弟子と師匠と下剋上?

紫蘇

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第二章/深まる仲

すれ違い入れ違い ~エルデ視点~

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私はふと目を覚ました。
タビトの手があったかくて、ついウトウト…

「…タビト?」

おかしい。
いない。

「タビト!?」

どこへ行ったんだろう。
まさか、外へ?

「タビト!!」

慌てて廊下へ出る。
タビトの姿は無い。

「他の部屋に、行った…?」

慌てて隣の部屋へ行く。
やはり居ない。

「…逃げた?」

いや、そんなはずはない。
この家には玄関が無いんだ。
外に出られるはずが無い…!

「タビト…っ」

次の扉を開けてみる。
やはり居ない。

「何で…っ」

次の部屋にも、次の部屋にも、タビトはいない。

まさか、転移魔法で…?
いや、馬鹿な、そんなはず…!

「…タビトなら、できるかもしれない」

だってあんなに外へ出たがっていた。
好奇心旺盛なタビトのことだ、私の転移魔法を読み解いた可能性は十二分にある。

それに、タビトは精霊に好かれている。
精霊が彼の気を引く為に、果物を持って来たりするくらいだ。
少し頼めば、この壁の向こう側に行くことくらい簡単に出来る…

「…探さなきゃ」

この家の外は危険だ。
ここは元々、3つの廃村から出来た瘴気の森…
相当な広さにも関わらず、周りの策略によって私一人だけで浄化に来た場所だ。
もしかしたら見落としがあるかもしれない。

瘴気の森にいる魔物は狂暴だ。
魔界へ戻るよう諭すなんて出来ない。

タビトは戦えない。
悪意や敵意を向けられると、震えて何もできなくなるんだと聞いた。

私が覚えているのは、跪きただ祈る姿。
そうしてずっと障壁結界を張り続けるんだ。
どんな攻撃もはじき返す、強力な障壁を、相手が諦めるまで、または誰かが助けに来るまで…

「そうだ、助けに行かなければ」

私は家の外へ転移し、精霊たちに話しかける。

「<風の精霊フーシェの子らよ、タビトを探して、私に教えて>」

まだ日は昇らない。
だから光の精霊には頼めない。
だが風はどこにでも吹く。
この森の隅々まで探せるはずだ。



「タビト…一体、どこに」



精霊たちだけに探させるわけにはいかない。
私もまた、家の周りを捜索する。
壁に穴が開いたりはしていない。
それほど遠くへ行ってはいないと思う。
なのに、精霊たちの力をもってしても…。

「…どうしてだ」

すでにもう、この森に居ないのか。
まさか、もう襲われてしまったのでは…

「…タビトっ…!!」

私は叫ぶ。
だが返って来る言葉は無い。
居ても立っても居られない私は、森の中へと駆けた。

早く見つけないと。
もし何かあったとしたら、私は生きていられない。
タビトが居ないと…!!

「タビト!どこですかタビト!!」

何度も名前を呼んで、走って、木の根につまずいて転んで…。

「なんで、なんで居ない…っ!!」

どこへも行かないで、って言ったのに。
あんなに必死で訴えたのに…
なんで、居なくなるの?

涙がこぼれる。
私の言葉が響かなかった事がショックだ。

「私の事が、そんなに嫌なのだろうか…」

今まで、消極的ではあったけど、受け入れられていると思っていた。

「…タビト」

小さく名前を呼んでみる。

タビトを好きになった事にきっかけは無かった。
一緒に同じ屋敷で生活するうちに、少しずつ心にタビトが溜まっていった。
溜まって、溜まって、溢れた。

「…タビト…」

だめだ、こんな事じゃ。
逃げたら追って、捕まえなきゃ…

その時、精霊が私にささやいた。

<エルデ、タビトいた>
「<何だって!?>」
<タビト、家の中にいたよ>


「……は?」


***


部屋に帰ると、確かにそこにタビトがいた。

「あっ、お帰りエルデ君」

私は一瞬気が遠くなり、気が付いたらタビトに支えられていた。

「…どうしたの、随分ボロボロになっちゃって」
「…どうも、しません」

私はタビトを抱きしめた。

「どこに、行っていたんですか」
「どこって、家の中を見て回ってただけだよ」
「……外へは?」
「玄関が無いのに出られないでしょ?」

タビトはふふ、と笑う。
そして私の、こけて擦りむいた手を見て治癒を掛けてくれる。
こんなに必死に探したのに…タビトの余裕が、今はムカつく。
だから私は反論する。

「でも、壁を壊せば!」
「それはそうだけど…エルデ君が一生懸命作った家を壊すなんて出来ないじゃない?
 いっぱい部屋があって、僕は右からぐるっと一周回ったんだけど」
「私だって、全部の部屋…………あっ!」

どうやら、家の中ですれ違いが起こっていたらしい。
何てことだ!!
紛らわしい。
無駄に部屋を作るからこんな事になるんだ…


私!の!馬鹿!!!!


「…部屋を、作り過ぎた…っ」

大失態だ。
それに、他の部屋を見られたという事は…
この家の不完全さも、また、見られたという事だ。


は ず か し い…!!!


もう顔が上げられない私に、タビトは言った。

「最初から大作に挑むからいけないんだよ。
 それに、魔法で家を作るのでも、材料や間取り図がちゃんと揃ってないと…
 今度教えるから、一緒に作ろう」
「…はい」

まだ僕にも教えられる事があったねえ、とタビトが笑う。

その笑顔は、とても懐かしくて…

私は、図らずもタビトから大事なものを奪っていたのでは、と気づいた。


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