飼い猫はご主人を食べる

紫蘇

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箱庭でのせいかつ

二度寝からの寝耳に水

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「ご主人、晩飯の時間だ。起きるがよい」

うーん、もうちょっと寝る…

「ご主人、今日はハンバーグだぞ!」
「お風呂の準備もできてるよ!!」

…は…ハンバー…ハンバーグ!?
だめだよ、あれには玉ねぎが!

「食べちゃだめ、死んじゃう!!」

僕は慌てて飛び起きる。
猫に玉ねぎなんて!!

僕は反射的に声がするほうを見た。
するとそこには…

「…言ったじゃん、俺ら猫じゃねーし」
「チョコレートだって食べられるよ!」
「これからは我らもご主人と同じ食事が出来るな」

爽やかで背が高くスタイルの良い若者と、
大きな目の可愛らしい男の子と、
僕より年上っぽいクールなダンディが、

猫耳猫尻尾をつけて、和服を着て、正座していた。

***

「ご主人、おーいご主人」
「びっくりさせちゃったかなあ」
「それは驚くであろう、しかし小出しに出来る事でもない。ショック療法のようなものだな」

……ねこじゅうじん。

猫耳ダンディ、猫耳イケメン、猫耳美少年。

これはいったいナニ?

あっ、そうか、僕は正気じゃないんだ。
キモくて金のないオッサンを拗らせすぎて、ついにイカれ過ぎた妄想をしているんだ。

「痛い…痛すぎる」
「どうしたのご主人?」
「何処が痛いんだ?」
「ふむ…では直ぐに処置をせねば…」

和風ダンディがスス…と近づいてくる。
僕は何とか後ずさろうと、
「なぜ逃げる、奏汰かなた?」
「いや、その、んむっ!?」

唇に柔らかいものが触れた、と思ったら、ぬるりとしたものが口の中に差し込まれ、舌に絡まる。

くちゅ…くちゅ…

甘い水音と、とろけるような液体が口に広がる。

ちゅる…じゅ、くちゅ…ちゅぷっ…

「ん、んふ…っ、んん…!」

脳から脊髄まで、よくわからないものが走って、僕は怖くなって、目を必死で瞑り、目の前のものにしがみついた。
目の前のそれは僕の腰に手を回してきた……

「いつまでやってんだテメェ!!」
「んぶっ」

しがみついていたものが急になくなり、口の中から何かがちゅぽん、と抜けた。
と思ったら、今度は唇を思いっきり塞がれる。

はむっ、ちゅむ、くちゃ、くちゅ…

だめだ、頭がぼうっとする…
僕の受け止めた現実によると、猫耳ダンディとディープなキスをした直後に猫耳イケメンとディープなキスをしているということだ。

いやそんな都合のいい現実とかない。
猫耳ダンディも猫耳イケメンも、僕が職場や学校で見かけて「いいな」って思った人とそっくりで。
そんな人がこんなキモデブにキスするとかありえるわけない!!
口臭そうとか、口の中粘ってそうとか、散々言われてきたのに!!

おかしな夢だ、だって猫なのに玉ねぎを食べてもいいなんて。

でも、夢ならいいかな。

自分がゲイだってことを受け止める勇気が無くて、彼氏を作れなかったし、作る努力もしなかった。
恋を早々に諦めて猫ちゃんと一緒に生きる事だけに集中した。

あっちで生きてる時だって、夢の中では素敵な年上男性やモデルさんみたいなキラキラした男性に抱かれてた。
これはきっとその夢の一部…

「ご主人、舌、出して」
「あ…は、ん…っ」

目を少し開けて彼の顔を見る。
猫って肉食獣だったんだな…。
彼の顔が近づいて、僕の舌を…

「もー!だめ!ぼくもっ!!」

イケメンを突き飛ばして今度は美少年が僕にキスをしてくる。
僕はさらに混乱する。
夢の中でも、美少年は出てきたことが無かったから。

ちゅ…ちゅ、ちゅく…

駄目だって分かってるのに拒絶できない。
こんな若い…若すぎる子、手を出しちゃいけない年齢の、男の子…

くちゅっ、くちゅ…ぺろっ、ちゅぷ…

だのに、そのキスはあまりにも上級者で、初心者の僕はもう彼を突き飛ばす力も入らない。
僕はどさり、と後ろに倒れ…るはずが、衝撃がいつまでも来ない。

誰かに背中から抱き留められているんだ…

「ご主人、我らを受け入れてくれるか?」

甘い低音が耳の奥を震わせる。
唇から少年が離れる。

「ね、キス、きもちよかったでしょ?」

変声期前の可愛い声が眼前で響く。
すると、右手に「ちゅ」とキスをされたあと、

「僕のこと食べて、って、言ったよな?」

と蠱惑的な声が耳元で聞こえて…。

「出来立てを食べさせられないのは残念だけど、晩飯は温めなおせばいいしな」
「そうだな、先にご主人をとしようか…」
「うん、とってもおいしそうだもん」

はへ?
どういうこと?
こんな過激な夢、僕、見た事あったっけ…

ああ、そうか。
神域に来たから、夢もあっちよりスゴいんだな。

「うん…食べて、いいよ…」

僕は思考の鈍る頭で、生きたまま食われるって痛いんだろうなあ…と考えていた。
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