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第一章/馴れ初め
【回想】帝国の変化
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そうして僕らは、僕の母国を目指して進んだ。
途中の村で病気の人を治癒したり、壊れた水車を修理したりして路銀を稼ぎながら進んだ。
道中、野宿するのにいくつか小屋を建てたりもした。
勝手に建てたら怒られるかなと思ったけど、使いたい人という人がいたのでそのまま譲った。
魔物とも遭遇した。
聞けば魔界に帰る道を探しているというので、魔界に返した。
精霊にも会った。
僕に卵を産みつける代わりに何でも教えると言われたので、精霊界はどんなところか聞いてみた。
神様には会わなかった。
道中の神を祀る社はどこも荒れ果てていた。
何だか可哀想な気がしたので、子どもたちと掃除してみたりした。
そうやって、僕たちはこの国へ辿り着いた。
僕は子どもたちと一緒に自分が生まれた街へ戻り、老いた父と母に再会した。
すっかり大人になった弟と妹はすでに結婚しており、甥っ子や姪っ子とも会う事ができた。
ここまで来て、ようやく僕は「二度と追手は来ない」と確信できた。
追手を差し向けてまで僕を害そうというのなら、僕の家族はとっくに酷い目に遭わされているだろうから。
それから僕は、実家からほど近い農村へ向かった。
帝国の政策で農家は再編されて広い土地へ集められたので、昔ながらの農村には人の住まなくなった土地がいくらもあることを知っていたからだ。
僕はそこの村長さんにいくらか渡して、1つの廃屋と広めの畑を譲ってもらった。
それから、子どもたちに修繕魔法を教えながら住む場所を整えた。
土魔法で畑を耕し、植物魔法で種を蒔き、水魔法で水を撒き…
子どもたちに実地で魔法を教えていった。
生活しながら魔法を使い、時に治癒・結界…
年長の子を連れて、森へ魔物観察にも行くようになった。
嫌がらせもなく、事件も無く、ある意味塾にいた時より快適に過ごせた。
まともな食事が作れない日もあったけど、バイツ様から貰った豆を何とかやりくりして耐えた。
貧乏だけど楽しい生活…
だけどそれは、いつまで持つか分からない生活。
僕は一念発起した。
街に出れば治癒でお金が稼げるかもしれない。
僕は子どもたちに家を任せて、実家とは反対の街へ行った。
***
目についた治療院に入って話を聞く。
「治癒の仕事を探しに来たんですが…どこか人手を欲しがってるところはないですかね」
「あんた、治癒ができるのかい!?」
「ま、まあ、たまたま…」
「ちょっと助けてくれないかい、膝をやられた騎士さんがいるんだ…お代は払うからさ」
「あ、はい!」
僕は言われるまま治療院にいた膝の悪い騎士さんと、ついでに腰痛が酷いおじいさんも治した。
そのおじいさんの治療中、僕は気になる話を聞いた。
「最近、帝国のやり方も変わってね。
今まで麦を作っても殆ど持ってかれてたのが、半分以上残してくれるようになったんだよ」
「へえ…」
「そのおかげで、飢え死にするモンが減ってな…有難いかぎりさ」
「良かったですね」
そのおじいさんによると、5年程前に総督が新しく変わってから統治の方針が変わったらしい。
「そんでな、食い物を残す代わりに、優秀な子を帝国へ集めることになって、特別な学校が出来たんだよ」
「そうなんですか?」
「ああ、この国からすごい人が出たらしくてな…
そういう人を探して帝国へ連れて行くんだと」
「そうですか、そんな事が…」
そういう学校が出来たのなら、そこへ子どもたちを通わせられれば、子どもたちは大手を振って帝国へ帰れる。
何て魅力的な…まさに、渡りに船!
