飼い猫はご主人を食べる

紫蘇

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箱庭でのせいかつ

ここはどの世か

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柔らかな陽射しで目が覚める。

周りは木々に囲まれ、爽やかな風が吹いている。
目の前には一本道。
一方は白い霧の中へと伸びている。
一方は森の中へ続いている。

死んだ自覚はあるから……
ここはもしかして死後の世界?

「死んだら無になるわけじゃないんだ…」

それにしても長閑な場所だな。
ここでお迎えを待つのか、それとも行くのか…

「まあ、行くんだろうな」

道は1本きり。
前と後しか選択肢はない。

僕は何となく森の方へ行くことにした。
小さい頃町内会でよく行ったハイキングコースに似ている気がしたからだ。
毎年恒例の、森の中の小さな神社を掃除して、お供えして、祝詞をあげて…っていう行事だ。
大学で地元を離れるまで、毎年行事に参加してた。

個人的にもよく通った。
そこにはプラチナみたいな毛色の気品あふれる猫ちゃんがいて、その子を膝に乗せて撫でると悩みが小さくなるような気がしてた。


「しばらく実家に帰ってないな…」

忙しかったし、何より猫ちゃんがいるし、それに…
帰りづらい理由も、あったし。

「向こうだって、俺の顔なんか見たくもないか」

孫の顔も見せられない長男なんて、要らないよな。

暗い気持ちになりながら歩いていると、向こうから小さな点が3つ、近づいてきた。

あれ!?

「フク!ボタン!スミ!!」

僕はたまらず駆け出した。


3匹とも死んじゃったのか!?
そんな…、
そんな、なんで!?
僕のこと食べなかったの?
それとも…
僕なんか食べられたもんじゃなかった…?

「ごめん…っ、ごめんね……」

激しい罪悪感で、膝がかくんと折れた。
地面にへたりこんだ僕は、そのまま土下座した。

「あの時、僕が死んだりしなければ…」
「あの時、里親を探すのを諦めなければ…」
「あの時、僕が君たちを拾わなければ…」

もっと生きられたかもしれない。

ごめん、ごめんね、ごめんなさい。
泣いて謝ったって許されることじゃないけど…

「うっ、ううっ…ご、ごめ…ごめ、ぼくがっ」

そうやって頭を下げ続ける僕の頭に、ふにり、とフクの前足が乗せられた。

「それは違うぞご主人」
「ううん、違わない、違わないんだ、僕が!」
「いや、そもそも我らは死なない」
「ううん、僕が…………えっ?」

フクが喋った。
しかもとんでもないことを言った。
僕は恐る恐る顔をあげた。
やっぱりフクだ。
27年も見てきたんだから間違いない。

「我らは死なないし、ご主人も死んでいない。
 契約により我らと共にここへ来たのだ」
「……ふえっ?」

そういって僕の膝に乗っかるフク。

「あったかい…」

するとボタンもフクをじろりと見てから言った。

「ご主人、45歳になったじゃん?」
「えっ…そうだっけ」
「ったくもう!自分の誕生日も忘れて働くなよ!」

たしたし、と前足で地面をたたくボタン。

「ご、ごめん…」
「ギリギリ間に合って良かったぜ」

そういってフクをぎゅむぎゅむ押しやりながら、ボタンも僕の膝に乗ってきた。
スミが僕の肩に駆け上がってきて言った。

「ほんとだよー!
 たまが入れ物からぬけちゃうとこだった!
 でもぶじに連れてこれてよかった!」
「た、たま…タマ?いれもの?」

すると、膝の上でフクが言った。

「たまは魂、入れ物は肉体の事だ。
 魂は肉体から離れると、すぐに死神が持って行ってしまう。
 我らでは死神に対抗する事が出来ぬのだ」
「死神…本当にいるんだ」
「いるぞ」

3匹の話で分かったのは、

どうやら僕は死んでいないらしい事と、
どうやら僕は別の世界に来たらしい事の、

2つだった。

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