雇って頂いた会社に滅私奉公するのは当然だと。
働けるだけ有り難いと思え…と。

景気が上向いても、救いはなく。
社会的責任を果たしていない、とか。
結婚もせずジメジメと暮している、とか。

それを何回も繰り返し世間から言われ続け…
嘲笑の的になり、説教され、それでは生きていけないと分かれば「死んだほうがましだ」と……

そんな仕打ちをうけていれば、自信も自己肯定感も粉々になるだろう。

我は長らく世を見てきたが、あれは酷いものだ。


ご主人は疲れているのだ。
生きること自体に疲れているのだ。

現世うつしよで我が見た、職場でのご主人は…背中を丸めて働き、若い女から馬鹿にされ、客から罵倒されていた…悲しい姿だった。

「我から話をしてみよう。
 時間はある、急がなくても良い」
「…うん」

ご主人はスヤスヤと寝ている。
好きなだけ寝たらいい。
咎めるものは誰もいない。
いびきをかかなくなったのは良い事だ…
時々止まるから、気が気でなかったのだ。

「ご主人、ゆっくりお休み」

頭を撫でる。
髪の毛の心配をしていたのを思い出す。
ここに来たからにはフサフサにしてやろう…

我らの技をもってすれば、簡単な事。

だが痩せられるのは少し…寂しい。

ご主人には肉付き良くいて欲しい…
それも追々、納得して頂かねばな。
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