弟子と師匠と下剋上?

紫蘇

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第一章/馴れ初め

校長は学校の良心…?

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僕とエルデ・ケンプファー君がそうやって騒いでいると、職員室の奥から校長であるフェルディナンド君がやって来て言った。

「ケンプファー筆頭魔導師。
 入口を塞いでいますよ、中へ入りなさい」
「申し訳ありません、フェルディナンド先輩。
 すぐに私の屋敷へ転移しますから…」
「しれっと師匠を連れて行こうとすんな」ビシッ!
「痛っ!!」

フェルディナンド君はエルデ・ケンプファー君の頭にチョップを入れ、襟首を掴んで職員室の中へ引きいれた。

「タビト先生を連れて行かれるのは困る。
 さっきも説明したろう、この学校はタビト先生のおかげで回っているんだぞ」
「ええ、だから先ほども言いましたよね?
 金なら私が出しましょう、と」

えっ、お金?何のこと?

「金以外の部分がデカいんだっつの!
 全学年で授業が出来るのはタビト先生だけだ。
 しかも魔法も治癒も…後任がいないんだから」
「だから、魔導師と治癒師を紹介しますよと」
「それ絶対白鷲しろわし青山羊あおやぎから引き抜くつもりだろ…やめろよ」

そう言えば、白鷲しろわし…正式には白鷲はくしゅう魔導師団は、最近瘴気の森で半分が亡くなったと聞いた。
青山羊あおやぎ…正式には青山羊あおやぎ医療団の人たちも数人巻き込まれた、と。

確かに人数が減ってる今誰かを引き抜いたら、残された人たちへの負担が増えて大変そうだ。
それに、青山羊には弟子が何人もいる…負担をかけたくない。

だけど僕の思いをよそに、エルデ・ケンプファー君は事もなげに言う。

「白鷲はともかく、青山羊医療団にはリリル先輩がいますから、良いのを見繕ってくれますよ」
「リリルに治癒以外の頼み事すんな、後々何を要求されるか分かんないだろ」

ともかくこっちで話そう、とフェルディナンド君は僕とエルデ・ケンプファー君を校長室に招き入れた。

***

フェルディナンド君はエルデ・ケンプファー君に言った。

「お前と師匠の結婚に、俺は反対しない。
 あらゆる事から師匠を守れるのはお前「そうですか!さすがフェルディナンド先輩、私情と現状を切り分けられるお方だ…尊敬に値します」

エルデ・ケンプファー君はフェルディナンド君の話を最後まで聞かずに無理矢理彼と握手した。
その握手を振り払ってフェルディナンド君は言った。

「ばっ、余計な事言うんじゃねえ!!
 それから、結婚には師匠の同意が必須だからな?
 あと、師匠を不幸にしたら、塾生全員で私刑リンチすっから、覚悟しとけ」
「不幸などあるわけがありません、私はタビトを徹底的に甘………、守りますから」

あま?

「……あと、監禁は無しだ」
「………………当然じゃありませんか」
「何だその顔と間は!!」

2人は僕を放って僕の処遇について盛り上がる。
今に始まった事じゃないけど、複雑だ…。

僕は、学友の方々がくれた親切に報いたいだけだ。
それが教育だというなら、僕は…

「僕は…教師を続けたいんだけどな」

そんな僕の言葉に、エルデ・ケンプファー君は難色を示し、フェルディナンド君は目を輝かせた。

「タビト…、ですが」
「タビト師匠…!分かりました、この馬鹿には俺が言い聞かせます」

フェルディナンド君はそう言って、エルデ・ケンプファー君に向き直った。

「エルデ、師匠にはここで教師をしてもらわなきゃいけない理由がある。
 第一に、師匠がそれを望んでる。
 第二に、この学校のみんながそれを望んでる。
 第三に、宰相閣下の手引きで皇子様と皇女様もここで学んでおられる…信頼は裏切れない」

するとエルデ・ケンプファー君は事も無げに言った。

「ああ、ザインとかいう人ですか。
 師匠を愛人という身分に閉じ込めるわけにはいかない、と恋心を封じたという…
 確かに立派な御仁ですが、私は彼に貸しを持っていますから脅せますし大丈夫ですよ」
「ザイン様に貸しっ!?」

あの方に貸しを作るなんて……一体何が?
驚いてエルデ・ケンプファー君の顔を見ると、彼は甘く微笑んで僕に語った。

「白鷲の害悪を処分するのに、私の偉業を利用させて差し上げたので」

その話に驚いたのかフェルディナンド君が言った。

「おいおい…まさかそれで半分も死んだのか?」
「ええ、まあ、そうなります。
 ですが私が1人で浄化した場所の、半分にも満たない広さの瘴気の森ですよ?
 それを50人がかりで始末出来ないんですから…
 仕方なく私がケツを拭きましたよ。
 魔法で青山羊に負けているようなのでも、集まれば瘴気の森の一つくらい…と思ったんですがねぇ」

んん?何、どういう事?
どんなに優秀でも、青山羊は治癒…でしょ?
治癒師も魔法は使えるだろうけど、それに負ける?

「でも入団時には厳しい試験があるって」
「いいえ?金を積んで入った方が8割ですよ。
 問題は、チヤホヤされたいだけの輩だけでなく、高いレベルでの研鑽を求めて入る方もいる事です」
「金を積んでまで研鑽を求めるのが問題……?」

うーん、確かに、それは良い事とは言えないか。
実力が無ければ、辛い思いをするだけだし……

僕はそう考えたけど、問題はそこじゃ無いらしい。
エルデ・ケンプファー君が言った。

「ええ、白鷲に入る実力があっても、男爵位以下の者は金を積まねば入れないので」
「うーん予想の斜め上」

まさかの事実に、フェルディナンド君は天を仰いだ。

「ったく、何でそんなに金が欲しいんだ?
 白鷲はみんな高給取りのはずだろ」
「遊ぶ金が足りなかったみたいです」
「弱体化の理由がクソすぎて笑えねえ…」

そうか……そんなことに……あれ?
エルデ君の時にお金なんて払ったっけ?

「じゃあ、エルデ君が試験「タビト!漸く私の事をエルデ、と…!もう辛抱たまりません、すぐに我が屋敷で全身泡まみれになりながら触りあいましょう、そしてタビトが快楽に果てた後、私のこの指であなたのお尻の蕾を優しく開かせ媚薬を仕込んでメロメロになったところへ猛った私自身」ビシッ!
「やめろこの馬鹿!!」

僕の言葉を最後まで聞かず、エルデ・ケンプファー君はまたも暴走し、再度フェルディナンド君にチョップを喰らったのだった。
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