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第一章/馴れ初め
嬉しくない妥協案
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「ん”ん”、あ”~エルデ、落ち着け」
フェルディナンド君が大きく咳払いをし、エルデ・ケンプファー君に落ち着くよう促す。
「何を大人ぶった事を。
フェルディナンド先輩だって昔「わーーー!!」
「大体私にそういう知識を教「わーーー!!」
…どうやら、この2人には僕に隠している事があるらしい。
困った子たちだなあ…
でも、子どもは多少の隠し事をするものだ。
いちいち暴き立ててたら身が持たない。
「…ともかくだな、エルデ。
ここにはタビト師匠を傷つけるやつはいない。
師匠はここの皆に慕わ「慕うとはど「慕われているし、この学校も師匠がいないと成り立たない」
フェルディナンド君はどうやら強引に話を進めることにしたらしい。
そうだよね、彼、人の話を聞かないんだもん。
困った子だなあ。
フェルディナンド君は言う。
「別に、俺だってお前と師匠を引き離したいわけじゃない。
側にいて守ってくれる奴がいてくれたらと思う事が山ほどあるからな」
「そうでしょうそうでしょう!
それなのに9年前私を遠ざけたばかりか、筆頭になった翌日迎えに行けば、屋敷の姿は変わっているし塾は無くなっているしタビトは居ないし」
「……ごめん」
「まったくタビトは…。
私が側にいないと駄目だと分かりましたか?」
何故かふふん…と胸を張るエルデ・ケンプファー君。
僕はムッとして言い返す。
「でも…いなかったらいないなりに何とかするよ。
じゃなきゃ子どもを預かるなんて出来ないもの」
「でも私が居なくなった途端に、タビトは居場所を追われたじゃありませんか!
屋敷に火を付けた犯人は異界に送っておきましたが、起きた後では意味が無いのですよ」
「異界に送った!?」
それを聞いたフェルディナンド君は、いい笑顔で怖い事を言った。
「死体は出ないし証拠も残らない…いい方法だな」
「お褒め頂き光栄です」
「なっ…!」
何でそんな事!
そんな簡単に人を殺すような事…!!
なんでそんな事笑って……!
……僕は、そんなの……教えてないっ……
「……」
暗い気持ちが渦巻きかける。
その時、急にエルデ君が僕の頬にキスして言った。
「タビト、これはただの冗談ですよ?
死体が出ない、というのは誰も死なないという意味で、異界、というのは転移魔法でどこかへ飛ばしたという意味です。
殺されそうになったので、気が動転して、彼らにうっかり転移魔法を放ってしまっただけなのです…だから、正当防衛なのですよ?」
「…っ…正当、防衛…?」
「ええ、それに殺すより良いでしょう?
転移魔法を使えば戻れるんですから!
彼らは私よりずっと優れていると言っていました。
だったら私と同じ事ができて当然でしょう?」
にっこりと有無を言わさない笑顔を浮かべたエルデ…
いや、エルデ・ケンプファー君。
これ以上聞くな、と言わんばかりだ。
ただ、この話を聞いてフェルディナンド君には何か名案が浮かんだらしい。
前のめりの体勢になってエルデ・ケンプファー君に質問する。
「なあ、転移魔法って、一度行った事がある場所ならどこでも行けるのか?」
「そうですね、一度も行ったことのない場所には行けない、とも言いますが」
「やっぱそうか…。
転移魔法が使えるのに馬車でここへ来るってのが気に掛かってたんだよ。
それと、自分以外の物や人だけ飛ばすことも出来るんだな?」
なるほど、彼も転移魔法に興味があったのか。
ふむふむ……と僕が頷くと、エルデ・ケンプファー君はフェルディナンド君に言った。
「ええ、ご明察です。
正解したフェルディナンド先輩には、私が乗ってきた馬車を馬付きで進呈します」
「えっ、いいのか?助かるわぁ…
って、それは置いといてだな」
「いらないんですか?」
「いるよ!
そうじゃなくて、その上で転移魔法が毎日使えるもんなんだったら、タビト先生をここへ通わせる事だってできるだろ」
えっ?
「……なるほど?」
「それなら、タビト先生を連れて行っても良い。
始業は朝8時半、終業は夜9時…子どもたちの消灯時間までだ。
昼と晩の食事はこちらで提供する。
転移は行きも帰りも先生の部屋を使え」
「就業時間が長すぎませんか?」
「人目をなるべく避けられる時間を選んだ。
転移魔法の使用条件と利便性は隠しておいたほうが良い」
うん、それは何となく分かるけど。
「公開したところで、精霊への理解が低い者には使えませんけどね」
「お前を利用したいやつがタビト先生に手を出したら困るから言ってんの!!
無用な争いは避けた方が良い…
ね、タビト先生」
「あ、うん…………あっ!」
僕がうっかり返事をした途端、エルデ・ケンプファー君はさっと僕を抱き上げた。
そして…
「だから終業は夜9時だって言ってんだろ!