「…どこにあるんですか、その学校?」
「ああ、総督府の近くさ」
「へえ…そうだったんだ」
ここから総督府へは馬車で3日ほどだったはずだ。
幸い年長の子どもたちはみんな優秀だし、まだ学校に通えない歳の子だって好奇心の塊で素質がある。
行って話を聞いてみよう。
編入試験が受けられるなら受けさせてもらって、どの程度の学力が必要かをまずは知らなくちゃ…
僕は単純にそう考えた。
おじいさんが言う「すごい人」が、まさか自分の事だとは思いもしなかったのだ…。
途中の村で病気の人を治癒したり、壊れた水車を修理したりして路銀を稼ぎながら進んだ。
道中、野宿するのにいくつか小屋を建てたりもした。
勝手に建てたら怒られるかなと思ったけど、使いたい人という人がいたのでそのまま譲った。
魔物とも遭遇した。
聞けば魔界に帰る道を探しているというので、魔界に返した。
精霊にも会った。
僕に卵を産みつける代わりに何でも教えると言われたので、精霊界はどんなところか聞いてみた。
神様には会わなかった。
道中の神を祀る社はどこも荒れ果てていた。
何だか可哀想な気がしたので、子どもたちと掃除してみたりした。
そうやって、僕たちはこの国へ辿り着いた。
僕は子どもたちと一緒に自分が生まれた街へ戻り、老いた父と母に再会した。
すっかり大人になった弟と妹はすでに結婚しており、甥っ子や姪っ子とも会う事ができた。
ここまで来て、ようやく僕は「二度と追手は来ない」と確信できた。
追手を差し向けてまで僕を害そうというのなら、僕の家族はとっくに酷い目に遭わされているだろうから。
それから僕は、実家からほど近い農村へ向かった。
帝国の政策で農家は再編されて広い土地へ集められたので、昔ながらの農村には人の住まなくなった土地がいくらもあることを知っていたからだ。
僕はそこの村長さんにいくらか渡して、1つの廃屋と広めの畑を譲ってもらった。
それから、子どもたちに修繕魔法を教えながら住む場所を整えた。
土魔法で畑を耕し、植物魔法で種を蒔き、水魔法で水を撒き…
子どもたちに実地で魔法を教えていった。
生活しながら魔法を使い、時に治癒・結界…
年長の子を連れて、森へ魔物観察にも行くようになった。
嫌がらせもなく、事件も無く、ある意味塾にいた時より快適に過ごせた。
まともな食事が作れない日もあったけど、バイツ様から貰った豆を何とかやりくりして耐えた。
貧乏だけど楽しい生活…
だけどそれは、いつまで持つか分からない生活。
僕は一念発起した。
街に出れば治癒でお金が稼げるかもしれない。
僕は子どもたちに家を任せて、実家とは反対の街へ行った。
***
目についた治療院に入って話を聞く。
「治癒の仕事を探しに来たんですが…どこか人手を欲しがってるところはないですかね」
「あんた、治癒ができるのかい!?」
「ま、まあ、たまたま…」
「ちょっと助けてくれないかい、膝をやられた騎士さんがいるんだ…お代は払うからさ」
「あ、はい!」
僕は言われるまま治療院にいた膝の悪い騎士さんと、ついでに腰痛が酷いおじいさんも治した。
そのおじいさんの治療中、僕は気になる話を聞いた。
「最近、帝国のやり方も変わってね。
今まで麦を作っても殆ど持ってかれてたのが、半分以上残してくれるようになったんだよ」
「へえ…」
「そのおかげで、飢え死にするモンが減ってな…有難いかぎりさ」
「良かったですね」
そのおじいさんによると、5年程前に総督が新しく変わってから統治の方針が変わったらしい。
「そんでな、食い物を残す代わりに、優秀な子を帝国へ集めることになって、特別な学校が出来たんだよ」
「そうなんですか?」
「ああ、この国からすごい人が出たらしくてな…
そういう人を探して帝国へ連れて行くんだと」
「そうですか、そんな事が…」
そういう学校が出来たのなら、そこへ子どもたちを通わせられれば、子どもたちは大手を振って帝国へ帰れる。
何て魅力的な…まさに、渡りに船!
「…どこにあるんですか、その学校?」
「ああ、総督府の近くさ」
「へえ…そうだったんだ」
ここから総督府へは馬車で3日ほどだったはずだ。
幸い年長の子どもたちはみんな優秀だし、まだ学校に通えない歳の子だって好奇心の塊で素質がある。
行って話を聞いてみよう。
編入試験が受けられるなら受けさせてもらって、どの程度の学力が必要かをまずは知らなくちゃ…
僕は単純にそう考えた。
おじいさんが言う「すごい人」が、まさか自分の事だとは思いもしなかったのだ…。
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