早速規則を破るんじゃねえ!!」
「ぐふっ」
今度はフェルディナンド君に拳骨をくらった。
フェルディナンド君が大きく咳払いをし、エルデ・ケンプファー君に落ち着くよう促す。
「何を大人ぶった事を。
フェルディナンド先輩だって昔「わーーー!!」
「大体私にそういう知識を教「わーーー!!」
…どうやら、この2人には僕に隠している事があるらしい。
困った子たちだなあ…
でも、子どもは多少の隠し事をするものだ。
いちいち暴き立ててたら身が持たない。
「…ともかくだな、エルデ。
ここにはタビト師匠を傷つけるやつはいない。
師匠はここの皆に慕わ「慕うとはど「慕われているし、この学校も師匠がいないと成り立たない」
フェルディナンド君はどうやら強引に話を進めることにしたらしい。
そうだよね、彼、人の話を聞かないんだもん。
困った子だなあ。
フェルディナンド君は言う。
「別に、俺だってお前と師匠を引き離したいわけじゃない。
側にいて守ってくれる奴がいてくれたらと思う事が山ほどあるからな」
「そうでしょうそうでしょう!
それなのに9年前私を遠ざけたばかりか、筆頭になった翌日迎えに行けば、屋敷の姿は変わっているし塾は無くなっているしタビトは居ないし」
「……ごめん」
「まったくタビトは…。
私が側にいないと駄目だと分かりましたか?」
何故かふふん…と胸を張るエルデ・ケンプファー君。
僕はムッとして言い返す。
「でも…いなかったらいないなりに何とかするよ。
じゃなきゃ子どもを預かるなんて出来ないもの」
「でも私が居なくなった途端に、タビトは居場所を追われたじゃありませんか!
屋敷に火を付けた犯人は異界に送っておきましたが、起きた後では意味が無いのですよ」
「異界に送った!?」
それを聞いたフェルディナンド君は、いい笑顔で怖い事を言った。
「死体は出ないし証拠も残らない…いい方法だな」
「お褒め頂き光栄です」
「なっ…!」
何でそんな事!
そんな簡単に人を殺すような事…!!
なんでそんな事笑って……!
……僕は、そんなの……教えてないっ……
「……」
暗い気持ちが渦巻きかける。
その時、急にエルデ君が僕の頬にキスして言った。
「タビト、これはただの冗談ですよ?
死体が出ない、というのは誰も死なないという意味で、異界、というのは転移魔法でどこかへ飛ばしたという意味です。
殺されそうになったので、気が動転して、彼らにうっかり転移魔法を放ってしまっただけなのです…だから、正当防衛なのですよ?」
「…っ…正当、防衛…?」
「ええ、それに殺すより良いでしょう?
転移魔法を使えば戻れるんですから!
彼らは私よりずっと優れていると言っていました。
だったら私と同じ事ができて当然でしょう?」
にっこりと有無を言わさない笑顔を浮かべたエルデ…
いや、エルデ・ケンプファー君。
これ以上聞くな、と言わんばかりだ。
ただ、この話を聞いてフェルディナンド君には何か名案が浮かんだらしい。
前のめりの体勢になってエルデ・ケンプファー君に質問する。
「なあ、転移魔法って、一度行った事がある場所ならどこでも行けるのか?」
「そうですね、一度も行ったことのない場所には行けない、とも言いますが」
「やっぱそうか…。
転移魔法が使えるのに馬車でここへ来るってのが気に掛かってたんだよ。
それと、自分以外の物や人だけ飛ばすことも出来るんだな?」
なるほど、彼も転移魔法に興味があったのか。
ふむふむ……と僕が頷くと、エルデ・ケンプファー君はフェルディナンド君に言った。
「ええ、ご明察です。
正解したフェルディナンド先輩には、私が乗ってきた馬車を馬付きで進呈します」
「えっ、いいのか?助かるわぁ…
って、それは置いといてだな」
「いらないんですか?」
「いるよ!
そうじゃなくて、その上で転移魔法が毎日使えるもんなんだったら、タビト先生をここへ通わせる事だってできるだろ」
えっ?
「……なるほど?」
「それなら、タビト先生を連れて行っても良い。
始業は朝8時半、終業は夜9時…子どもたちの消灯時間までだ。
昼と晩の食事はこちらで提供する。
転移は行きも帰りも先生の部屋を使え」
「就業時間が長すぎませんか?」
「人目をなるべく避けられる時間を選んだ。
転移魔法の使用条件と利便性は隠しておいたほうが良い」
うん、それは何となく分かるけど。
「公開したところで、精霊への理解が低い者には使えませんけどね」
「お前を利用したいやつがタビト先生に手を出したら困るから言ってんの!!
無用な争いは避けた方が良い…
ね、タビト先生」
「あ、うん…………あっ!」
僕がうっかり返事をした途端、エルデ・ケンプファー君はさっと僕を抱き上げた。
そして…
「だから終業は夜9時だって言ってんだろ!
早速規則を破るんじゃねえ!!」
「ぐふっ」
今度はフェルディナンド君に拳骨をくらった。
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